戦後処理
戦いの終わったその日のうちから、俺は、一日中交渉と調整に時間を潰されることとなった。
最大の問題はオークたちだ。
300人ものオークを俺が面倒見なければならくなってしまったのだ。オーク達は俺が族長だと言って譲らないから、エルフとの話し合いは俺がやらなければいけないことになった。
「ふむ、つまり、焼けてしまった森の部分に畑を作りたいと、そういうわけですか。」
エルフの最長老が地図を広げて思案している。
エルフとオークでどう棲み分けるのか、と言う相談をしているところだった。
「では、こういう感じでどうかの?」
「いえいえ、最長老様。ここの所は譲れませんわ。」
もっとも、こういった細かい交渉はロゼリ頼みだ。
「では、ここをこう。」
「それならせめてこっちはこう。」
2人は地図の上に線を引いてなにやら牽制し合っている。
「むむむ、やむをえませんな。」
「ではそれでよろしいですね。」
どういう条件でかは分からないが、2人の話はまとまったらしい。
俺は俺の膝の上でうずくまる猫くらいの大きさの竜をなでた。
セリスフェルである。
胴体の方は今も氷の中にあるが、頭の方だけでアンデッド創成できたのだ。
アンデッドにしていいのかどうか悩んだのは確かだ。俺の仇だからというわけではない。
最後にオドケアスに操られて戦わされたということが俺を躊躇わさせる理由だった。
アンデッド創成を使い、<不死王の凱歌>が彼女を敵対者と判断すれば、従属化が行われる。あれほど嫌っている様子だったオドケアスに対して従う姿は、どこかかわいそうですらあった。それをもう一度従属させるのは、気の毒なように思えたのだ。
しかし、戦力はあった方がいい。
俺は罪を背負う覚悟でアンデッド創成を発動したところ、この通り、好き勝手に過ごす小竜ゾンビができあがった、というわけだ。幸いと言っていいのか、敵対者とは判断されなかったようだった。
元々蒼白かった体は、今はなぜかオレンジ色をしている。小さいから火力が弱いのだろうか。
「帝国を裏切るわけじゃない。手伝わないからね。」
と言い切って、寝ている。すぐに俺の膝の上を狙って来る当たり、たぶんこいつはいわゆるツンデレだ。
ロゼリがユウトのところにやってきて、セリスフェルを抱え上げた。
セリスフェルは一瞬なによ、と目を開けるが、ロゼリに抱えられたことがわかると、またすぐに目を閉じた。
ペットなのかな。
戦力を期待したはずなのに。
「勇人さん、話がつきましたよ。」
「ありがとう、任せっきりで済まない。」
どれくらいの広さの土地があればオーク達が食べていけるのか、俺にはその計算ができなかった。一国の姫であったロゼリの方が格段に詳しい。
「適材適所よ。晩ご飯は期待してるわ、シェフ。」
「腕によりをかけよう。」
俺たちは最長老の家から出た。
外ではゼルとシェーラが待っていた。二人して腕を組んで仁王立ちしていると、圧がすごい。
「土地は確保したよ。」
「さすがだ、族長。」
「よくやった、義兄さん。」
めんどくさいのが2倍になった気分だ。
「義兄さん、じゃないだろ……。」
「我が姉の夫なら義兄さんだろう? それともニホンコクでは違うのか?」
「一緒だけど問題はそこじゃない。まだ結婚するとは言ってないぞ。」
「なんだと。俺に勝っておいて、我が姉のどこが不満だというのだ。しかも一族を率いておいて今更それは卑怯だぞ。」
「不満とかそういうのではなくてね……。」
疲れる。
「まぁまぁ2人とも。その件についてはまだ解決しなければならない課題があるじゃない?」
ロゼリが間に入った。2人は顔を見合わせ、『なんかあったか?』と首をかしげた。
「アンデッドだから子供ができない、とかそう言うのは気にしないぞ。」
「何の問題もない。」
「そっちではないわ。問題は、誰が正室か、よ。」
ゼルとシェーラが『ぬかった……!』という顔をしている。
勝手にしてくれ。俺は思った。どいつもこいつも、俺が骸骨だから気楽に結婚するとか言ってるんじゃないだろうな。
レイフかルルフに見つかる前に話を終わらせて帰ろう。あの2人のどちらかにでも見つかると、さらに話がややこしくなる。この2人は『義務』の話であって好きとか嫌いではない部分があるが、あっちは若干本気だ。
「いいから、早く行こう。やること山積みなんじゃなかったのか?」
俺はさっさと歩き出して、オークの野営地に向かった。
オークたちは今、エルフ達が先日作った野戦陣地のあたりに野営地を置いていた。いまは総出で墓掘りをしているが、埋葬が終わったら村づくりに着手して貰うつもりだ。
最終的にオークの村は、防衛拠点としても使えるようにする予定だった。ふたたび軍勢が派遣されないとは限らない。むしろ将来的には必ずあるというのがロゼリの見方で、俺もそれに異論はない。
防衛のことを考えるならいずれは山に城を、とも思うが、セリスフェルのように空からの大火力攻撃がありうることを考えたら、シェルターのような、地下ダンジョンの方が役立つかもしれない。
このあたりは後々軍師ロゼリに相談していかなければならないだろう。
ベロア以下、捕虜にした150人の人間達は、ほとんどが俺たちに従うと言っている。
「このまま街に帰っても敗戦の責任で処刑されるだけだ。」
それがベロアの語った理由だ。
500の兵の多くを失い、ましてその戦場で皇帝の名代として君臨していたセリスフェルが戦死してしまったのだ。100%殺される、とベロアは考えていた。
それよりは、ここで俺たちに従っていた方が幸せをつかめる可能性がある。なにしろ俺たちは、セリスフェルを殺したうえアンデッドにして従属させている恐怖の軍団なのだ。
しかし、皇帝の名代で君臨とは。
いまのオレンジ色の愛玩動物と化したなりからは想像できないが、実は内政能力高いのだろうか。
手伝って欲しいが、セリスフェルにその気はなさそうだった。
「ぐんしー。」
俺は馬にゆられながら、ロゼリを呼んだ。
「はい、なんでしょう?」
「方法とかだいたい丸投げになるけど、あいつは、倒そう。人の上に立たせちゃいけない奴だ。」
「わたくしは、元々そのつもりでしたよ。お任せください、勇人様。」
ロゼリの言葉を聞いて、ロゼリに抱かれているセリスフェルが頭を上げた。
「オドケアスを殺すのだけは私も手伝うよ。」
「よろしく、セリスフェル。」
「セリスでいいよ。」
セリスフェルはふあ、とあくびを一つして、再び寝た。
「……アンデッドなのに何でこいつ寝るんだ?」
アンデッドなのに大食いな奴もいるし。世界は一体どうなっているのか。
「まぁまぁ。召喚されて初日に殺されてしまう勇者がいるくらいだから、そういうこともありますって。」
それを言われると肩身が狭い俺であった。
第1章、完!!!
ここまでお読みいただき、お付き合いいただいた皆様、ありがとうございました。
このまま2章に続きますが、2章はまだ途中なので、きりのいいここで評価していってくださいー!




