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【本編完結】ワケあり事務官?は、堅物騎士団長に徹底的に溺愛されている  作者: 卯崎瑛珠
第四章 別離?? 決意!? 溺愛!!

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 騎士団本部への出勤は、徒歩だ。

 レナートと手を繋いで行っていたけれど、今日はロランとヤンが付き添ってくれた――常にヤンと一緒にいるようにと、昨夜ヨナターンに改めて言われたので、素直に従っている。


「あれ、様子が……?」


 帝国海軍が王都入りしたことは、騎士団全体へ通達したと、ロランが言っていた。

 騎士団本部は視察に備えて準備をしていたけれど、今はなぜかとても静かで、騎士団員たちも見かけない。


「どうしたんでしょう?」

「なんか変すね」

「……とにかく、団長室に行ってみよう」

「「はい」」


 二階の一番奥へ、気が()くせいか、早歩きで向かう。

 やはり、すれ違うはずの騎士たちが、いない。静かすぎる。

 なんだか異様な感じがする。


「おはようございま……」


 団長室の扉を開けると、応接ソファの手前で膝を折って、床に直接座っている騎士の後ろ姿が目に入った。

 金色の短髪。背筋は棒が通っているかのように綺麗に伸びている。


「え? あ、ルイスさん?」

「!」


 振り返る彼は――いつも整えているのに、無精髭が生えているし、やつれているし、酷い隈もあって辛そうだ。


 その彼を仁王立ちで見下ろしていたレナートが、眉間のしわをそのままに、言葉を発する。

「ロラン。ルイスが責任を取りたいと言ってきている」

「なるほど。だから外に誰もいないんだね」

「ああ、そっか……」


 納得したのは、はっきり言ってボイドの二番隊は、ほとんど仕事をしていないから。

 ルイスの一番隊が、見回りや演習などを主にやってくれている。その隊長が責任を取りに来たのだから、団長の対応がはっきりするまで、皆控えているのだろう。


 私はとりあえず、ヤンと並んで自分の机に歩いて行き……きらりと光る剣に気づいた。鞘から抜かれた状態で、床に置いてある。なんだろう? と思って首を傾げたら、


「……それで、首を斬ってくれと言ってきた」

「え!!」


 レナートの言葉に、私は文字通り飛び上がった。

 するとルイスが膝ごと、こちらに体を向けてがばり! とその身を伏せ、

「誠に申し訳なかった! 言い訳などない! 貴女に危害を加えたこと、その責任を取らせていただきたい!」

 叫んだ。

 

 私がレナートやロランの顔を見ると、二人とも頷いてくれたので、ルイスに近づいて、床に両膝を突く。伏しているので、ルイスのつむじに向かって話しかけた。

 

「あの、私に嘘をついて、武器庫に誘導したことを言っていますか?」

「そうです」

「貴方は、直接危害を加えていませんよ」

「っ、同じ罪です」

「あの……顔を上げてください、ルイスさん」


 躊躇(ためら)いつつも上げてくれたその顔は、涙でぼろぼろだ。

 きっと、この人――ずっと苦しんできたんだね。

 だって初めは優しく迎え入れてくれたもの。途中から、態度がおかしくなって……

 

「あっ! もしかしてルイスさん、ボイドから何かされていましたか?」

「「「な!」」」


 私の発言で、レナート、ロラン、ヤンが固まった。

 

「っ」

「私、ずっと変だなって思っていたんです」


 ルイスの手を取る。

 その手のひらには、剣だこがたくさんできている。

 毎日真面目に鍛錬をして、部下の面倒を見て、書類もきっちり整えて出して。

 騎士ってこういう人なんだろうな、のお手本みたいな人。


「ルイスさんほど頭の良い人が、名簿のためだからって、わざわざ正直に出身地言わないですよね」

「……」

「あの、『武器庫に行くと言っていたような』て、結構大きな声で言いましたよね。周りの人たちが団長に教えてくれたから、間に合ったんです」

「それは!」

「そもそも、あの発言で私が行くとは限らないです。それに、ロラン様が武器庫みたいな場所を嫌っていること、知ってましたよね」

「!」

「他にも密室にできそうな場所は、ここにはいっぱいあります。でも、あえて武器庫にしたんじゃ? 私が抵抗できるように。そして、ロラン様と武器庫っていう組み合わせの違和感に、誰かが気づくように」


 レナートが驚きで目を見開く。


「ルイス、貴様は……わざと……」

「そうか。全部、ギリギリの葛藤だったんだね。辛かったね、ルイス」


 ロランがそういうと、ルイスは顔中をくしゃくしゃにして、慟哭した。


 ルイスの家は、ボイドの家に生殺与奪(せいさつよだつ)を握られていた。商売をするには、領主であるボイドの家の許可がないと立ち行かないのだそう(港の使用権とか)。しかも、言うことを聞かなければ、年頃の妹を凌辱すると脅してきていた!

 ルイス自身は賭け事に興味はなく誘いも断っていたから、恐らく実家が狙われたのだと思う、と泣きながら打ち明けてくれた。


「今のルイス隊長のご発言、しっかり聞きましたんで」

 ヤンが神妙な顔で言う。

「帝国にも、正式に報告します」

 今度はルイスが驚愕で、息を止めた。

「ヤン!?」

「すみません隊長。自分実は、ブルザーク帝国の、陸軍曹長でして」

「そ、だったのか……はは、どうりで腕が立つ……そうか……残念だな……」

「へへ」


 レナートも、床に片膝をついてルイスに寄り添った。


「ルイス。貴様は直接手を下していない。だからこの件は、キーラに託したいと思う。それならどうだ?」

「……はい、異存ございません。どのような罰も、お受け致します」


 ぎゅ、とルイスが目をつぶり、(こうべ)を垂れる。


「え? 私が決めるんですか!? じゃあえっと……」


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