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【小説版発売中】追放されたやさぐれシェフと腹ペコ娘のしあわせご飯【コミックもどうぞ】  作者: 呑竜
「第2部第6章:ふたりの少女は」

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「メイド☆コスプレ青空カフェIN神学院」

 その日は晴れていた。

 風も無く、視界良好。

 神学院の巨大な正門をくぐってやって来るお客の列は、どこまでも鈴なりに連なっていた。


 その数、ざっと数えただけで数千人。

 王都から遠く離れた避暑地の学校の催しに参加するにしては多すぎるが、娯楽の少ない時代性を考えると、これも妥当な数なのかもしれない。


 ともあれ、俺たちは全力でこの人の波に対し、『開放祭』にも負けない評価を得なければならない。

 というわけで神学院の現役生徒百名、指導教官、指導官他職員百名の合わせて二百名は、総力をもってこれに当たった――


 エレナさんが似合わぬ笑顔を浮かべながらグランドシスターと共に賓客対応。

 指導官たちと一部の生徒が各所に立ってお客の案内。展示物や成果物(農作物、畜産製品、制作した服 飾品や神具祭具など)の販売ブースなども担当する。


 指導教官と残りの生徒たちは全力で食事関係の担当だ。

 まず正門からのアプローチの両側に屋台を並べて軽食を販売。

 提供するメニューは――


黒パン(アンブルジェ・)バーガー(デュ・パン・ノワール)

砕き砂糖のシュクル・コンカッセ・パパのひげ(オ・バーバパパ)

イワナの(ブロシェット・ドゥ)串焼き・オンブル・シュヴァリエ

エンパナーダラ・ボワット・ア・ジュのおもちゃ箱(エ・デ・エンパナーダ)

トウモロコシの(バーバ・ドゥ・マイ)ヒゲの素揚げ(ス・ドゥー・フリット)

くるみのタフィ(タフィ・オ・ノワ)


 基本的に立ち食いしやすいもの、甘いのとしょっぱいの、見た目の楽しいものをちょうどいいバランスになるよう配置した。

 どれもこれも自信作だし、生徒たちだけでも自作可能。各々の修道院に戻った暁にはぜひレシピを広め、辛く退屈な修道院生活の友としてもらいたい。


 しかし、いかんせん屋台メニューは客単価が低い。『開放祭』に勝つためにも、真に狙うべきは王都などから来た富裕層。

 というわけでここの売り子は普通の格好の生徒に担当してもらうこととして、俺は屋台ゾーンを抜けた先にある青空カフェに全戦力を集中した。


 セラティアドロテア、キャリカにフレデリカ。

 メイド服に身を包んだ見栄えのいい女の子たちに客引きをさせ、俺のいた世界のメイド喫茶風の接客をさせるという寸法だ。


「わおーん……じゃなく、お帰りなさいませご主人様! だよ!」

「来たわねご主人様! さあこっちよ! ここに座ってメニューの端から端まで注文しなさい!」

「お、おおおお嬢様。そのあの……お帰りくださってティアはたいへん嬉しく思います」

「やあお帰り。キミのことを待ってたよ」

「わ、わたしはあなたのこと待ってなんかいないけどね! 勘違いしないでよね!」


 五者五様の接客の斬新さが手伝って、お客の反応は上々。


「メイドが主人を出迎える……珍しいコンセプトの店だな」

「……萌え萌えきゅん? いささか奇抜な接客ですが、なぜかグッとくるものがありますな」

「もし訓練施設などがあるのなら、うちのメイドに習わせてみようかしら」


 俺のいた世界とは違い本物のメイドが日常的にいる世界なので、メイドの存在それ自体は珍しくない。しかしこの個性豊かなキャラ付けや、オムレツにケチャップでハートを書くなどのサービスは目新しいだろう。


「今回は五者五様の美少女を取りそろえたからな。どんな需要もガッチリキャッチだ。さあ萌え狂うがいいお客様。フハハハハハ」


 テーブルで上がる歓声と賑やかな笑い声を聞きながら、俺は厨房でにんまりと微笑んだ。


「……と、それで満足してもらっちゃ困るんだった。肝心要(かんじんかなめ)の料理が上手く、かつ珍しくねえとな」


 なにせ舌の肥えた富裕層相手だ。生半可な料理では話になるまい。

 がしかし、これにも俺は解決策を見出していた。

 それは――


「ジロー! 注文入ったよ! アイス! アイスだって!」


 厨房に勢いよく駆け込んで来たセラは、目をキラキラさせながら注文を口にした。


「なんだか嬉しそうにしてるが、別におまえが食べる用じゃねえからな?」

「わかってるよ! わかってるけどお客さんが喜ぶのを出せるのは嬉しいもん!」


 ザントからこっち、何度も何度も接客を繰り返してきたセラは、いまや理想的な売り子マインドを持つまでに成長している。


「おう、いい心がけだな」


 ニヤリ笑った俺は、銀製の器に盛ったアイスをトレイに載せた。


「さあ持ってけ。こいつが『|バニラアイスクリームの中世風《グラス・ア・ラ・ヴァニーユ・ア・ラ・モード・メディエヴァル》』だ」

「わおーん! 来た来たー!」


 銀製の器に盛られたバニラアイスにミントを添えたものを渡すと、セラは実に嬉しそうに遠吠えを上げた。


「じゃあさっそく出してくるね! わおんわおーん!」

「勢いつけすぎて転ぶなよ。それ一個でバカ高い材料費がかかってるんだからな?」

「うんわかったー!」 


 俺の言っている意味がわかっているのか、トレイを抱えたセラはズダダとばかりに客席の方に走っていく。


「うおおおお『それが料理だ(セ・ラ・キュイジーヌ)』だああああー!」


 例の決めゼリフを口にしながら遠ざかるセラの後ろ姿を見送りつつ、俺はハアとため息をついた。


「……やれやれ、ホントに大丈夫かね」


 毎日毎晩配膳をしていることで、セラの体幹は鍛えられている。もはやちょっとやそっとのことで転ぶことはないだろうが。


「なんせ、モノがモノだけになあ……」


 中世ヨーロッパの技術レベルでバニラアイスを作るのは、当然だが並大抵のことではないのだ。


 一、まず熱帯地方から輸入したバニラの実からエッセンスを抽出し、牛乳や砂糖と共にバニラアイスの素を作る。

 二、大きな容器に氷室から取り出した氷と硝酸カリウムを一対一の割合で混ぜ、氷の融解点を下げることによって急激に温度を下げる。

 三、二の上に一の入った容器を載せ、ゆっくりとゆっくりとかき混ぜる。


 項目にすると三つで済むが、バニラエッセンスの抽出には時間がかかるしそもそもの氷が高額。硝酸カリウムを多量に摂取すれば人体に悪影響があるので取り扱いが難しいと難題ばかりで、アイス一個つくるにも時間と手間がバカみたいにかかる。


「だが、その分味は保証付きだ。それに……」


 客席の方から聞こえる大歓声と驚愕の声を聞きながら、俺はニヤリと笑った。


「せいぜいフレーバー付きの氷シャーベットぐらいしか食えなかった時代になめらかで美味いバニラアイスクリーム。そんなもん明らかなオーパーツだからな」



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