「俺たちは追撃の手を緩めない」
「美味いよ、ちくしょう……」
顔を真っ赤にしながら、マックスは認めた。
砂糖ツボの中身を塩と入れ替えるという姑息な真似をした上での、完全なる敗北宣言。
わなわなとばかりに屈辱に身を震わせる様は、まさにざまあと言える。
「っしゃ!」
「やったねジロー!」
俺とセラは思わずハイタッチ。
満面の笑顔で喜び合った。
「くそっ……調子に乗りやがって……っ」
全面降伏したとばかり思っていたマックスは、しかし悔し気に俺たちをにらみつけると。
「だがなあ、これで勝ったと思うなよ? 次はもっと違うやり方で罠にハメてやるからなあっ?」
ほうほう? まだ完全に負けを認めたわけじゃないと?
んでもって何か? 入れ替えによって失われた砂糖様(神学院にいると勘違いしがちだが、まだまだお高い品だ)以上の被害をこちらに与えるつもりだと?
なるほどなあー、なるほど、なるほどおー。
「そんなナメたガキには、二度と抵抗する気が起きないよう思い知らせてやらんとな。おいセラ。追い討ち行くぞ」
俺がぐいと顎をしゃくると、セラは「あいあいさーっ!」と敬礼した。
そのまま勢いよく後ろに振り返ると「さあ、行くよティア隊員っ。フォーメーションAだっ」と呼びかけた。
何がフォーメーションなのか、何がAなのかはわからない。
だがティアにはわかっているのだろう、「あ、あ、あいあいさーっ」とどもりながらも敬礼し、パタパタ慌ただしく動き出した。
裏に引っ込んだかと思うと、すでに用意してあったのだろう沸騰したお湯の入ったポットとティーカップを持ってやって来た。
この時点で良い香りがするところからして、ハーブはすでに投入済みなのだろう。
ポットを受け取ったセラはふふんとドヤ顔でそれを揺らし、中身の濃度を一定にした。
ティアが構えた茶漉し越しに、ゆっくりと回すように注いでいく。
ポット内で充分に蒸らされたお茶は、ティーカップに注がれるやほんわりと湯気を上げた。
湯気に乗ってハーブの香りが、ぶわりと食堂中に広がっていく。
──うわあなにこれ、すんごくいい香りっ。
──うんうん、お花の香りね。すごい落ち着く感じっ。
まず最初に反応したのは近くにいた女子たちで。
──なんだよお茶か。……あ、でもなんかすごいな。
──うん、わかんないけど優しく包まれる感じというか……。
こういった感性の鈍い男子の中にも、ちらほらと賛同者が現れた。
感動、驚嘆、好奇心。子供らしい素直な感情が、食堂中に広がっていく。
その中心地にいるマックスは、いかにも不愉快そうに唇をひん曲げると。
「……なんだあ? お茶だあ? ジジイババアじゃあるまいし、そんなものでこの俺が喜ぶとでも……」
「ふっふっふ……お茶だけだと思っているのかねキミィ」
お湯を注ぎ終えたセラは、マックスに対しにやり不敵な笑みを返した。
「わかるかね。これはセラとジロー、夫婦の初の共同作業なのだよ」
ババァーンというオノマトペでも聞こえてきそうな勢いで、セラがドヤ語る。
お得意の寝言はともかくとして、言ってること自体は間違っていない。
セラのお茶と俺の料理、今日が初のコラボレーションだ。
「ジロー、運んで来たぞ」
ガラガラという音の方に振り返ると、オスカー以下今回の料理担当A班が料理運搬用のワゴンを運んできた。
その上に載っているのは俺が事前に作っておいた例のあれ。
「さあマックス。楽しい楽しい食後のデザートの時間だぜえ~?」
生意気なマックスを徹底的に打ちのめすべく、『天使のクリーム』が配られていく……。
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