「ふざけるな」
~~~マシュー視点~~~
マシューは怒っていた。
自分が留守にしていたわずか半年ばかりの間に神学院の雰囲気がすっかり変わってしまったことに。
禁欲と清貧に満ちた祈りの場が、闊達で笑いに満ちた世俗じみた場所に変わってしまったことに。
「まったくあの男……ふざけおって」
マシューは怒っていた。
ひとり調理台に向かって明日の仕込みを行いながら、ジローへの恨み言をぶつぶつとつぶやいていた。
「異世界からの希人が、土足で神の庭を踏みにじって…っ」
宗教的な価値観の相違……というだけではない。
その怒りが単純な嫉妬から来ていることもマシューはわかっていた。
だからこそ、許せなくもあったのだ。
禁欲的に働き生徒たちのために尽くして来た自分が認められないのに、どうしてあの男は認められているのか。
あれほど信頼に満ちた目を向けられ、今もなお料理番に返り咲いて欲しいと懇願されているのか。
それらは単純至極だけれど、他に変え難い怒りの源だ。
「……ちっ」
練った小麦粉を木製のバットに並べ終えると、マシューは痛み始めた腰を揉んだ。
三十半ばという年齢だが、もともと体の丈夫な方でないマシューには様々な持病がある。
本来ならば料理番に向く人材ではないのだが……。
「あんなどこの馬の骨ともわからん小僧に任せられるか」
ひと通り憤りをぶちまけた後、マシューは厨房の灯りを消した。
翌日に控えた決闘への備えは万全。
負けるわけはないというぐらいに意気込んでいるが……。
皆様の応援のおかげもあり、このたび正式にコミカライズできました。
こちらの本編同様、今後ともよろしくお願いいたします。
上手くいけば、セラが大人になるまで連載できますよ(*´ω`*)
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