208.別離
馬鹿師匠とリーンフォースが外へ向かう。
私がこの城の制御室の、コントロールパネルをいじってると……。
ふわり、と誰かが後ろから抱きしめてきた。
「なによ、シェルジュ」
見なくてもわかる、うちのめんどくさメイドがいるのだ。
「……マスターは自分が犠牲になればいいとおもっています」
……やっぱりバレているか。
そう、私がやろうとしてるのは、転移の術式。
この城はすでに破滅へと進んでいる。これをどうにかするすべはない。
宇宙空間にこいつを転移させるしかない。
だがそのためには、この城を一度完全停止させること。
その上で、私が転移ポーションを使うこと。
「停止させなくてもいいじゃあないですか」
「転移しても運動エネルギーが消える訳じゃあない」
私ができるのは、成層圏のギリギリに転移させることだ。
転移した瞬間、運動エネルギーが残っていると、そのままこの星に城が落下する危険性がある。
こいつを、リーンフォースたちでこの城を完全停止させ、そのうえで、今設置している転移ポーションを発動させる。
「小シェルジュたちに、やらせれば」
「わるいね、転移ポーションは、作ったモノしか使えないんだわ」
ようは、私は最後までここに残っていないといけない。
「……死んじゃう」
……シェルジュが泣いている。
ああ、この子は完全に人間になったのだ。ただの魔導人形だったこのこが、人の死を悼む……人間に。
私は……うれしかった。自分の作ったモノでしか無かったこの子が、自分を越えてくれたことに。
師匠もこんな気持ちだったのかな?
まあ、何はともあれだ。
ここで無駄話してる時間は無い。
「大丈夫、私に秘策ありよ」
私は秘策を話す。
それを聞いたシェルジュが……あきれていた。
「……そんなことできるのですか?」
「できる。やる。だから……あんたは自分の仕事をして」
シェルジュが大きくため息をつく。
「ご武運を」
「おう! あんたもね!」
シェルジュは納得したらしく、城を出ていこうとして……。
振り返って、私に抱きついて、キスをしてきた。
……こいつ、唇に、キスを。
「絶対に帰ってきてくださいね」
「わ、わかってるよ……ほら、さっさといけ」
シェルジュのアホは出て行った。ったく……魔力供給でもない、単なるキスしよって。
私の初めてを奪いよって、ったく……。
まあ、いいか。別に。




