表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
40/56

037

 移動した先は、女性物の下着屋さんだった。


 ピンクを基調としたファンシーな内装で、フリルのついた可愛らしいものから、大人っぽいレースの下着まで手広く揃った店舗だった。


 バスケで養った視野の広さと動体視力のおかげか、一瞬にして店舗の品揃えを把握することが出来た。

 俺の観察眼もなかなかのものだ。


 いや、誇っている場合じゃない。


 いくら売り物とはいえ、女性物の下着が大量に並んでいるお店を前にして、堂々としていられるほど、俺の心臓は強靭じゃない。


 女性店員さんからの視線が痛い。

 完全に不審者を見るような目だ……。


「こんなのはどうかしら」


 そう言って、白川は自分の胸の辺りに上下セットになったキャミソールを掲げ、俺の方を見る。


 その下着は純白、と言っていいほど真っ白な色味をしていて、店内の照明を反射するように、キラキラと輝いていた。

 それは決して派手ではなく、一見して、可愛らしいという感じなのだが、良く見れば見るほど、その可愛さの中にも、半周回って若干の大人っぽさまで感じられた。

 その一因として、布地がシルクの滑らかな質感だったことも、要因の一つと言えるだろう。

 余計な刺繍は施されておらず、その控えめな印象は白川のスラッとした体型にとてもよく似合ーーーーー


 いや。

 何を事細かに描写しているんだ、俺は。


「何か感想は?」


 問い詰めるように、白川が言う。


「さ、さあ、知らねえよ」

「ふうん。じゃあ、これは?」


 次に選んできたのは、黒い下着だった。

 黒、と言うだけで、セクシーさは格段に跳ね上がる。

 先程のキャミソールとは違い、白い糸で複雑な模様の刺繍が施されており、白川の白い肌と相まって、下着の黒がより一層際立ーーーーー


 いや。

 もういい。


 これ以上は色んな意味で、支障をきたしそうだ。

 白川の問いかけを誤魔化すように、俺は言った。


「……なんで俺は下着屋にいるんだろう」

「あなたが私と離れたくないって言うからでしょ」

「ついて行くとは言ったけど、そういう意味で言ったんじゃない」

「どっちも同じような意味じゃない」


 そうかもしれないけど。

 ニュアンスが全然違う。


「というか、なんで下着屋なんだよ。俺がいないときに選べばいいだろ」

「なんでって、サービス回だからに決まっているじゃない」

「いや、だからそういうことを言うんじゃない!」


 こんなの、俺が知っているラブコメじゃない……。

 どこにサービス回を自覚している登場人物がいるんだ。

 そんなんだから、馬鹿馬鹿しくなって、読者に呆れられるんだ……。


「そうは言っても、これは読者にではなく、買い出しに付き合ってくれている、あなたに対してのサービスなのよ」


 いたずらに、茶化すように、白川は言う。


 発想が、斜め上だった。

 もう、わけがわからない。


「い、いや、お前、お礼のつもりなら、もっと他にあるだろう……」

「あなたならきっと、喜んでくれるだろうと思ったのだけど」

「……一体、俺をなんだと思ってるんだよ」

「え?変態でしょ?」

「俺の印象はそれしかないのか!」


 真顔で言われた。

 思ったよりも、白川にとって、俺が変態だというレッテルは根深いようだった。

 まあ、初対面で脚をジロジロ見られたことを考えれば、仕方のないことかもしれないが……。


 そうは言っても、俺としてはあれ以来、白川に対して出来る限り真摯に対応してきたつもりだ。

 やましいことは何一つない……はずだ。

 やはり第一印象を覆すのは、簡単なことではないらしい。


「それで結局、あなたはどっちの下着がいいと思う?」


 白と黒、二つの下着を掲げ、こちらに視線を向ける白川。


 異性のクラスメイト相手に、下着を選んだことのある奴がいたとしたら、教えて欲しい。

 誤解されずに乗り切れる、スペシャルな返答の仕方を。


 果たしてこの世に、そんな強者つわものみたいな男子高校生がいるのか、甚だ疑問ではあるが。


 きっと、答えた時点で、誤解されないわけがない。

 どっちにしろ、こんなのは最初から、無理ゲーだったのだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ