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036

 駅近くの中心街は田舎の割に栄えている。

 病院に薬屋、ファストフード店やファミレスが点在し、学校近くにはカラオケ屋やラーメン屋がある。


 今日、俺達が訪れるのはそこではない。


 駅の裏手にある4階建ての大型商業施設。

 1階にはスーパーやフードコートが展開されていて、各階にはファッションや生活雑貨など様々な店舗が併設されている。


 大型といっても、都会のショッピングモールなどに比べたらだいぶ小規模で、入っている店舗数もそれ程多くないが、地元民には昔から親しまれている街のシンボル的な場所だ。

 その一角にある100円均一の店へ、これから向かうのだ。

 

 雑貨や便利グッズが100円で買えるという、懐事情に厳しい高校生にとってもありがたいその店で、必要な備品を買い揃えてしまおう、という予定ーーーーーだったのだが。


「で、なんで本屋にいるの?俺達」

「なんでって、買いたい本があるからよ」

「ちょっと待て。100均へ行くんじゃないのか?」

「そんなの、後でもいいじゃない……じゃなくて、荷物が多くなるのは最後に行くのが効率的でしょう?だから、最後に行くのよ」

「ん?ああ、まあ、それならそれでいいけど」


 何やら言い直したところが気になるが、まあいいか。

 効率的、という響きに弱い俺は、何の疑問も持たず、あっさりと納得してしまっていた。


 その後、服屋、雑貨屋、そしてまた服屋、と店内を右往左往していた時のことだった。


「……また洋服見るのか?」

「ここのブランド、割と好きなのよね」

「ふうん」

「これなんて、どうかしら」


 そう言って、白川は黒のミニスカートを持ち、サイズを確かめるように自分の腰に当てた。

 途端、白川の生足を見た日のことを思い出す。


 スカート。

 黒ニーソ。

 白い生足。


 そして、現界する『絶対領域』。


 強大な欲望。

 内なる願望。


 果たして僕は、どんな未来を選ぶのかーーーーー。


 劇場版、あの日見た白川の生足を僕は忘れない。


 来春、公開予定ーーーーー。


 いや。

 公開はしない。

 

 こんなの、絶対公開したらダメだ。

 壮大感を演出して、自分のよこしまな妄想をバトル映画っぽく誤魔化してみたけど、全然誤魔化しきれていない。


 むしろ、俺の欲望が全国にだだ漏れしそうな勢いである。


「少しは感想くらい言ったらどうなの?」

「え?あ、いや、うん。いいんじゃない……か、と思う、よ?」


 しどろもどろだった。


「童貞の灰倉くんには刺激が強かったかしら。そういえば、あの日も私の脚、見ていたものね」


 何やら、見透かされているような気がしてならない。

 こいつ、マジでエスパーなのか。


「まあ、冗談はさておき。あの時は本当に、こんな風に灰倉くんをいじめることができるなんて、夢にも思わなかったわ」

「………」


 普通にいじめるって言っちゃったよ、この人。

 なんかいい台詞っぽいけど、全部台無しだ。


「なんか違うわね…。いじめる…じゃなくて、さげすむ…、見下す…」

「いや、それ言い直す必要ある?」


 もうすでにメッタ打ちである。

 暴言のクリーンナップ。


「言っておくけど、これは全部『いい意味で』ということよ。こんな風に言い合えるような人なんて、そうそういないのだから」


 む。

 そう言われると、なんだか悪い気はしない。


「まあ、大抵の悪口は最後に『いい意味で』と付けておけば、丸く収まるのよ」

「お前は本当に容赦がないな!いい意味で!」

「なるほど。遠慮はいらない、という意味ね」


 皮肉が伝わらなかった。

 日本語って難しい。


「灰倉くん。私、まだ寄るところがあるから、どこかで休憩しててもいいわよ。用が済んだら、そっちへ向かうから」

「ん?いや、ここまできたら別に俺のことは気にしなくていいって。ちゃんとついて行くから」

「……そう。まあ、あなたがいいなら、それでもいいけど」


 ーーーーー?

 なにやら歯切れの悪い返事だった。

 その理由は、すぐにわかった。



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