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「フィーリングカップルの年齢制限は高校生以上から。中学生以下はクイズのみ参加可能、ということにしましょう」


 黒谷は迷うことなく、即断した。


「え、じゃあ写真撮影とかは?」

「クイズに全問正解したら特典の優待券はあげてもいいけど、カップリングに参加しているわけではないから、写真は無しの方向でいいじゃない?」

「そ、そうか。まあ、それが妥当な判断かもな」

「んん?灰倉、何か企んでる?もしかして、女子中学生とカップリングになって、一緒に写真を撮りたいとか思ってる?」


 勘繰って、そして、茶化すように黒谷が言う。

 変な誤解を生まない為にも、ここはひとつ、反論せねばなるまい。


「中学生?はん、馬鹿言え。そんな反抗期真っ最中の生意気な年頃の奴に、興味なんかあるわけないだろう。そういう風に受け取られるのは心外だな、全く」

「まあ、そうだよね。灰倉だって、そこまで馬鹿じゃないもんね」

「知り合いの幼女が遊びに来るから、せっかくなら一緒に写真くらい撮りたいなって思っただけだ」

「いや、より一層危ない発言をしているって、自分でわかってる?」


 黒谷が冷ややかな目でこちらを見る。

 そんな視線など慣れっこな俺は、気にすることなく話を続ける。


「しかし困ったな。クイズのみってなったら、どうやって幼女を楽しませたらいいんだ?」

「そもそも、うちのクラスは幼女を楽しませるような企画じゃないから、そんな悩みは不要だと思うけど」

「俺に幼女を見捨てろと言うのか?」

「そんな正義の味方風に言われても。というか、なんでそこまで幼女にこだわっているの?それに知り合いって、幼女と知り合う時点で事件性を感じずにはいられないんだけど」


 本格的に文化祭の準備が始まり、バタバタと騒ついた放課後の教室が一瞬静まる。

 多分『事件性』と言うワードに反応したのだろう。


 俺の前の席に座る黒谷が「大丈夫、何でもないから」と周囲を促し、教室はまた元の喧騒を取り戻した。

 会話を訊かれても面倒なので、俺は周囲を警戒するように小声で黒谷に言った。


「ちょっと待ってくれ。俺の名誉の為に言っておくが、事件性なんて全くないぞ。その幼女と知り合った時だって、ちゃんと白川がそばにいたし、俺はその子をもてなす為に、こうして真面目に取り組んでいるんじゃないか」

「……ああ、なるほど。そういうことね」


 黒谷は顔に手を当て、呆れるように言った。

 え?今の説明で理解できたわけ?


「灰倉が急にやる気を出してるからおかしいと思ったんだよね。最初は白川さんと何かあったのかと思ったけどーーーーーうん。何となく、把握出来た」


 なんだか黒谷は勝手に色々と納得しているみたいだった。


「えっと、何やら俺の意図を汲み取ってもらえたのはありがたいけど、変な誤解はされてないよな?」

「じゃあ、答え合わせしてみる?」


 そう言って、黒谷は導き出した答えを語り出した。


「この前の会議の後、教室に残された白川さんと灰倉は『何らか』のきっかけで買い出しに出かけることになった。そこで買い出しに必要な備品が売っているお店の他に、カプセルトイが置いてあるアミューズメントフロアにも寄った。幼女と知り合う可能性があるとすれば、その家族連れの多いアミューズメントフロアの可能性が高い。まあ、ほかのフロアで迷子になっている、という可能性もあるけど、この場合、どこで知り合ったのかは特に重要ではないから、そこの追求は置いておくね。そこで、『何らか』の事情で幼女とその保護者と知り合い、今度の文化祭にその子が来ることを知る。それを知った灰倉は無駄に年齢制限を引き下げて、合法的に幼女と文化祭を満喫する為にやる気を出している、ってことくらいかな、私が把握できたのは」

「………」


 とんでもない名探偵がここにいた。

 おかげで、途中から読んだ人も、内容を忘れちゃった人も、近々きんきんのエピソードくらいは対応できそうなあらすじになっていた。

 そんなところまで意識をしていたかどうかはわからないが、いずれにせよ、こいつのスペックが異常なのは疑う余地もない。


 それに、やけに『何らか』の部分にアクセントを置いていたのが気になる。

 いらぬ追求をされそうで怖い。


「……何でさっきまでの会話でそこまでわかるんだよ。だいたい、買い出しに行ったとか、カプセルトイのこととか、俺は何も言ってないぞ」

「白川さんとは学校から貸し出される備品と、こっちで用意する備品の話を会議の前にしていたから、買い出しに行くなら白川さんかなと。それに、買ってきた備品をなぜか灰倉が持ってきていたし、さっきの灰倉の『白川がそばにいた』と言う発言からもわかるように、二人で買い出しに出掛けた、と結論付けるのが妥当かなと。まさか白川さんがそんなにすぐ行動に移るとは、私としても誤算だったけど」

「ん?誤算?買い出しに行くのが早かったってことか?」

「あ、ううん、別に、そういうわけじゃなくて。部活がなかったら、私も一緒に行ったのになあって思っただけ。誰かに押し付けちゃうのも悪いし、そもそも、白川さんには備品のリストを確認しておいてって頼んだだけだったし」

「ふうん。じゃあ、白川が独断で買い出しに行くと決めたわけか……」


 確かに、週明けには本格的な準備が始まる予定ではあったけど、そんないきなり独断で買い出しに行くと決めて良かったのだろうか?

 うーん。

 わからん。


 ……まあ、いいか。

 あいつの考えていることなんて、俺に理解できるはずもない。

 この前だって、白川の言動に散々振り回されたんだ。

 考えるだけ無駄な気がする。

 下手な勘繰りはよそう。


「で、カプセルトイのことは何でわかったんだ?」

「ああ、それは休み明けに白川さんが突然、カバンにだらけぐまとおじさんのストラップをつけてきたからね、それで気づいたよ。だらけぐまストラップはアミューズメントフロアにあるカプセルトイにしか置いてないから、買い出しついでに寄ったのかなって。そうすれば、その問題の幼女と知り合う可能性も上がるだろうと思ってね」


 全く、大した観察眼と推理力だ。

 と言っても、黒谷自身はこれを真実としているわけではなく、あくまでも自分の推論だ、としている。

 例え俺がそれを正解だと言っても、黒谷は信じない。

 黒谷にとって、自分が見たものこそ、真実なのだから。


「相変わらず、凄いな、お前は」

「別に、凄くなんかないよ」


 そしていつも、彼女は決まって、こう言う。


「見ていればわかることだよ」


 罰が悪そうに、少し嫌そうに、彼女は言う。

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