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異世界転移して初日に殺されてしまった俺は  作者: いつき旧太郎
第1章 普通っぽい勇者、普通じゃなくなる
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オークの族長

 

 翌日、オークたちはまだ日が高く昇らない間にやってきた。


 オークが隊列を組んで行進してくる。族長ゼルは、今日は陣頭にたって大剣を背負い悠々と歩いている。矢が飛んでくる可能性などまるで意に介していない、図太い態度だった。


 それを俺たち3人は柵の外で出迎えた。


 やってくるオーク達は130人ほど。数にして40倍。


 もちろん、柵の内側ではエルフたちがいるが、昨日の戦いで備えていたほとんどの矢を消耗している。折れていない矢は回収して再利用しているのだが、数は少ない。


 そこで考え出されたのがこの戦術だ。

 作戦名『城外無双』。

 俺が思うに、これはもう戦術ではない。

 戦いのジャンルをリアルタイムストラテジーからアクションゲームに変えようというのだ。


 作戦の構造はシンプルだ。

 防柵の外側で俺とロゼリ、ブレイができる限り敵を引きつけて戦う。

 エルフの戦士団はそれを弓矢で援護。矢が足りない一般のエルフたちは、オークが柵を越えてこようとしたときに対処する。

 以上。


 兵力の少なさ、矢の残数の少なさを個人の武力で補おうという作戦なのである。

 外で戦うことになる身としては無謀だと叫びたくなる。

 しかし、ロゼリとブレイが自信ありげなのだった。


「ブレイが70、勇人さんが50、私が30で、ほらお釣りでますよ!」


 だそうだ。その足し算の根拠はといえば、


「昨日見た感じ、それくらいはいけるじゃないですか。」


 とくるから、俺には不安しかない。


 俺たちの姿を認めたオーク達が行進を止めた。

 明らかに俺たちを警戒している。

 俺はすっと一歩前に出た。


「族長ゼル! 話がしたい!」


 戦いに先立って、俺は交渉を試みるつもりだった。エルフたちにも、俺たちが一番危険なところをやるのだからと了解を取り付けてある。

 ゼルは俺の顔をじっと見た後、隊列から一歩前に出た。


「聞いてやろう!」


 1人で距離を詰めてくる。

 俺も1人で歩いていき、俺とゼルはちょうど中間で向かい合った。

 ゼルの体は大きい。

 身長は俺よりも3割ほど大きく、2メートルは超えているだろう。強靱そうな体に意志の強い瞳。族長にふさわしい堂々たる男だった。


「それで、話とはなんだ。」

「お前達はなぜエルフの里を攻撃するのか、聞かせてほしい。」

「あん?」


 ゼルは一瞬なぜそんなことを聞くのか、と怪訝そうな顔をしたが、答える気にはなったようだった。


「決まっているだろう、俺の部族が生きるためだ。」

「なんでエルフの里を攻撃することが、部族が生きることにつながるんだ?」

「食い物がないからだ。」

「エルフを攻撃しなくても、食糧を確保することはできるんじゃないのか?」


 ゼルは声を上げて笑った。


「今の時期ならな。しかし冬が来たらどうだ。恵みが足りなくて備えが足りなくなるかもしれない。そのときになってから戦おうとしても遅いのだ。」

「冬か。」


 このあたりの冬はどんな感じなのだろうか。俺にはその知識がなかった。


「冬だ。祖父の代、父の代に比べて、最近は冬が長い。必要になる蓄えもより多く必要だ。北の国ではもう生きていくことができないほどだ。だから俺たちは南の地を求めてきた。ここでも食料が足りなくなるのはごめんだ。」

「食糧の問題はなんとかする、と約束してもか。」

「オークは他種族の施しを受けない。恵みは勝ち取らなければならない。」


 ゼルはかたくなな口調で言った。譲れないルールであるようだった。


「俺の方からも少し聞かせてくれ。お前は、戦いを避けたいのか?」

「そうだよ。」


 俺がたやすく肯定したのが意外だったようだ。


「わからんなぁ。見たところ、お前も、あの2人も、相当強いだろ。それでなぜ戦いを避けたがる?」

「避けられる戦いなら避けた方がいいに決まっているだろ。」


 ゼルは、ぽかん、と口を開けた。


「変わった考えの持ち主だな。そんな考えの奴には初めて会ったぞ。エルフどもも同じ考えなのか?」

「これは俺の、俺だけの考えだ。」

「ふむ、そうか。ふむ…。」


 ゼルは腕を組んでしばらく考えた。


「よし、決めたぞ。ユウト=アマノ、俺はお前に一騎打ちを申し込む!」


 ゼルは大剣を掲げ、その切っ先を俺に向けた。


「なんでそうなる!?」

「受けるかどうかは自由だが、受けないのなら我らは全軍で突撃する。」


 そう宣言されては、俺は受けるしかないのではないか。


「つまり結局は戦うことになる訳か。」

「そうだな。一騎打ちにお前が勝ったなら、我がシグリルの一族はお前に従おう。もし俺が勝ったら、そうだな、エルフどもはこの勝負に乗りそうにないから、お前の後ろの2人、その2人は俺たちの戦いの邪魔をしない、という条件でどうだ。」


 つまり、俺が勝てばエルフの里を守れる。負ければエルフの里は陥落させられる、ということだ。

 エルフの里は、俺たち抜きで防衛ができる状態ではない。


『俺は受けようと思うが、どうだろうか?』


 俺はロゼリとブレイに念話で確認した。


『お受けください、勇人様。』

『異論ない。』


 意外なほどたやすく同意が得られた。決まりだ。


「俺が負けた場合の条件だけど、抵抗しない者には手を出さない、というのも約束してくれ。」

「敗者をどうしようと勝者の自由なはずだが、いいだろう。武器を手にせず抵抗しない者は、このあたりからは去って貰うが、傷つけないことを約束しよう。それでどうだ?」

「ではそれで。」


 俺が頷くと、ゼルは獰猛な笑顔を浮かべた。


「よろしい。一騎打ちの条件は成った。ニホンコクに一騎打ちの作法はあるか? なければ俺たちの流儀でやらせて貰うが。」


 一騎打ちの作法。

 源平合戦のころにはたしかやぁやぁ我こそはと名乗っていたと何かで聞いたが、それくらいの知識しかない。

 任せてしまおう。


「名乗るってルールがあるくらいだ。任せるよ。」

「わかった。では双方立会人を1人ずつ出す。我らの立会人は、副族長にして我が姉、シェーラが務める。シェーラ!」


 ゼルに呼ばれて、オークの隊列の中から女のオークが抜け出してきた。頬に大きな傷跡があり、歴戦の風格を漂わせている。


「立ち会いを頼む。そちらは?」

「私が務めましょう。」


 ロゼリが一歩進み出た。


「よろしい。」


 ゼルはそう言って大きく息を吸い込んだ。


「我こそは大いなる山の神にして戦の神よりシグリルの一族を預かる、ゼル=ヴィック=ラザールなり!」


 辺り一帯に響き渡る大音声だった。

 ゼルは名乗りをあげ、大剣を天に掲げた。


「今、ここに、我が敵との間で一騎打ちにて戦を決する約定が成立した! 我が敵である強者(つわもの)よ、そなたの名は何だ!」


 俺は大きく息を吸い込むふりをして、拡声の魔法を発動させた。


「遠からん者は音にも聞け! 近くば寄って目にも見よ! 我が名はユウト=アマノ。遙か異界より勇者たれとして呼ばれ来たる者なり! 義によって、エルフの里に助太刀に参った!」


 剣を抜いた。


「よかろう、ユウト=アマノよ! そなたが勝ったときには、我が一族全てがそなたに従うことを誓おう!!」


 ゼルが宣言すると、オーク達がこぞって雄叫びを上げ、盾で大地をたたいた。大地が揺れた。


「いいだろう、ゼル=ヴィック=ラザール! お前が勝ったときには、お前達が無抵抗の者に手をかけない限り、我らはこの先の戦いから手を引くことを誓おう!」


 これで一騎打ちの条件はエルフの里にいる者全てに聞こえたはずだ。


「立会人は、一騎打ちの勝敗が決した後、我らが誓いを果たすことを誓うか!?」

「我が神にかけて誓いましょう。」


 とはシェーラ。


「我が父、我が母、我が誇りにかけて、誓いましょう。」


 とはロゼリ。


「いざ、戦神よ、照覧あれ。」


 ゼルが俺に向けて大剣を構えた。


「いざ、尋常に。」


 俺も剣を構える。

 少しの間視線が交錯し、俺とゼルは同時に大地を蹴った。


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