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異世界転移して初日に殺されてしまった俺は  作者: いつき旧太郎
第1章 普通っぽい勇者、普通じゃなくなる
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発覚

 

 互いに距離を詰め、一瞬で間合いに到達した。


 ゼルは中段、やや斜め下から俺の胴めがけてなぎ払ってくる。

 俺はその大剣めがけて上段から剣を振り下ろした。

 大剣と剣が打ち合わされる。

 金属と金属がぶつかる甲高い音がした。武器の質量差にもかかわらず、俺の剣はゼルの大剣をしっかりと受け止めた。


 俺は即座に手首を返した。このままゼルの首を狙おうというのだ。


「ぬんっ」


 しかし、ゼルが大剣に力を込め、大剣を振り抜こうとした。

 俺は力押しに弾き飛ばされ、体勢を崩されてしまう。

 俺は大剣の力の流れに合わせながら、飛び退いて距離を取った。


 ゼルが追撃してきた。

 大剣がうなりをあげて振り下ろされてくる。

 俺はその攻撃を横に跳んでかわした。

 すぐに大剣が切り返され、俺を追ってきた。


 かわす。

 さらにゼルの攻撃が立て続けに振るわれる。


 俺はよけるので精一杯だった。

 合間に踏み込んで反撃をしようとするが、ゼルにうまく牽制され、しのがれてしまう。


 こいつは、強い。

 俺は思わずにはいられなかった。攻撃は鋭く、乱れることもない。


 実を言えば俺は、アクションゲームが少し苦手だった。

 剣の使い方については、スキルが勝手にこなしてくれているからなんとかなっている。しかし、立ち位置やどう戦うかの大きな方向性といったところは俺自身の頭で決めなければならない。

 アクションゲームの才能が必要な部分だった。


 どん。

 ゼルの攻撃をよけたところで、何かが背中に当たった。

 何かと思って思わず見ると、エルフの里の周りに打ち付けられていた杭だった。


(いつの間にこんなところまで!)


 俺は驚きを隠せなかった。

 自分が今どのあたりで戦っているかの意識がなかったのだ。

 好機とみたゼルが渾身の攻撃を繰り出してくる。


 よけられない。


<シールド>


 俺はとっさに魔法の盾を形成し、大剣を受け止めた。しかし<シールド>ではゼルの攻撃を受け止めきれず、盾がぱきんと砕けた。


 大剣が左腕を打つ。

 俺は右へと大きく弾き飛ばされ、転倒した。

 追撃があるはずだ。俺は急いで起き上がった。


 ゼルは追撃せず、さきほどの場所で構えを解いていた。


「お前、俺をなめてるのか?」


 ゼルは怒気をあらわにしていた。


「なにがだ?」


 俺はそう返しながら、自分の状態を確認した。

 左腕はついてる。痛みはないが、HPがすこし削られたようだ。

 左腕を動かすのに支障はない。

 おそらく、骸骨の体で筋肉がないから、攻撃を受けても動きを阻害されることがないのだろう。


「本気で戦っていないだろう。集中していないぞ。」


 ゼルの指摘は正しい。

 俺は今も骸骨の体の上に幻影を乗せて人間のふりをしている。この魔法の常駐維持に集中力を持っていかれているのだ。

 とはいえ、これを解くということは、スケルトンであることを明らかにするということだ。


「これには理由があってね。別にお前をなめてるわけじゃないんだ。」

「ふん。どっちでもいいが、どうする?」


 どうする、とは本気を出してくるのかどうか、という問いかけだ。


「……。」


 俺は悩んでいた。

 ゼルは強い。

 このままでは負けてしまうかもしれない。しかし、スケルトンであることを明らかにすれば、勝ったところでエルフたちがどういう対応をしてくるか分からない。


「勇人様!」


 ロゼリの声がした。ちらりと目を向けると、ロゼリは何をいうでもなく、ただ真剣なまなざしでこちらを見ていた。

 ロゼリが俺を様付けで呼ぶときは、姫モードの時だけだ。

 ロゼリが姫なら、俺は勇者。

 負けることは許されない。もう、二度と。


「わかった、ゼル。お前は強い。なら、俺も全力でお前と戦おう。」


 幻影を解いた。

 頭髪と皮膚など、保たれていた外形が、光の粒子となって消えていく。

 骸骨の頭部が、腕が、誰からも見えるようになった。


 戦いを見守っていたオーク達の隊列が揺らぎ、どよめいた。背中の方、エルフの里の中でもざわめきが起こっているのが聞こえた。

 ゼルも驚いた顔をしている。


「スケルトンだったのか。」

「だったら、何だ?」


 俺が剣を構えると、ゼルも大剣を構えた。


「何も。これが一騎打ちであることには何の変わりもない!」


 ゼルは吠えて、俺との距離を詰めてくる。


<身体強化><光剣><集中強化>


 ゼルを待ち構え、俺は強化魔法をかけた。<集中強化>の効果が発揮され、ゼルの動きがスローになった。

 ゼルの動き自体が遅くなっているのではない。

 集中力を高め、俺の思考を加速させることで、俺の体感時間を引き延ばしているのだ。思考する時間が稼げるため、アクションゲームが苦手な俺でもすこしはましな立ち回りができる。

 間合いまであと3歩。それなら。


<エアリアルエッジ>


 風の刃を放った。俺はその刃の後を追うようにゼルに向かって踏み込んだ。

 ゼルは大剣の腹で<エアリアルエッジ>を受け止めた。風が散った。

 ゼルは大剣を翻して俺を向かい打つ。

 ゼルの体勢に少し無理がある。俺はステップバックして大剣をよけると、次の攻撃魔法を放った。


<ファイアアロー・トリプル>


 空中に炎の矢が三本生じ、ゼルめがけて一斉に飛んでいった。

 さぁどうする。

 大剣一本では防ぎきれない。無理に良ければ体勢が必ず崩れる。俺は追い打ちをかけるため、腰を深く沈めた。


 ゼルは俺の予想を裏切った。

 炎の矢をよけきれないとみるや、大きく踏み込んで、俺めがけて大剣を振り下ろしてきたのだ。

 炎の矢がゼルの体に突き刺さるが、ゼルの巨体は止まらない。

 俺は真上から振り下ろされる大剣を剣で受け止めた。

 大剣と剣が押し合い、力比べになった。

 魔法で強化した俺の筋力は、ゼルの馬鹿力にも負けていない。力が拮抗した。


<フラッシュ>


 俺の剣がまばゆい閃光を放った。目くらました。大剣を押し込んでくる力が緩んだ。

 そのすきに俺は剣で大剣の方向をそらし、右足でゼルの胴を蹴った。

 格闘術のスキルだ。


「ぐっ」


 ゼルの体が揺らいだ。

 クリーンヒット。

 俺は剣を振るい、ゼルを追い詰めていく。

 ゼルもさすがだ。フラッシュの閃光を受けて目が万全ではないだろうに、的確に俺の剣を防御してみせた。

 何合か切り結んで、俺は剣ではゼルを崩せないことを悟った。


 それなら。

 俺は剣を大地に突き刺した。

 ゼルは俺が魔法を放つと思ったのだろう、させまいと大剣で仕掛けてきた。


<コネクトファイバー>


 俺は魔法を伝達する光の糸を剣に繋いでおき、飛び退いた。離れたところで魔法を発動させるには、そこまで何らかの方法で伝達してやらないといけない。そのための魔法だ。


<アイススパイク>


 突き刺さったままの剣の周囲の地面から、十数本もの氷の棘が生えた。俺の動きを見ていたゼルには死角からの一撃になる。

 氷の棘がゼルの足を貫いて絡み、足の動きを止めた。


<大水球>


 俺は直径1メートル程度の水の球を生成し、ゼルめがけてふわりと投げた。攻撃力を持つほどの速度ではない。ゼルが左手で水球をはじこうとした瞬間、水球ははじけ、ゼルの体を水で濡らした。


<氷結>


 俺は魔法の糸がつながったままの剣を通して、その水を凍らせた。ゼルの体を氷が覆い、動きを奪った。

 首から上だけは氷に包まないようにした。


「ぐっ。ぬっ。」


 ゼルは力を入れて氷を砕こうとするが、力が一点に集まらず、身動きが取れない。


「お前の負けだよ、ゼル。」


 俺は右手の平をゼルに向け、宣言した。


「俺はここからどんな魔法でも使ってお前を殺すことができる。負けを認めろ。」

「オークの作法では、一騎打ちはどちらかが死ぬまで終わりではない。やってみろ。」


 ゼルの顔は晴れやかだ。死中に活を求めるという雰囲気ではない。覚悟を決めた、というほうが正しいのだろう。


「断る。俺たちアンデッドにとっては、生も死も等しい。もう抗えない以上、お前はもう、死んでいる。」


 俺の言葉を聞いて、ゼルはじっと考える様子を見せた。


「なるほど。すると俺はお前の基準でいうと死んでいることになる。つまり、一騎打ちは終わりだと言いたいわけか。」

「そうだとも。」

「お前、アンデッドのくせに面白いことをいう奴だなあ。」


 ゼルが笑った。


「そうかね。」

「そうだとも。だがしかし、やはり俺はオークだ。俺は俺のルールでしか戦えん。」


 最後の交渉も決裂したことが分かった。


「……わかった。何か言い残すことはあるか?」

「一族の未来は頼んだぞ。」

「そのクエスト、受けよう。」


 せめてあまり苦しまないよう殺してやろう。

 そう考えて俺は、二つの魔法を使うことにした。


<スリープクラウド>


 眠らせる効果のあるガスを発生させ、ゼルを寝かせた。その後で、もうひとつ。


<氷棺>


 ゼルを包む氷が大きさを増し、残されていた頭部も氷に包み込まれた。

 氷はさらに温度を下げ、すぐにゼルの生命活動を止めるはずだ。


 待っていると、<不死王の凱歌>がゼルの体でアンデッド創成を実行可能なことを告げてきた。

 死んだのだ。

 俺は氷漬けになったゼルの姿を眺めた。


 豪快ないい男だったと思う。

 この男がアンデッドになるのは見たくないな、と思った。このまま寝かせてやりたかった。

 俺は少し感傷に浸った後、オークの立会人の方を見た。

 シェーラの顔は弟が今殺されたばかりにもかかわらず、淡々としていた。


 俺はロゼリとブレイの近くに戻った。

 ロゼリが微笑みを浮かべて、しかし何も言葉にはせずに出迎えてくれた。

 俺は再びシェーラを見た。

 シェーラは淡々としているが、背後のオーク達には動揺が広がっている。横目で互いの顔を見合わせ、この先どうするのか、どうなるかと目配せし合っている。


「シェーラさん、ここは遺体を引き取って退いてくれ。エルフを襲うのは許さない。」

「……総員、撤退するぞ。カルゲラの隊は、残って我が弟の遺体をお運びしろ。」


 シェーラがてきぱきとオーク達に指示を出していき、オーク達が退いた。

 シェーラはその間じっと俺のほうを見て、警戒を緩めなかった。

 オーク達が全員撤退した後、シェーラも身を翻して森の中に消えた。


 俺はエルフの里に向き合った。

 柵の内側にいる者達の表情は分からないが、見張り台に乗っている戦士団の顔に浮かんでいるのは警戒だ。

 俺もあっちの立場だったら警戒するだろう。なにしろ骨だけのアンデッドだ。


 俺は飛行魔法を発動させ、浮き上がった。

 ゆっくりと里に向けて移動していく。

 柵の内側で槍を構えていたエルフたちが、じり、と後ずさりした。


「ユウト殿、そこまでで。」


 レイフが弓を引き、狙いを俺に合わせていた。




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