表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【本編完結】ワケあり事務官?は、堅物騎士団長に徹底的に溺愛されている  作者: 卯崎瑛珠
第四章 別離?? 決意!? 溺愛!!

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

65/75

63 キーラの葛藤(ロランside)


 

 タウンハウスのキッチン。

 シャワーを浴びて、キーラの様子を見に来たら、なんだか思い詰めていたので、声を掛けた。


「忘れてあげるから、全部吐いちゃいなよ」

「うん……あのね、もう結論をヨナさんに伝えなくちゃなの」

「そうだね」


 帰り支度をすると、伝えられている。

 試合が終わったら……本格的な帰国準備に入るだろう。

 

「私……レナートと離れたくなくて……」

「うん。話してみた?」

「ううん……まだ……勇気がなくて」


 とキーラは俯く。

 

「言うだけ言ってみたら良いんじゃないの?」


 ――すると、長い沈黙になった。

 でも僕は、辛抱強く待ってみた。

 そうしたら、ものすごく躊躇った後で、ポツポツと言葉が出てきた。

 

「……今日、ね。レナートが……まるで、知らない人みたいで……」

「ああ。戦うところなんて、見る機会ないもんね。怖い? 嫌いになった?」

「ううん」

「じゃあ、レナートの知らない一面に戸惑ってるって感じかな」

「! きっと、そう」

「その人の全部を、いきなり把握するのなんて不可能だよ。僕だってキーラに見せてない所いっぱいあるし。キーラもでしょ?」


 キーラが、何度も瞬きをする。


「好きな人って『特別』な存在だからさ。なんとなくキーラの気持ちは分かるけどね」

「好きな人……特別……そっか。私、私の知らないレナートが、嫌だったんだ……!」


 ぱあ、と視界が開けたような顔になった。

 

「なら、これからまた知っていけば良いんじゃない? 好きな人のことを深く知るって、楽しいことだよ」

「深く知るって、楽しい……うん、うん、そうだね!」

 

 キーラの手を引き寄せると、手先が冷たかった。


「あの堅物の本心を、この際ちゃんと聞いた方が良いよ」

「でも、レナートに、幸せでいてほしいの。悩ませたくないの」


 ――すごいなあ。


 キーラは騎士として戦うレナートが眩しくて、邪魔したくない気持ちが勝って、何も言えなくなっちゃったんだって。

 ただ欲しいと言ってしまえば良いのに、決してそうしない。

 むしろ我慢する癖が付いたのは、貧しい漁師の老夫婦に拾い育てられたからか、と思い至り、唇を噛み締めすぎて、じんわりと鉄の味が口腔内に広がる。

 

 人のことばっかり考えて、我慢して、遠慮して。そんなことしてたら、将来君自身が壊れちゃうよ。


 だって、世界は暗くて黒くてドロドロで、欲しがりだらけなんだからね。


「もう一生会えなくなるかもしれない。それでも良い? 後悔しない? どうせ最後になるのなら、嫌われてもなんでも、全部ぶつけてみれば?」


 キーラが目を見開く。

『最後』という言葉は、余程衝撃だったようで、それから「そっか、最後……会えなくなる……」と、泣き始めた。


 キーラ、泣かせてごめんね。でも僕はレナートにも幸せになってもらいたいんだよ。僕はずるい大人で、レナートは僕の――大事な恩人だからね。


「ひっく、ひっく、ごわいけど、後悔しだぐない」

「うん。大丈夫だよ、見守っているから」


 ――初恋なんだもんね。悩んで、迷うよね。……羨ましいな。


「ありがと、ロラン」

「えっへん。なんたって、お兄ちゃんだからね」

「んふふ!」

「特別だよ、僕のお姫様」


 ぎゅって抱っこして、そのまま横抱きで寝室へ連れて行ってあげた。

 キーラは、お姫様ってすごいね! なんてキラキラした顔をしていたよ。ほんと可愛いなあ。今度はレナートにしてもらいなね。

 

 泣き疲れたキーラを寝かせて、水でも飲もうかとキッチンに下りたら、ちょうどレナートが帰ってきた。


「すまん、遅くなった――キーラは?」

「思ったよりだいぶ早かったね。今ちょうど寝たところ」

「……そうか」

「あとでベッドに潜り込んだら? キーラの部屋だけど」

「うぐ」


 お? あまり酔ってない?


「はあ。途中から水にすり替えたんだが、なかなか離してもらえなくてな」


 まさか、添い寝するために、飲まずに抜け出してきたの? 相当な溺愛だなあ!


「ロラン、少し話しても良いか」

「いーよ。でも汗臭い」

「……シャワー浴びてくる」


 お茶は淹れられないから、お湯でいっか。


 ――やれやれ。大好きな二人の橋渡しも、結構疲れるよね! レナートから相談料、ぼったくってやろうかなー。この堅物め!

 

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ