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異世界転移して初日に殺されてしまった俺は  作者: いつき旧太郎
第1章 普通っぽい勇者、普通じゃなくなる
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「助けていただいて申し訳ないが、アンデッドと判明した以上、そこから内側に入れるわけにはいきません。」


 レイフの口調は断固としたものだったが、敵意は感じない。


「いかにも、そうでしょうね。」


 俺はその場に静止して、肩をすくめた。

 アンデッドと分かっても仲良くしてください、など虫が良すぎる話だ。

 分かっていた話だ。


「それなら、我々の馬と荷物を外まで持ってきていただけますか?」

「分かりました。そのように。」


 レイフが矢を弓から外した。

 俺は元の位置に戻った。

 少し待っていると、レイフたちエルフの戦士団の者が俺たちの馬を引いて里から出てきた。

 戦士団の表情は硬い。

 俺たちはほとんど会話をせずに馬たちを受け取った。俺たちが馬にまたがって去ろうとすると、レイフが呼び止めた。


「ユウト殿、ロゼリ殿、ブレイ殿。里を助けていただき、感謝いたします。クエル山には今後もこれまで通り食料を送るよう話をつけましたので、どうぞよしなに。」


 他の戦士と比べると、レイフの言動には若干の余裕があった。

 敵対はしたくない、ということだろう。


「わかりました。まだオークが誓いを守るか分かりませんので、少しの間は近くにおりますが、よいでしょうか。」

「構いません。」


 俺は頷いて、馬を歩かせた。

 ロゼリとブレイ、さらに予備の馬たちがその後をついてきた。


『さて、どうしようか。』


 念話グループで相談を持ちかけた。


『水場と、見晴らしのいいところが近いところを探しましょう。』


 ロゼリの提案は全く的確だ。馬には水が必要だ。


『それだな。』

『何日くらいとどまるの?』

『そうだな、とりあえずはオークがこのあたりから去るまで、だろうな。そのあと根城に戻ろう。』

『いいわ。』


 手短に話し合いを終えて、俺たちは来る途中に見かけていた川を探した。

 適した場所はすぐに見つけることができた。

 空の上から探してしまえば、川も、見晴らしのいい場所も、見つけるのはたやすい。


 キャンプ地を決めて馬を休ませてから、俺はロゼリのための昼飯の用意を始めた。

 飛んでいる鳥を魔法で射落とし、血を抜き、羽をむしって、肉にする。鶏ガラはだしを取っていつものように汁物にし、肉は串焼きにしようと考えていた。


「勇人さん、なにか気になることでも?」


 ロゼリはたき火の脇に座って俺の調理の様子をじっと眺めていたが、ふと尋ねてきた。

 俺はドキリとした。


「あー、いや、昔のことをちょっと思い出してたんだ。」

「昔のこと?」

「こっちに転移する前のことだよ。」

「あぁ、いい仲の女の子でもいたの?」


 いきなり痛いところ突いてきた。


「そういうのはいなかったよ。」

「そう。」


 短く応じて、ロゼリはじっと俺を見た。

 聞きたい、と口には出していないが目に出ている。

 もちろん女性関係のことではないだろう。


「ずっと昔のことだよ。小学校のときの学芸会で、クラスで劇をやることになったんだ。小学生のやる劇だから、内容は童話の延長みたいな単純なものなんだけど。」


 俺は調理を進めながら、話し始めた。

 ロゼリは静かに聞いている。ロゼリには分からない単語が多いだろうが、口を挟まずに聞いてくれるようだ。


「誰が何の役をやるか、くじ引きで決めることになった。俺は運良く、主役になった。ヒロインはクラスで一番かわいい子。クラス中の男子の羨望の的さ。」

「まぁ。主役とはいいわね。」

「そういうわけでもないんだ。周りのプレッシャーがすごいし、主役は、クラス一の人気者だった片桐君が狙っていた。そこで男子からも女子からも、嫌がらせのスタートだ。」


 俺の台本がどこかにいくなんてのは序の口で、練習で自分から間違えておいて俺のせいにするとか、微妙に聞こえるように片桐君が良かったと言うとか、最終的には堂々と片桐君のほうが適任だ、と声を大きくして言い出す始末だった。


「片桐君は形ばかりなだめるけど、本気でそれをどうにかしようとはしなかった。ヒロインの子も、いつも困ったような顔をするけれど何をするでもない。結局、事態を収拾できなくなって、担任の先生が片桐君に主役をやらせることにしてトラブルを収めた。」

「それで、勇人さんは何の役をしたの?」

「片桐君がやるはずだった、村人Cの役。台詞は一つ、なんでもない平凡な役だよ。」


 まさに平均的、というやつだ。


「それだけの話だ、なんてことない昔話だね。」


 俺は、話は終わりだ、とばかりに串に刺した肉を焼くことに専念した。

 ロゼリはじっと俺を見ている。


「勇人様。」

「なんでしょう。」

「私には馴染みのない言葉が多すぎて、内容を正しく理解できているか自信がないのですけど、わたくしは、勇者が勇人様のような方で良かった、と思っておりますよ。」

「……。」


 返す言葉が一瞬詰まった。


「いや俺は、」

「はいそれ、禁止です!」


 ロゼリが言葉をかぶせてきた。


「いま自虐しようとしましたでしょう? それするなら私も自虐はじめてどん底勝負しますけど、いいですかー!? わたくしの方がどん底ですよー!?」


 腰に両手を当ててぷんすかしている。


「……よくないです。」


 俺が答えて、ようやくロゼリは笑った。


「そう言うなら、勝負はやめて差し上げます。さ、そろそろ焼き上がる頃ではありませんか?」

「あたり。さすが食欲の権化、タイミング分かってるねぇ。」


 俺は1本目の串をロゼリに差し出した。ロゼリは早速くらいついた。


「そりゃあもう、やり残したこと全てやり尽くさないといけないんだから。」

「専属シェフとして頑張らせていただきます。」

「頼みましたわ。」

『ロゼリ様、ユウト様』


 ブレイから念話が入った。ブレイには今、馬の世話をして貰っていた。


『どうした?』

『エルフが、レイフ殿とルルフ殿が来ておりますが、いかがいたしますか。』


 俺はロゼリと顔を見合わせた。何をしに来たのだろうか。


『連れてきてください。』

『は。』


 まもなく、ブレイが二人を連れてきた。俺とロゼリは、座ったままで迎えるのは失礼なので、立って出迎えた。


「先ほどは失礼いたしました。」


 最初に口を開いたのはレイフだ。


「いたって普通の反応だと思う。構わないさ。それで?」

「それは、その、こうして恥を忍んで来たのは……。」


 レイフが言いよどんでいる。


「我が妹、ルルフのことです。長老達が協議したのですが、たとえユウト殿がアンデッドといえど掟は掟。これ以上里の中にいることは許されないと譲らないのです。」

「はぁ。」

「アンデッドかどうか、というのは関係ないものなのですか?」


 長老達というのはそんなに頭が固いのだろうか。


「それはその、その結論に至るまでにいろいろな理由があるのですが、ルルフが、その、大事なところを譲らなかったのです。」


 歯にものが挟まっているような言い方だった。


「お兄様、私から。」


 見かねて、ルルフが口を出した。


「う、頼む。」

「はい。さて、ユウト様。里がこのような結論を出した理由ですが、掟としては、他種と婚姻した者が里に滞在することを許しておりません。その理由は、そのまま居着いてしまうことからくる混血化の危険を避けるための掟であると考えられております。このことは以前お伝えさせていただいたかと思います。」

「あぁ。」


 確かに聞いた。


「つまり、里での滞在が許されるかどうかは、混血の危険があるかどうか、すなわち、夫婦としての営みをしているかだ、という議論になりました。そこで長老様の奥様から私が確認されましたので、した、とお答えしました。」

「……。」


 してないし。


「そうであれば、結論を動かすことはできない、ということで、私は里にいられない、ということになったんです。」

「えーと、ルルフさん?」

「なんでしょう。」

「その嘘つく必要あった?」


 ないんじゃないだろうか。してない、といえばそのまま以前のようにエルフの里で生活することができたはずだ。


「ありました。」


 ルルフはなんの疑問もない様子で断言した。


「そうなのか?」

「そうです。むしろひどいのはユウト様の方です。なぜ私を連れて行かずに里を去ったのですか。」

「そりゃあ、その方が、幸せなんじゃないかと思って。」

「ありがとうございます。しかし、私はそうは思いません。私は、命を賭けてお手伝いさせていただく、とお誓いしました。どうか、その誓いを守らせてください。」

「レイフさんは、いいのですか?」


 俺はレイフの意見を求めに逃げた。


「私は、ルルフが幸せなら、それで。」


 いろいろと我慢している顔だった。個人的には一緒にいたいのだろう。


「……わかったよ。アンデッドのそばにいたいとは、物好きなエルフだな。」


 俺が受け入れると分かると、ルルフは笑顔になった。

 反対にレイフは渋面になった。


「ありがとうございます。なにせ私、アンデッドの妻ですから。」


 それはあくまで設定の話な。

 言葉を返そうとしたところで、気配察知スキルがこちらに向かって駆けてくる気配を察知した。

 一人だ。


「私の部下です。」


 俺たちが気配を察知したのに気づいて、レイフが教えてくれた。

 すぐに、一人のエルフが駆け寄ってきた。


「レイフ様。」

「どうした?」

「緊急です。里にお戻りください。」

「オークか?」

「いえ。オーク達は、先ほど北に戻り始めたのを確認しました。」


 それは朗報だ。しかし、緊急の用事は別のことなのだろう。


「構わない、教えてくれ。」

「は。里に人間の部隊が近づいてきております。」

「数は?」

「偵察中ですが、およそ500。」

「500……だと……。」

 レイフの顔から血の気が消えた。


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