表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【本編完結】ワケあり事務官?は、堅物騎士団長に徹底的に溺愛されている  作者: 卯崎瑛珠
第四章 別離?? 決意!? 溺愛!!

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

58/75

56



 濃い青色は、毎日眺める海の色で、本当は嫌いだった。

 でも、今は好きだよ。

 

 仲直りしたいの。また、見せて?

 ちょっと困った顔で、でも嬉しそうに、見つめて欲しいの。

 目を開けて?

 おねがい……私には、シーツを握りしめて祈るしか、できない。




 ◇ ◇ ◇




 ボジェクからの緊急通信を受け取って、文字通り団長室から飛び出したヤンとオリヴェルとの三人で、王宮へ走った。

 私は、当然二人の足に追いつけなかったから、後から。

 ようやく客室に着いた時には、レナートは毒の影響で意識を失っていた。


「酸毒だな! ただちに洗い流すぞ。ヤン!」

「は!」

「触らないように服を破れ!」

「ういっす!」


 そんなベッドへの視界を大きな身体で遮るのは

「大丈夫ですよ殿下。この程度であれば、ポーションで治ります」

 少将のボジェクだ。


 ロランとアルソスの騎士団長は、レナートを運んだ時の毒が付いた衣服を、着替えに行っているそうだ。

 アルソス国王とヨナターンは、メレランド国王――左手を毒で失い、気が狂ってしまっているそうだが――を監禁すべく動いているのだとか。

 

「ほ、ほん、ほんと」

「殿下。オリヴェルは、帝国軍でも大変優秀でしてね。軍医の資格を持っています。大丈夫です」

 動揺する私に、ボジェクは嫌な顔ひとつせず、根気強く説明してくれるのがありがたい。

「ぐんい?」

「はい。病気や怪我を治せる者という意味です」

「……っ」

「オリヴェルは陸軍所属ですが、万が一に備えて連れてきたのです。ご安心を。さあ、外で待っていましょう」

「はい……」




 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 それから丸一日が経った。

 日が落ちるという時、ようやく――

 

「う、……」


 ぴくり、と瞼が動いたので覗きこむと

 

「キー、ラ?」


 濃い青色。

 見たかった、その色だ。

 

「よかった……!」


 王宮の客室で眠り続けたレナート。

 皮膚のただれは多少残っているものの、オリヴェルの適切な処置が早かったおかげで、軽傷で済んだ。

 すぐに洗い流してポーションを飲ませたので、怪我自体は軽い。が、酸の毒は吸い込むと肺にも影響が出るとかで、しばらく絶対安静だと言っていた。


「よかったああああ」

「心配、かけ、……」

 言いながら上体を起こすのを

「いやいや、まだ絶対安静だって、オリヴェルさんが!」

 私の背後で、呆れ声のヤンが止めようとしたが、無駄に終わり――レナートは起き上がってしまった。

 

「だい、じょぶ、だ」


 微笑むレナートに巻かれた包帯が、痛々しい。特に右の顔半分は目も含めてぐるぐる巻きだ。

 オリヴェルは、しばらくは包帯を変えつつ軟膏を塗りましょう、薬草を買って作ります、と申し出てくれた。ポーションは数が限られているので、なるべく保持しておきたいのですよ、と物騒なことも言いつつ、だ。

 

「十分大怪我すよ。右頬と、右腕。特に腕はひきつれるんで。治るまでは動かさず安静に」

「助かった。オリヴェル殿に、礼を言いたい」

「ええ、後で顔を見に来ると思います」

「ありがとう。ええと、あれからどうなったのか……」

「ばか!」


 思わず、叫んだ。

 レナートがベッドの上で、ビクッと身体を揺らした。


「団長の、ばか!!」

「キーラ……」

「国とか、任務とかより! 自分の体!」

 肩をどん、と軽く押したら、あっけなく倒れた。

「ほら! まだ全然だいじょぶじゃない!」


 呆気に取られるレナートに

「あー、のー。あのー、余計なことかもですけどね。キーラが、一日ずっと寝ずの看病してましたよ。包帯変えたり、熱出たんで、汗ぬぐったり。ね」

 とヤンが苦笑しつつ、伝えてくれる。そして、

「自分ちょっと、あー、用事! あるんで。出てきます! ね!」

 にひ、と笑って部屋からそそくさと出ていく。

 

 バタリ、と扉が閉じられて、静寂がやってきた。

 

「キーラ……すまない」


 倒れて、空中を見たままのレナートが言う。

 ――目が、合わない。

 

「だめ!」

「すまない」

「ゆるさない!」

「はあ……大嫌い、なんだろう?」


 レナートが、大きな溜息とともに、吐き出した。

 

「嫌いな者にまで、心を割かなくてもいい。看病させて、すまなかったな。誰か代わりの者を」


 違う。違うのに!

 そんな冷たい声を出さないで。

 悲しい。私のせいだね。ばかなのは私だ。

 

「う」

「う?」

「ううううう」


 私が突然号泣したから、がばり! とレナートが起き上がってしまった。

 あ、すっごい痛そう!

 ごめんなさい……でも、止められない。


「キーラ、どうし」

「あんなのお、ただの喧嘩だよお……八つ当たりだよおおおおお」

「!」

「ごべんださい」

「キーラ!」

「ごべ、ごべんださいいあやまるがらあああああ」

「わかった。わかったから、泣かないでくれ」

「うううう、ゆ、ゆるす?」

「はは。……ぐ、はあ。ゆるさないって、言ったのはキーラだろう?」

 

 ――そうでした! 私、支離滅裂! 意味不明!


「ははは。はは……いたた」

「だんちょ?」

「ったく。笑うと頬が痛いんだぞ」

「だんちょーーーーー!」

「いたた、今は、騎士服を着ていないぞ」

「れなーと?」

「ああ」

「うああああああん! ぶじで、よかったよおおおおお」

「ありがとう、キーラ」

 


 微笑む、優しい青色。

 私が見たかった色。



 ようやく落ち着いて、涙をハンカチで拭いて。

 ホッとしたら疲れちゃった、って呟いたら、

「寝てないのだろう? タウンハウスでゆっくり休んだら良い」

 って言われたけど、看病です! て無理矢理ベッドに入り込んでみた。

 ダメだとか、出なさいとか言われても居座ったら、痛くて追い出せない、って根負け。私の勝ち! だから。

 

「もうレナート様と一緒じゃないと眠れないの。一緒じゃなかったら、私、病気になりますよ」

 て、思い切って言ったんだ。

 そしたら、

「うぐ。ヨナターン殿に、事情を説明してみよう」

 だって! やったね!

「はあ……深い意味などない……勘違いしないぞ……いたた、いたたた」

 とかなんとか、長いひとりごとをレナートが言っていた気がしたけど――私は大丈夫な方の手を握って、温かさを感じた瞬間、安心したせいで眠りに落ちてしまっていた。


 

 あとから部屋に戻ってきたヤンが、熟睡している私たちを見て

「あーこりゃ、しゃあない。斬首免除案件っすねー」

 と笑っていたらしい。


 

 お読み頂き、ありがとうございました。

 もちろんヤンは、扉の外で護衛を続けておりました。

「こう見えて、自分、空気読めるんで!」

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ