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023

灰倉悠はいくらゆうくん、君を呼び出したのは他でもない。我らが秘密組織、SAO団に入団する気はないか?」


 そいつは眼鏡をクイッと直し、超絶カッコイイ台詞を放つ俺超カッコイイ、とでも言いたそうなほど自慢げな雰囲気をかもし出し、作られたような不敵な笑みを浮かべ俺に尋ねた。


 帰り際、駐輪場を歩いていたところ、見覚えのない男子生徒数人に呼び止められ、人気ひとけのないところまで移動してきた結果がこれだ。


 どいつも背丈は俺と同じくらいで特徴のない顔、色白で活発そうな印象は毛ほども感じず、運動部などではないことは一目瞭然。

 こんな風に馴れ馴れしく話しかけてくる奴なんてそうそういない。

 そんな奴がいたら流石に覚えているはずだ。


 同じクラス……のような気もするが、もしかしたら違うかもしれない。

 とはいえ。


 何言ってんだ、こいつ。


「え?悪い、なんだって?」

「だから、SAO団に入らないかと聞いているのだよ、灰倉くん」

「は?」

「そうか、君は今追われる身だったね。無理もない。そんな状況では理解も難しいだろうね。すまなかった」

「いや、そうじゃなくて」

「だが、安心してくれ。SAO団に入れば君の安全は保障しよう」


 だめだ。全然聞いちゃいねえ。

 もう面倒だから無視して帰ろう。


「ちょ、ちょっと待ってくれ!話だけでも聞いてって!」


 お前は訪問販売業者かよ。怖えよ。


「いや、部活の勧誘とか間に合ってるんで。それじゃ、俺はこれで」

「あくまでシラを切るつもりなのだな、灰倉くん。ならば仕方ない。この手は極力使いたくなかったが、やむを得まい」


 そう言って、リーダーと思われる眼鏡の男は勝ち誇った笑みを浮かべながら言った。


「灰倉くん、君、この前白川さんと自転車で二人乗りしながら下校していたね?」

「な、なぜそれを……」

「僕らの情報力を侮らないでほしいね」

「……どこでその情報を手に入れた?」

「それは残念ながら教えられないな。組織の機密に関わることなのでね。まあ、君が入団してくれるのなら話は別だがね」

「……そうか、なら仕方ないな。じゃあ、俺はこれで」

「えーっ!何で帰っちゃうの!そこは僕らの組織に下るところでしょう!」


 めんどくせえなこいつ。


「さっきから何なんだよ、お前ら。入団しろだ何だって。大体、そのSAO団って何の組織だよ。部活か何かじゃないのか?」

「よくぞ聞いてくれた。SAO団は秘密組織ということもあってあまり公にはできないのだが、仕方あるまい。話せば長くなるが、事の始まりは……」

「帰る」

「ちょ、ごめんなさい!謝るから!謝るから最後まで聞いてください!」

「全く。前置きはいいから早く質問に答えろ」

「あ、はい。すみません」

「で、SAO団って何?」

「ふふふ、では発表しよう」

「その喋り方もやめろ。話が進まない」

「あ、はい。すみません。SAO団は白川(Sirakawa)綾音(Ayane)を応援(Ouen)する団の略称で、主に白川さんのことを影から支える組織なんです」

「は?」

「だから、白川さんを影で支える組織です」

「いや、それは聞こえてるから。で、何で白川なわけ?」

「何でって、灰倉くん。見てわかるでしょう!彼女こそ、この世界に現れた女神!あの白い肌、艶やかな黒髪、冷徹な視線、透き通った声、もう白川さんマジ天使ブヒィィィぃでしょうが!」

「いや、知らねえよ。俺に同意を求めんな」


 女神か天使かどっちかにしろ。

 それに内面はただの悪魔だから。

 残念だったな。


「まあ、平たく言えば白川のファンクラブみたいなものってことか?」

「ふふ、灰倉くん。僕らをそんな次元の組織と一緒にされるのは心外だね。こう見えて、僕らの組織は歴史が古くてね、事の始まりは……」

「喋り方」

「あ、はい、すみません」

「で、何で俺がその組織に勧誘されているわけ?」

「そうだった。これを見てくれ」


 そう言って、眼鏡の男が差し出したスマホには、ある画像が映し出されていた。


「こ、これって……」

「そう、これは先日、君が先輩たちから白川さんを救い出したときの写真だ。これはツイッターにアップされていたものだが、この瞬間、我々も現場にいたのだ」


 それから眼鏡の男は、組織として白川を守れなかった事、自分たちの不甲斐なさによる後悔や懺悔ざんげ、俺に対する感謝などを延々と語り始めた。

 かいつまんで言えば、俺の行動がこいつらに評価され、白川にふさわしい相手がついに現れた、などと到底理解できないぶっ飛んだ結論にいたり、そこで俺のことも白川と同様応援することにした、と言うのがSAO団の主張だった。


「言ってる意味がよくわからないんだが」

「予言書にはこう書かれていた。『やがて世界には救世主が現れ、彼女を導くだろう』とな」

「ちょっと待て。予言書って何だ」

「僕の兄が残していったものだ。門外不出の秘伝書の為、いくら君でも見せることはできないがな」

「あ、そう」


 ただの痛い兄弟だった。


「まあ、急いで答えを出す必要はない。じっくり考えてみてくれたまえ」

「いや、だから入らないって言ってるだろ」

「まあまあ、そう言わないで。あ、そう言えば自己紹介がまだだったね。僕は一組の貴琉院岳斗きりゅういんがくと、キ◯トと呼んでくれ」

「いや、お前それ色々な意味でアウトだろ。本名を言え」

「だから貴琉い……」

「本名」

鈴木利之すずきとしゆきです」

「めちゃくちゃ普通な名前じゃねえか」


 二次元から一気に三次元に戻ってきたような感覚がした。

 ただのこじらせた奴だった。


「貴様!団長に向かってなんてことを!」

「いいんだキョンくん。このくらい、屁でもない」


 おい、お前もか。


「しかし……」

「いいんだ。では灰倉くん、今回はこのくらいにしておくことにするよ。時間をとらせてしまって悪かったね。何かあれば、この秘密組織、SAO団を訪ねてくるといい。君のことも白川さんと同様、見守らせてもらうよ。では、また会おう」


 こうして、SAO団なる組織は去っていったのだった。


 何と言うかもう……。

 本当、ごめんなさい。

 次会ったら、こいつらの幻想をぶち壊して訂正させます。

 色んな意味で、俺は組織に狙われる存在になったのは間違いなかった。


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