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【小説版発売中】追放されたやさぐれシェフと腹ペコ娘のしあわせご飯【コミックもどうぞ】  作者: 呑竜
「第2部第4章:西棟の幽霊と、もうひとりの料理番」

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「帰って来た男」

 さて、出来上がったら実食だ。

 トウモロコシ特有の黄色味がかったきらびやかな料理が目の前に並んだのを見て、子供たちはもちろん指導官や指導教官も目を輝かせた。


 ──まあ、なんて綺麗なのかしら。

 ──料理が黄色く光り輝いているみたい。

 ──……このぐるぐる巻いてるのなんだ?

 ──わかんねえけど、中にあるのは肉だな!


 手を合わせ、目を輝かせ。

 見た目に対する大人から子供までの率直なコメントが飛び交ったかと思うと、すぐに爆発的な歓声となって食堂中に反響した。


 ──わあああ、何これ!? 美味しい! スープがほっくりお腹の中まで温めてくれる!

 ──しかもこれ以上なく澄んでる。心まで清らかにしてくれるようだわ。


 まずは喉を潤さんとばかりに『コーンポタージュポタージュ・マイス・ドゥー』を飲んだ女子たちが感動で頬を赤く染めてうっとりし。


 ──トウモロコシの焼き目が最高っ。甘さと塩味がマジでちょうどよくて癖になる。

 ──茹で具合も最高だろ。ほどよく芯が残ってて、食べ応えがある。お代わり、お変わりはないのかっ?


 にんにくの利いた『トウモロコシのパスタパト・オ・マイス・ドゥー』を音を立てて啜った男どもが目をまん丸く見開き、お代わりを求め。


 ──肉! 肉肉肉!

 ──外側はサクサクしてて、肉を噛んだらジュワッと汁が溢れて最高ー!

 

 ガッツリ肉系の『豚ロース肉の(ポールリブ・ルレ)カダイフ巻き(・ドゥ・カダイフ)|アンチョビソースを添えて《・オ・ソース・アンチョビ》』をセラが食べた男どもと一緒になって盛り上がり。


 ──このほどよい塩味とカリカリ感……飲まずにはいられないっ。

 ──ちょっと生徒の前よ……ってあれ、グランド……シスター……?


 酒のアテには最高な『トウモロコシの(バーバ・ドゥ・マイ)ヒゲの素揚げ(ス・ドゥー・フリット)』を齧りながらグランドシスターがひとり、ワインを独酌。


 ──あんまああああーい!

 ──甘くてとろっとしててプルンとしてて、これ何!? 何なの!?

 ──いやいやそれよりこのサクサクでしょ! カダイフだっけ!? サクッと軽い食べ応えとプリン!? のプルンっが合わさってもう最高っ!

 ──これは神様のデザートだわ。文句ない。


 ミルクプリン特有のやわい食感とカダイフと蜂蜜のぬめぬめカリカリ食感を合わせた『ミルクプリン(プディング・オ・レ)のカダイフ乗せ(・オ・カダイフ)』に至っては、窓を震わせるほどの歓声が上がった。


「ジロー! すごいね! 美味しいね!」


 プディングまで綺麗に食べ終えたセラは、頬を赤らめて大興奮。

 

「これお代わりないの!? お代わり!」

「ねえよ。てかおまえ第一助手なんだから残りがあるかないかぐらいわかるだろうが」

「でももしかしたら生えて来てるかも! 『セラちゃんに食べられたいよー、ニョキニョキっ』て!」

「自己犠牲精神の塊すぎるだろそのプディング」


 セラ以外の子供たちも、お代わりがないだろうかとソワソワしてこちらを窺っている。

 そんないかにも子供じみた期待に満ちた視線も料理人にとっては最高の称賛だ。


 とはいえ、いつまでも称賛を味わっているわけにもいくまい。

 食ったら片付けをしなきゃならず、その後には明日の仕込みも控えてる。


「これで終わりだよ。お代わりなんか残ってねえから大人しくごちそうさましな」


 ひらひらと手を振りながら告げると、子供たちは「ええー」と残念そうな悲鳴をあげつつも胸の前で手を合わせた。

 飯を食う前には食う前の、食った後には食った後でお祈りを捧げるのがお約束だ。


「「「「「天なる父よ、感謝のうちにこの食事を終わります……」」」」」


 最初は粛々と祈りを捧げていた子供たちだが、誰かがげっぷをした瞬間、一斉に噴き出した。

 笑ってはいけない厳粛な行為の最中だったからこそだろう、それはなかなか納まらず、食堂中に子供たち特有の遠慮ない笑い声が響いた。


 ──こら! やめなあんたら!


 エレナさんが声を荒げるが、一度ついてしまった勢いは止まらない。

 ティアは顔を隠して震えていて、セラに至っては涙を流しながら笑い転げている。


「あ~あ、しょうがねえなあ」


 神に仕える身とはいえ、それが子供というものだろう。

 止められない笑いの連鎖を呆れ半分で眺めていると……。


「食事の最中に大笑いだと!? なんとはしたない!」


 食堂の入り口で大きな声がした。

 なんだと思ってそちらを見ると、ひとりの男が立っていた。


 年の頃なら三十半ば。

 肩の高さで切りそろえたグレーの髪、顔立ちは彫り深く、眉間に深い皺が寄っている。

 今まさに旅から帰って来たところなのだろう、旅装で、肩からずだ袋を下げている。


「神に仕える者が、恥を知れ!」


 男はずんずんと食堂の中を歩くと、グランドシスターの前に立った。


「あら、マシュー。お帰りなさい」

「お帰りなさいではないですよグランドシスター! 生徒の前で晩酌など!」


 ほろ酔い状態のグランドシスターに、マシューは猛然と突っかかる。


「ちょっとマシュー、グランドシスターに対してそんな態度は……」

「エレナもですよ! あなたがいながらなんですかこのていたらくは!」

 

 マシューはエレナさんにもがぶがぶと噛みついていく。

 なんだか狂犬みたいな奴だな。


「たった半年留守にしただけでこれだ! 生徒たちには知性の欠片もなく、バカ笑いを上げる野人のよう!」

 

 マシューは苛立たし気な目で食堂を見渡すと、こう告げた。


「いいだろう、明日からはわたしが管理してやるからな! 再び料理番となり、食事作法からすべてを管理してやる!」


 ………………。

 …………。

 ……は?

 は?

 

「はあああああ~……?」

ジロー、リストラの危機?


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[一言] マシューさん、明日の朝まで生きていられるのかな?(・∀・;)
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