128.寒いシャレはやめなしゃれ
それは私たちがシチューを食べているときだった。
「ん?」
ぴくんっ、とウサギ獣人の少女ダフネちゃんが耳を立てる。
「どうしたの?」
「だれかが……近づいてくるのです!」
ダフネちゃんは耳が良い。
この猛吹雪のなかでも、人の足音を聞き分けられるほどには。
ってことはマジでここに誰かが向かってきてるってことね。
だるいわー。
「拙者が様子を見てくるでござる!」
「だーめだめ。トーカちゃんサムイの苦手でしょうに」
「しかし主殿のポーションのおかげで、寒さはへいちゃらでござるよ?」
「かわいいあなたに、寒い思いはさせられないわ」
「おお! 主殿ぉ……!」
ぺったんぺったん、と火竜人のトーカちゃんの尻尾がうれしそうに揺れる。
かわよ。
「シェルジュ?」
「つーん……」
うちの馬鹿メイドはまだご機嫌ななめのようだ。
やれやれ。
「パシリ2号、いけ」
「えー……外寒いんすけどぉ」
「口答えするな。いけ」
「ちぇー……自分もトーカさんと一緒で、トカゲなんすけど、サムイの苦手なんすけど」
ぶつくさ文句言いながら、パシリ二号ことヴィーヴルが馬車の外に出る。
ダフネちゃんが心配そうに身を寄せてきた。
スィちゃんも不安そうだ。
よしよし、と頭をなでる。
「大丈夫大丈夫。なにかあっても、私が爆裂ポーションで粉砕するから」
「「わー!」」
ややあって、ヴィーヴルが帰ってくる。
「だれそいつ……?」
やたらと小柄な男だった。
いや、待って。
見たことあるかも。
「ドワーフじゃ無い?」
「人間か……?」
ドワーフのおっさんが、寒さに震えながら馬車に乗ってくる。
「どうしたのあなた?」
「遭難してしまって……」
「そうなんだ……………………あ」
……な、なんか寒いギャグみたいになってしまった。
別にそういう意図はないんだけど……。
ちら、とトーカちゃんを見やる。
「へ、へえ……! そ、そうでござるかぁ!」
露骨に目をそらされた!
ゼニスちゃんを見る。
「……そ、それは大変でしたね」
また目をそらされた。
やばい、滑ったって思われてる。
違う違うの! そうじゃあないの。
そういうだじゃれ的なサムシングじゃないの!
「おねえちゃん……かわいそうなのです、このドワーフさん」
ダフネちゃんナイス。
流れを変えるチャンス!
「そ、そうね。じゃああなた、シチューでもいかが?」
「よ、よろしいのか?」
「ええ、まだあまりがあるからね」
まあなんでこんなおっさんに、貴重な食料を食わせないといけないんだ感はある。
でもさっきまでの寒い空気を打ち破るためには、話をそらす必要がある。
しかたないから、シチューを振る舞うと……。
「うんまぁああああああああああい! こんな美味しいシチューは、はじめてだぁ! 料理の革命だぁ……!」
と涙を流しながら、ドワーフがシチューを食べるのだった。
やれやれ……。
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先日の短編が好評のため、新連載はじめました!
タイトルは――
『伝説の鍛冶師は無自覚に伝説を作りまくる~弟に婚約者と店を奪われた俺、技を磨く旅に出る。実は副業で勇者の聖剣や町の結界をメンテする仕事も楽々こなしてたと、今更気づいて土下座されても戻りません』
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