209.正念場
《シェルジュSide》
主人であるセイ・ファートと別れた後、シェルジュは天空城から脱出する。
まもなく地上が見えてくるだろう。
こんなところで、天空城を爆発させるわけにはいかない、と主人は言った。
「…………」
正直、シェルジュは今すぐ爆破してよいと思っていた。
主と自分が脱出すればいい。そのあと、この星がどうなろうとどうだっていいと。
……だが。
「おねえちゃーん!」「しぇるじゅどのぉおぉ!」「皆頑張ってくださーい!」
シェルジュの高性能の目と耳は、地上で応援する奴隷達の姿を捕らえていた。
主人が買った奴隷達。
セイは彼女らをたいそう可愛がっていた。
が、自分はどうでも良いと思っていた。別に、と。
しかし旅を通じ、彼女たちに対して愛着を抱くようになっていた。
主と同じく、彼女らを愛おしい存在だと思ってる。
「マスター……」
セイ・ファートならば、なんとかしてくれる。
この危機を笑いながら、いつも通り、乗り越えてくれる。
シェルジュはそう信じていた。
人を信じる。まさに、それは人がする行動であった。
彼女は完全に被造物を脱却し、一人の【シェルジュ】という女になっていた。
「シェルジュ! 準備完了だよ!」
フラメルとリーンフォースが、巨大な結界を構築した。
かなり強固だ。これなら、足場にするには十分である。
シェルジュが結界の上に立つ。
「お二人は避難を」
シェルジュが一人で迎え撃つつもりだ。
「……私も手伝う」
リーンフォース、そしてフラメル師匠も立つ。
「三人でやろう。最後は、ど根性だ」
「…………」
フラメルに対して憎しみの感情を抱いている。
自分を作っておいて、長い間放置されたのだ。うらんでもしょうがない。
だが……。
「お願いします。今は、少しでも成功確率をあげたい」
気持ちをぐっと堪えて、シェルジュは二人に協力を要請した。
「人間になったね、シェルジュ」
「別に、あなたに褒められてもうれしくない」
「違いないや」
フラメル、リーンフォース、そしてシェルジュの三人は結界の上に立つ。
そして……墜ちてくる城に向かって手を伸ばす。
さぁ、正念場だ、とシェルジュは意気込むのだった。




