16.塔を守護するガーディアンとの戦い
私ことセイ・ファートは、気ままに旅をしている。
魔法ポーションのストックがなくなってきたので、師匠の工房を訪れることにした。
ただこの師匠の工房、【賢者の塔】は世の中では【悪魔の塔】と呼ばれてる、らしい。
私の寝ている500年の間に、いろいろと変化があったそうだ。
「さてとうちゃーく」
荒野のなかにぽつんと、天を衝くような高さの塔がそびえ立っている。
奴隷ちゃん達が空を見上げて、ほえー、と感心していた。
「……ここがセイ様のお師匠さまの工房?」
「そう。あの人高いところ好きだからさ。無駄に高い工房つくってるんだ」
バカとなんとやらは紙一重。
バカとなんとやらは高いところがすき。
まあつまりまあ、そういうことだ(?)。
「かような高い塔を上るのは苦労しそうでござるなぁ~?」
「なのです~……わわっ」
ラビ族のダフネちゃんが、見上げ過ぎて後ろにすっころびそうになる。
私は後ろから抱き留めてあげる。するとすりすり……とダフネちゃんがじゃれてきた。かわよ。
「だいじょーぶ、ポータルが中にあるから」
「ふむ? ぽーたるとはなんでござるか、主殿?」
「特定の場所に転移する装置ってところよ。師匠とその弟子【たち】しか動かせない仕組みだけどね~」
私たちは塔の中に入る。
エルフのゼニスちゃんが小首をかしげながら言う。
「……弟子、たち、というのは。ニュアンスからして、セイ様以外にもお弟子さまがいらっしゃるのですか?」
「いるいる。師匠は錬金術だけじゃなくて、いろいろ天才だからさ。弟子が結構いるのよ」
「……なるほど。兄弟弟子がいらっしゃると」
そういや、みんなどうしてるかしら?
まあ500年経ってるんだから、死んじゃってるのかも。まーそーよねぇ。
でも亜人の弟子も結構いたし、生き残ってるかも? だとしたら、様子見に行くのもありかなー。
「ここが塔のなかでござるかー」
「わわあ! すっごいたっかいのですー!」
内部は円筒形のホールが、どーんと上に伸びてる感じ。
螺旋階段が設置してあって、侵入者さんはここを上るしかない。
「……この階段、上まで上るのですか?」
「大丈夫大丈夫。ポータルこっちにあるから」
ホール中央の床に、1つの【魔法陣】が敷かれている。
不死鳥と灰。生と死を表すシンボル。
「……セイ様。これは?」
「師匠の……ニコラス・フラメルのサインよ。これがポータル。この上に本人や弟子が乗って、魔力を込めると、上まで一瞬で飛べる仕組み」
私たちが魔法陣の上に乗り、床に手を置く。
魔力を流し込んだ……そのときだ。
どがぁん! と上空から巨大な何かが落ちてきたではないか。
「わ、わわわあ! きょ、巨人なのですー!」
……鉄製の巨大な魔導人形が、塔の上から落ちてきたのだ。
しってる。これは、盗難防止用に師匠が作った、【守護者魔導人形】だ。
「……ポータル壊れてるじゃん!!!」
そりゃ工房も、500年たってれば経年劣化して、システムに不具合が出てくるかもだけどさぁ!
だーれも手入れしてないわけ!?
師匠も、弟子達も!?
もう! なにやってるのあいつらー!
「主殿! みな! 下がってくだされ! 拙者がやりますゆえ!」
守護者が腕を大きく振りかぶり、思い切りトーカちゃんめがけて振り下ろす。
「ぬぅうんん!」
トーカちゃんは長槍を両手でしっかりと持ち、その柄の部分で打撃を受け止める。
ごぅ……! と衝撃波が走る。トーカちゃんが踏ん張って相手のパンチを……耐えようとする。
「ぐ、もた……ぐわぁあああああああ!」
吹っ飛ばされたトーカちゃん。けれど空中でひらりと回転し、魔導人形の腕の上に乗っかる。
「トーカちゃん。これ飲んで」
ぽーい、と私はトーカちゃんにポーションを放り投げる。
彼女はそれを受け取ると、躊躇なく中身を飲み干す。敵の腕の上を軽やかに走っていく。
たん、と飛び上がって、トーカちゃんが魔導人形の顔面めがけて一撃を放つ。
「【竜牙突】!」
トーカちゃんの鋭い槍の一撃が、魔導人形の上半身をぶっ飛ばした。
衝撃波はそのまま塔の壁をぶち抜いて、やがて突風はやむ。
「トーカちゃんなーいす」
「う、うむ……あ、主殿……今のは?」
「え、ただの【身体強化ポーション】よ?」
飲むと体細胞を活性化させ、一時的に超人的な身体能力を得るポーションだ。
これも上級ポーションの一つであるので予備はない。
ただ工房についたので、最後の一本も使っていいかなって。
「す、すごいのです! とーかちゃんすごいのですー!」
わあわあ! とダフネちゃんが両手をあげて、トーカちゃんに抱きつく。
いやいや、とトーカちゃんが首を振る。
「主殿のおかげでござる! 拙者だけの膂力では、あのかったい魔導人形の体を貫けなかったでござるからな!」
「すごいのですー! おねえちゃーん!」
今度はダフネちゃんが、両手を挙げて私に抱きついてきた。かわわ。
よいしょと抱っこして、私はぐるんぐるんとその場で回転。ダフネちゃんは「きゃー♡」と楽しそうにしていた。特に意味はない!
一方でゼニスちゃんがじぃ、とぶっ壊れた魔導人形の破片を手に、首をかしげる。
「……せ、セイ様。この魔導人形の素材って、もしかして神威鉄ですか?」
「え、そうだけど?」
「……信じられない」
はて、とトーカちゃんが首をかしげる。
「ゼニス、おりはるこんとはなんでござるか?」
「……この世界で最も固いとされる鉱物ですよ。普通の人間で壊せる物じゃないし、加工するのも一苦労のはず」
「あらそうなの? それ、師匠に言われて私が作ったのよね」
愕然とするゼニスちゃん。
「え? 私なにか、やっちゃった?」
「……改めて、セイ様のすごさに驚嘆させられました。ポーション技術だけでなく、魔道具作成の技術もあるのですね」
「すっごーい! すごい、お姉ちゃんすごいのですー!」




