神のご加護
俺たちはまずシダーイに紹介された商人のところに向かった。商人は小売りも営んでいるらしい、1階が販売店になっていた。店の者に紹介状を見せると、すぐに奥に通され、主人に会うことができた。
交渉と呼べるほどのものはなく、話はすぐについた。
「シダーイ先生のお墨付きなら喜んで買いますよ。」
「ありがとうございます。」
「いつでも持ってきてください。それとこれは相談なんですが、いくつか見かけたら採取しておいてほしいものがあるのですが。」
とんとんと話はすすみ、今度街に来るときにはまとまった量を持ってくるということで話がついた。
「まいどー、またよろしくー!」
店主に見送られて、俺たちは店を出た。
「さて、そしたら半死人探しかな。」
俺が意気込むと、ロゼリが『え?』という顔をした。
「……しないの?」
「優先順位的には一番低いやつだと思ってたのだけど、そこからいくの?」
「ちょっと待って。少し考える。」
俺は腕を組んだ。
薬草販売のつてはついたはずだ。他に何かやらなければいけないことはあっただろうか。
思い当たらない。
いやないはずはない。優先順位と言うからにはあるはずだ。
しかし思い当たらない。
「どうか教えていただきたい、軍師どの。」
少し悔しかったが、ここはやはり教えを請うことにした。
「今回の街に来た目的は、薬草販売のつてを作ることだったわよね。」
「うん。それはいま終わったろ?」
「それだけで、いま抱えてる問題はすべて解決する?」
「あ、そうか。」
言われて気がついた。
金がない、は一番大本の問題ではあるが、それが解決すればすべてなんとかなる訳ではない。売るだけでなく買う、運ぶ、といったことも必要だ。自分1人分ではない。人数が多ければそれだけ量も多く、大変になる。
インターネットで物が買えて勝手に運ばれてくる世界ってすごかったんだなと今更思った。
「買う方も必要か。そうなると……。」
俺はベロアリストを取り出し、眺めた。
「このリストにあるところからだと、まずこのグラフォードって人かな。そうだ、あとはリスト外だけどエドモンドって商人にも会いたいと思う。」
「面白いチョイスかもしれないわね。」
「だろ。この街を取るには必須かなと思ってね。」
「なるほど。どういうアイデアか聞いてもいい?」
「もちろん。」
俺はロゼリに今考えたことを話すことにした。まだ半分は思いつきレベルだ、ロゼリと話して細部を詰めたかった。
今後のことを考えると、クレアッドの街を手に入れることは最低限必要だ。食料や物資の問題はもちろんだが、このまま森に引きこもっていてはいつか攻め滅ぼされる。
セリスフェルを倒した、ということからかなり警戒されるはずだ。情報、兵力、周辺環境、そうしたものを整えてからの話だろうと予想されていた。
クレアッドの街の兵力は失った500を引いて2000。城壁もあり、何人か魔族もいる。今ある戦力でどうにかできる差ではない。
「ユウト様! ロゼリ様!」
ロゼリと念話で相談しながら歩いていると、突然声をかけられた。
この街で俺たちの名前を知っている者は非常に少ない。
振り返ると、街の入口で出会った神官だった。神官は中身の詰まった大きな布袋を抱えていた。
「おや、いつぞやの。」
「はい、その節は中に入れていただいてありがとうございました!」
神官は小走りに走り寄ってきた。
「その後どうですか、神のご加護はありましたか?」
「うーん、まぁあったかもしれない。」
目当ての薬草販売の件は非常にスムーズに解決したのだから。
「それはよかったです! お二人の仲の方はどうですか?」
「何か勘違いがあるようだから言っとくけど、俺たちは別に恋人じゃないからな?」
「そうなんです? 二人で旅をしているからてっきり恋人か夫婦かと思ったんですけど。」
そこで神官はロゼリの目線に気づいた。何の話をしているのやら、と言う目だ。
「もしかして、ロゼリ様は私の言葉分かってらっしゃらないですか?」
「そうだよ。分かってるのは俺だけ。」
「これは失礼しました! ユウト様が分かるようなのでてっきりロゼリ様も分かるものとばかり。えーと、スミマセン、私コッチの言葉慣れてナイなので。」
片言になった。異世界同時通訳すごい。
「いいわ、大丈夫。」
ロゼリはいつもよりゆっくり喋った。
「とりあえず、あなたの名前教えてもらえる?」
「ハイ、私シー・リーレイ。リーレイと呼んでくだサイ。」
「そう、よろしくリーレイ。その荷物は?」
「人に頼まれて買い物をしてたのデス。同じ出身の人でこの街の商人に雇われてる人イマス。」
「そうなの、じゃあ今はその商人のところに?」
「ソウデス。宿代払わないデス。」
「素晴らしいわ。なんていう商人のところ?」
「……人増える無理デスよ?」
「私たちは宿代持ってるから大丈夫よ。ちょっと話の分かる商人を探しているの。」
「そうでシタカ。」
リーレイは安心したようだった。
「商人はグラフォードさんデス。」
俺はロゼリと顔を見合わせた。
またしてもベロアリストに名前がある、先ほど俺が会いに行きたいと挙げた人物じゃないか。
次から次に伝手が都合良く飛び込んでくる。
「話をつけて貰うことはできないかな?」
「雇われている彼になら、たぶん大丈夫です。」
「その先は俺たちで話すよ。頼める?」
「お任せくだサイ。」
「よろしく。俺たちの宿は南鳩亭というところだから、決まったら連絡してくれ。」
俺たちはリーレイと約束をして別れた。
これでグラフォード氏の方はいったんリーレイの連絡待ちでいいだろう。あとはエドモンドの方だけとなった。
美味い調子に話が進んでいる。ある程度まとまったら一度里の方に戻ろう。




