マスコットも街へ行く
エドモンドの右腕、クロードという男は、一言で言えばハゲたおっさんだった。
利口そうで、やり手の雰囲気を持っている。
俺とクロードは、2人だけで馬に乗って原野を走り、エルフの里へ向かっていた。
「護衛はなくていいのですか?」
俺が聞くと、クロードはにかっと人好きのしそうな笑顔を浮かべた。
「護衛など、今回はいても無駄なだけです。無駄な物に金を払っても仕方ないじゃあないですか。」
信用されている、と言うことだろうか。いや、あるいは信用しているというポーズを見せたいかもしれない。
「なるほど。それなら何かに襲われるたびに護衛料でも貰いましょうかね。」
「襲われないことを期待していますよ。ユウトどのを護衛に雇おうと思ったら、かなり高そうだ。」
「相場程度で結構ですよ。」
「そうですか、それではお言葉に甘えて。実は手持ちが少ないものですから。」
クロードはそう言って笑った。
俺も笑ったが、内心でクロードを「魑魅魍魎」組に分類することにしていた。何がどこまで本当で真意何を考えているか分かったものではない。
俺はクロードを連れて里に戻った。
まず向かったのは人間たちの野営地である。
すでに簡素な柵は巡らせていた。
門は半分閉じられていて、守衛が2人立っていた。武器を携え、気楽にしてはいるが油断はしていない。さすが元兵士だった。
守衛は俺の顔を認めて、中に声をかけた。門がゆっくりと開いていった。
「お帰りなさい、ユウト様。」
「あぁ、ただいま。ベロア隊長はいるかな?」
「はい。」
「ありがとう。」
俺は門のところで馬から下りて馬を預け、中に入った。
中にはテントが並んでいる。ようやくいくつかの建物の建造に着手したというところで、住居がそろうのはもう少し先になるだろう。
俺は立ち並ぶテントの中で最も大きい、本営テントに向かっていた。居住のためではない、作戦指揮のための大きなテントだ。当面の村の中心として、建造計画を検討し進めるのにちょうどよかった。
ここにも守衛が2人立っていた。
ベロアは軍事的な命令系統ややり方を維持したままにしていた。
その方が混乱が少ないというのがその理由だ。男だらけの集団という通常の社会ではない集まりである。好き勝手にやらせてはまとまらない。
守衛2人は、俺の顔を認めるとびしっと居住まいを正した。
「隊長は?」
「中におります。」
俺たちが中に入ると、中にはベロアと、意外なことにルルフがいた。なにやら打ち合わせをしていたらしい。ルルフは街で人気のちびドラゴンゾンビ、セリスを抱きかかえていた。
「ユウト様。お戻りでしたか。」
ベロアが俺に気づいた。
俺が入ってきたことで打ち合わせを中断してしまったらしい。
ベロアは俺の次に一緒に入ってきたクロードを見て、少し驚いた顔をした。
「これは。お久しぶりです。」
クロードの方でも驚きを隠さなかった。
「ベロア百人長? 生きていたのか?」
「そう思われるのも無理はありません。」
2人の目線が互いを探るようだった。
「そのはげ頭、見覚えあるね。」
ややこしくなりそうな雰囲気を打破したのは、セリスの声だ。
「いきなり失礼な。私にはエルフに知り合いなど―――え、いやまさか今の声は。いやお声は。」
クロードは最初ルルフが言ったものと思ったようだが、すぐに記憶の引き出しが開いたらしい。
セリスは我関せず、自分のペースだ。
「たしかエドモンドのところにいた。えーと、クロード。」
クロードは、ものすごい勢いでその場に跪いた。
「私めごときを覚えていただき誠にありがとうございます、セリスフェル様。感謝の極みと言うほかありません!」
いや、なにそれ。慕いすぎじゃないのか、このマスコットドラゴンを。
「どうして彼が一緒なの?」
セリスの問いかけは俺に対してだった。
「エドモンドと手を組むかと思ってね。」
「貴様、セリスフェル様にその口の利き方は何だ!」
急にクロードが荒い。
俺が何か返すよりも早く、セリスから不機嫌なオーラがほとばしった。
「私が誰に何を許すかは、私が決めることのはず。」
クロードは全身を震わせた。
「も、申し訳ありません……。」
声すら震えている。
彼を魑魅魍魎組に分類したのは早計すぎたかもしれない。
「ユウトは私が殺し、そして私を殺した男だよ。そんな男には私と気軽に話す資格があると思わない?」
「仰せの通りでございます。」
「よくそれで納得できるな……。」
殺して殺され、たしかに対等といえば対等なのかもしれないが。
「何を聞いていたのですか。セリスフェル様が良いと言えば全て良いのです。」
「はぁなるほど。」
俺にはクロードがセリスにそこまで心酔するような理由が分からなかった。
確かに生前のセリスは恐ろしく強かった。
しかし、クロードやクレアッドの街の住人たちがセリスに絶大と言っていいほどの信頼を寄せているのは、強いからだけではないだろうと思われた。強い者への畏怖だけではないような気配がある。
「それで、ユウト様。ここへはどのような用事で?」
ルルフが話を本筋に戻そうとしてくれた。
「セリスの偽物が街にいてさ、本物はこっちだぞと見せてやらないといけなくって。」
クロードが大きく頷いた。
「セリスフェル様が殺されるはずなど無いと、私は正直に申し上げて疑っていました。しかしもはや真実は全て明らかになったと言ってよいでしょう。街にいるのが偽物、こちらのかわいくなってしまわれた方が本物のセリスフェル様です。街にいるのは、セリスフェル様にしては傍若無人さがありませんでしたから。」
判断基準そこか。
とはいえ理解してくれて良かった。
「私の偽物がいるの?」
セリスが反応した。
「はい。そっくりな偽物がおります。」
「ユウト、街には私も行くわ。」
セリスが宣言した。つまり決定事項である。




