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【小説版発売中】追放されたやさぐれシェフと腹ペコ娘のしあわせご飯【コミックもどうぞ】  作者: 呑竜
「第2部第3章:起死回生の逆転料理」

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「居場所と許し」

 マックスの処遇について、俺はグランドシスターと話し合った。

 エレナさんら指導教官も含めた話し合いは長時間に及び、グランドシスターの居室を出た時にはすっかり夜中になっていた。


「あ~あ、疲れた。これで終わりでベッドにダイブできればいいんだが、まだ明日の仕込みがあるってのが罠だよなあ~」


 早朝から料理詰めの勉強詰め、マックスとのいざこざもあって疲れていた俺は、肩を揉みながらボヤいた。


「……ふん、よく言う。事前にボクたちに念入りな指示を出していたくせに」

 

 中庭に面した回廊の途中、円柱状の柱に背をもたせるようにしてオスカーが立っていた。

 腕組みをして、眉間に皺を寄せて、いつも通りの仏頂面を俺に向けた。


「おー、オスカーか。出迎えご苦労。そんで、そっちの首尾はどうよ?」

「出迎えなどしていない。ただの作業終了報告だ。もちろんキミのするほどに上手くは出来なかったがな。塩もみも塩抜きも着け込みも、慣れてしまえばどうということはない。おっかなびっくりだが、子供たちもしっかりやれていた。明日の朝はすんなり作業に入れるから、安心しろ」

「おー、偉い偉い。──そんで皆、マックスとは上手くやれたのか?」

「それに関してはぼちぼちというところだな」


 論より証拠とばかりに、オスカーはくいと顎をしゃくった。

 指し示した方向にいるのはそのマックスだ。

 中庭の真ん中でセラと何事かを言い争い、ふたりの間に挟まれる形になったティアがおろおろ泣きそうな顔をしている。


 ひと目見ただけではふたりがケンカしているだけにしか見えないが、よくよく聞いてみると違った。

 初めての料理にしては上手く出来たマックスの意外な器用さに嫉妬したセラが、俺の第一助手であることをことさらに主張し、それをマックスがうるさがっているという構図だ。


 そう──マックスに与えられることになった『罰』は、一年間の奉仕活動だ。

 俺たち料理番の一員になることにより、毎日毎食の料理を手伝わせる。

 自らの犯した食材の不法投棄という罪を、料理にたずさわらせることで償わせることにしたのだ。


「何せやらかした事が事だ。料理班の子供たちがさぞや反発するだろうと思ったが、セラが真っ先にぶつかることで怒りの矛先が鈍ったようだ」

「はん、なるほどね。自分より怒ってる人間がいると、返って冷静になれるってあれか」


 なんだかんだでセラのライバル心ってのは良い方向に働くことが多いよなと、今までの経緯も含めて俺は笑った。


「ま、いいじゃねえか。どうあれ素直に従ってくれたのは。罰を受けねえ料理担当にもならねえじゃ困るとこだったが」

「よく言う。その辺も含めての仕掛け(・ ・ ・)だったのだろう?」


 オスカーは俺をにらみつけるように目を細めた。


「そもそもキミ、マックスの素性のことを知っていたのだろう? 事が起こる前にすべて把握していたんだ。でなければあんなこと出来るはずがない」


 オスカーが仕入れた情報によると(グランドシスターも同じことを話してくれたので事実だろう)、マックスはセラと似たような境遇だったのだという。

 家が貧しくて子沢山で、口減らしのために修道院に入れられて。 

 そのせいでグレてしまったのだという。


 マックスの出身地は、大陸南方のオラトリオだ。

 みずみずしい果実が名産で、特にオレンジやイチゴが有名なところ。

 さらに言うなら、マックスの母親は副業でハーブ畑をやっていたのだともいう。


 だからあいつは、食事の時にすごく懐かしそうにしていたんだそうだ。

 俺の作ったクレメン・ダンジュを、セラの淹れたハーブティーを、噛みしめるように口にしていたんだそうだ。断罪する前から少し涙ぐんでいたのはそのせいだ。

 そのせいであいつはより素直な気持ちになっていて、俺の言うことも罰も大人しく受け入れたのだとオスカーはいうのだが……。


「偶然だよ、すべて偶然。そんなの狙ってやれるほどに、俺は神がかってない」


 オスカーの買い被りを、俺は鼻で笑い飛ばした。

 

「ただ純粋に料理を作り、提供した。それだけだ」

「そうなのか? その割には用意周到だったじゃないか。マックスの処遇にしたって、あらかじめ考えていたかのようだったじゃないか」


 なおも疑いの目を向けて来るオスカー。


「それこそたいしたことじゃねえよ。昔、セラに対して与えたのと同じだ」

「セラに?」

「ああ、その通りだ。あいつはな……」


 まだ俺がザント修道院にいた頃だ。

 腹を空かせたセラが夜中に厨房に忍び込み、食材をつまみ喰いしようとしたことがあった。

 その罰として、俺はセラに食材洗いをやらせた。

 最初は一晩だけのつもりだったのが、あれよあれよと今に至る。


 その間セラは、大いに成長した。

 料理を手伝うだけじゃない。勉強もし、いじめっ子だったフレデリカと友達になり、大寒波の時には疲労したシスターたちを元気づける太陽みたいな存在となった。


「……なるほどな、キミたちがあんな関係になるのにはそういう経緯があったのか」

「あんな関係……ってのが何を差すかまでは聞かねえでおくよ」

「ぷっ……くっくっく……」


 俺が密かにため息をつくのを見て、オスカーは噴き出すように笑った。

 こいつにしては珍しい、柔らかな笑顔だった。

 

「ともあれ、上手くやったものだな。第三王子を蹴飛ばした無頼漢とは思えぬ手際だ」

「言ってろ」

「意外にお優しいところもあるんだな。あのマックスを追い出さず、仲間に入れてやろうとは」

「言ってろ……いや、それ以上からかうのやめろ」


 いたたまれなくなった俺は、ガシガシと頭をかいた。

 

 照れ隠しでセラの方を見やると、ふたりのいがみ合いは次のフェーズに移行していた。

 セラがマックスに明日の朝起きる時間のことを話している。

「料理番の朝は早いんだからね」とか「一秒の遅刻も許されないんだからね」とか。

 毎朝ティアに起こしてもらっている身分のくせに、言うわ言うわ。


 自分より年下のセラに言われるのが嫌なのだろう、マックスはマックスで「起きれるに決まってんだろ」とか「おまえより早く厨房に入ってやる」とか言って張り合っている。 

 どんな動機にせよ、あのマックスが早起きして奉仕活動に打ち込もうとしている。

 そこにはちょっとした感動があった。


「上手くやった……か。結果的にはそう見えるのかもしれんがな、俺はやっぱりなんにもしてねえよ。ただ居場所を用意しただけ。変わるのはけっきょく、自分自身の力だ」


 セラだってそうだ。

 あいつが変わったのは誰のおかげでもない、あいつ自身の努力の結果だ。


 そしてそれは、マックスにも同じことが言えるんだ。

 神学院を追い出されたくない、修道士をクビにされたくない。

 だからあいつは頑張る必要があるんだ。

 だけど独力では無理だろうからポジションを与えてやった。

 料理番として他の多くの子供たちと触れ合い、協力し合う中で大人になっていけるように、居場所だけを作ってやったんだ。


「たしかにマックスはムカつくガキだし、セラに手でも上げようもんなら今すぐ蹴っ飛ばしてやるとこだがな。追い出すのはやりすぎだ。子供にはな、もっともっと『許し』があってしかるべきなんだ」


 人生、一寸先は闇だ。

 俺は今でもそう思う。


 かつての霧がそうだったように、一年前の大寒波がそうだったように。

 運命ってのは残酷で、時にたやすく子供の命を奪い去る。

 だからこそ居場所を、だからこそ可能性を、だからこそ許しを。

 手に届く範囲にいる子供の命が、未来が失われる光景なんて、俺は二度と見たくねえんだ。


「子供に『許し』を……か」


 俺の言葉から何を感じ取ったのだろう、オスカーが考え深げな表情になった。

 

「それは博愛精神からか? それとも神に仕える者として?」

「そんなおおげさなもんじゃねえよ。ただ俺は、子供が泣くのを見るのが嫌いなだけだ。だからなるべく泣かせたくねえんだ。──なあ、子供ってのは弱いだろ。ちょっとのことで死んだり、ケガをしちまうだろ。だから大人が見ててやる必要があるんだ。ずっと傍にいるのは無理だとしても、いつか訪れるかもしれない事故や、運命の急変に対応できるための力をつけてやらなきゃならないんだ。料理番ってのはそのために俺が用意できる居場所のひとつであって……」


 俺はぽんと、オスカーの頭に手を乗せた。


「なっ……なななななななっ!?」


 予想外の行動だったのだろう、オスカーは顔を真っ赤にして動揺した。

 俺の手を思い切り振り払うと、キッと強くにらみつけてきた。


「いいいいい今のはいったいどういう意味の行動だっ!? なぜボクの頭に手を乗せたっ!?」

 

 ぷんぷん怒っているオスカーの目の前で、俺はひらひらと手を振った。


「俺に言わせりゃ、おまえも子供だってことだよ。出来る限りのことはしてやるから、困ったことがあったらなんでも言えよ? おまえはなんだか、いつも何か抱え込んでるような顔してるからよ」

「だだだだ誰が子供だっ! ボクはもう成人した立派な大人でっ! それに別に何も抱えこんでないしっ!」

「はん、十五やそこらで大人ぶってるがあたりが子供なんだよ」


 俺が笑うと、オスカーはさらに勢いを増して怒り出した。

「人のことをバカにして!」とか。

「なんだその余裕の笑みは!」とか。

 拳を握り、きんきんと頭に響く声でわめき散らした。


「はいはい、そうだな。俺が悪かった。おまえは大人だ、大人でいいよ」

「全然わかってないじゃないか! なんだその適当な言いぐさは!」


 いやホント。

 こうして見ると子供なんだが、時おりおかしな目をすることがあるんだよな、こいつ。

 厳しくて鋭い、それこそ戦場でもくぐり抜けてきた兵士みたいなものすげえ目をすることが。 


 普段の行動も怪しいところがあるしな。

 着替え中は俺を部屋から追い出すし、入浴も夜中にこっそりひとりで入ってるらしいし。

 入れ墨みたいなもんでも背負ってるのか、あるいは戦傷でもあるのかと、時々心配になる。

 

 だけど、正面から問い詰めても答えないだろうから。

 俺は静かに逃げ道を用意してやった。


 いざとなった時に、こいつが逃げられるように。

 俺を、あるいは他の誰かを頼れるように。


「適当でいいんだよ、難しく考えんな。なあ、オスカー。おまえが将来、何かとんでもない悪事をしでかしたとしたら俺に言えよ? 俺が絶対、許してやるからさ」

「うるさいうるさい! 誰がそんなことをするか! ええい、そのぽんぽんするのを今すぐやめろおおおーっ!」

ジローにとってはみんな等しく子供なんですね。


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― 新着の感想 ―
[一言] う〜ん…物語的にはアリなのでしょうが………いやいや、正直言ってナイと思います。 他者を見下げる事で自分を保っていたマックスが、はっきりと罪を犯しました。共同生活をしている場で、『食』を蔑ろに…
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