会見
レイフにはばれている。
ばれているのであれば、事実を言うしかない。
「嘘は言っていません。我々は、クエル山の賊を打ち倒したのです。そうしたところ、ルルフさんから、里を助けてほしいと頼まれたのです。」
「そうでしたか。首領はどうなりましたか?」
「殺しました。」
そう告げたところ、レイフは少しほっとしたようだった。
「それはありがたい。しかし残念です。私が殺してやろうと思っていたのですが。」
「それはなぜです?」
助けを求めておいて殺すつもりとは穏やかではない。
「なぜって、ルルフは私の妹ですよ?」
当たり前だろどこに不思議があるんだコノヤロウ、という雰囲気がした。
(あー。そういう。シスコン的な。)
考えてみれば、ルルフは村を助けるために売られたようなものなわけだから、怒るのももっともだ。
彼が知っているかどうかはともかく賊の首領は助けに来るつもりがなかったようだから、殺される理由も十分にある。
「なるほど。理解しました。」
「理解していただいて何よりです。それならこのあと私が言うことも理解していただけると思うのですが、」
と、レイフは一瞬足を止めて振り返ってきた。
「もはやこの里にはいられないルルフは、当面の間かもしれませんがあなたのところにいるしかない。不幸にしたら、泣かしたら、手を出したら、必ず殺しに行ってやる。」
「お兄様!」
目が本気だ。さすがにルルフが咎めた。
これは、俺はどういう反応をするのが正解なのだろうか。
「まぁまぁレイフさん。」
ロゼリが口を挟んできた。
「ご安心ください。勇人さんは私にぞっこんなので、他の女には見向きもしません。」
いつそんなことになったのか。
「なるほど! それなら安心です。ユウト殿、大変失礼いたしました。」
首をかしげているのは俺だけで、しかもどうやらロゼリの対応で正解のようだった。
この流れでは笑って許すしかない。
「いえ、まぁそれだけルルフさんを大事に思っている証拠でしょう。」
はは、と乾いた笑いが出た。
ちらりとルルフの方を見たら、『恥ずかしい兄でごめんなさい』と顔に出ていた。
「ありがとうございます。それで、これは私からのお願いなのですが、どうか長老達にはクエル山の賊を倒したことは伏せておいていただきたいのです。」
再びレイフが歩き始めた。
俺たちも元々そのつもりではあったが、そう頼まれるのは予想外だった。
「なぜです?」
「長老達は、いま、善意で人間が自分たちを助けるということを決して信じられない状態でしょう。」
利害で助けている、という方が信用できるということだろう。
「分かりました、構いませんよ。」
「ありがたい。」
「レイフさんは、私たちを疑わないの?」
聞いたのはロゼリだ。
「私ですか。私はルルフを連れてきていただいている時点で信じてますよ。疑ったところで、あなた方3人を止める力は今の里にはありませんし。」
「素直ですね。」
「私は戦士ですから。それに、ロゼリ殿にはどこか高貴な振る舞いが感じられます。そうした方は、小ずるい手は使わないでしょう。」
「あら。聞いた、ユウトさん。わたくしお姫様みたいですって。」
みたいもなにも本当に姫だ。
さっきから妙にロゼリがちょっかいを出してくる。なんだこれ。
「はいはい、ロゼリ姫様、お遊びはその辺にしていただけると臣は光栄に存じます。」
俺は軽く返しておいた。
そう話している間に広場に着いた。
広場の真ん中に5人の年老いたエルフが固まって座っている。
着ているものが他のエルフと違うから、彼らが長老なのだろう。
レイフが長老達の前に進み出て、頭を下げた。
「オークの軍勢はひとまず撃退いたしました。おそらく日を改めて再度攻めてくるかとは思います。こちらは、クエル山から援軍にきたユウト殿、ロゼリ殿、ブレイ殿です。」
レイフは、俺たちを紹介してくれた。
「よく来てくれましたな。」
長老達の顔は渋い。全く歓迎されていないのが明らかだった。
(これは間違いなく賊の一味だと思われてるな。)
俺は予定通り賊のふりをする。小学校のクラスの劇で村人役をやって以来の演技だが、経験があるというのは心強い。
「代金を先にいただきましたからね。」
長老たちが苦虫をかみつぶした。
「それで、首領は来ないのか?」
「首領?」
聞き返しはしたのは用意した話の流れのためである。
「ブルドットだ。」
「あぁ、あの男。」
と、俺は自分がブルドットより格上だと示しつつ。
「あれは外向けのニセの首領だよ。調子に乗るところがあるからちょうどよくてね。ほら、あいついかにも粗暴だろ?」
「と、いうことはお前が本当の首領なのか。」
疑わしそうな目が俺を観察しだしている。
「そうなるからあいつを首領ってことにして押し出してるんだよ。」
やれやれ、と肩をすくめて見せた。
「ルルフ。お前から言ってやれ。」
「は、はい。」
ルルフはガチガチに緊張していた。
「どうやらそう、みたいです……。」
緊張しすぎて嘘が露骨だ。少し震えている。
幸いいまのところ長老達はルルフの緊張を別の意味で捉えているようだが、フォローしておかないとばれてしまうかもしれない。
「そうじゃないだろ、ルルフ。」
俺は無造作にルルフの肩を抱き寄せた。
「お前は、俺の、何だ?」
「つ、妻です……。」
ルルフが言った瞬間、あちこちから殺気が飛んできた。
長老達や聞き耳を立てているエルフたちはわかるとして、レイフからも殺気が漏れている。一番強烈だ。
(お兄様、あなた真相知ってるよね?)
とはいえ、これでルルフの震えは別の意味に取ってもらえただろう。俺へのヘイトは増えたが。
「と、いうわけだ。それで、急いできたんで、そろそろ休みたいんですけど?」
「それでは私の家をお使いください。」
言ってきたのはレイフだ。
善意ではないだろう。自分のところで監視する、という申し出だ。
「よろしいでしょうか?」
レイフは長老達に許可を求める。
「そうだな、それがよいだろう。そうしてくれ。」
「はい。それと、このような状況です。我が妹も我が家に泊めてよろしいでしょうか?」
長老達は顔を見合わせた。本来なら外の者に嫁いだルルフは里の中で寝ることは許されない。しかし、レイフが今言ったように里の外にはオークがいるという緊急事態だ。
「よかろう。特別に許す。」




