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【小説版発売中】追放されたやさぐれシェフと腹ペコ娘のしあわせご飯【コミックもどうぞ】  作者: 呑竜
「第2部第6章:ふたりの少女は」

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「収穫感謝祭」

 カルナックの街主催の『開放祭』は無事終了。観光客や総売り上は、なんと例年の倍増。

 とくれば、我が神学院だって負けるわけにいかない……が、まさかそんな正直には言えない。だって、宗教関係者だもん。

 というわけでグランドシスターは、開幕にあたってこう述べた。


「みなさんご存知の通り、カルナックの街とその住民が、長き歴史に基づいた祭りを派手派手しく行い、耳目を集めました。その結果が例年の倍の繁盛に繋がったという話です。もちろんそこに勝ち負けはありません。彼らは、彼女らは、ただ祭りへ来て下さった方々へ感謝と敬意を向けた。それ以外の何ものも、そこにはありませんでした。言うまでもないことですが、わたしどもは神の信徒です。清貧であれ、公平であれ。主のお言葉に従い、暮らしてまいりました。そしてそれらを無明の暗闇の中に住まう人たちにも広める役割を背負っています」


 そこでうつむき、いったん言葉を切ったかと思うと……。


「|それらを踏まえて《・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・》――」


 グランドシスターは顔を上げると、ニッコリ笑んだ。


「みなさん、精いっぱいの努力を示しましょう。収穫を言祝(ことほ)ぐ声を、ルキウス様の慈悲の傘の下で暮らすわたしどもの生活ぶりを、この学び舎を訪れてくださった方々に真摯に伝えましょう。結果として……あくまでその結果として例年の三倍の売り上げ……客の入り……ゴホン。多くの方の賞賛を得られるかもしれませんが、それはあくまでルキウス様に捧げられたものであり、決して勘違いしないように……」


 客の入りとか売り上げとか言っちゃってるし、どう聞いても建て前全開なのだが、グランドシスターの意気込みはよくわかる。

 それは子供たちにも伝わったようで、皆がゴクリと唾を飲み、顔に緊張を走らせた。


「――では、行きなさい。祭り期間中はすべての授業や奉仕を中止とします。全力で事にあたりなさい」


 パンパン、とグランドシスターが手を叩くと、子供たちは駆け足で解散、それぞれの役割を果たしに向かった。

 ちなみに役割の内容は――

 一、授業の中で作った成果物(農作物、畜産製品、制作した服飾品や神具祭具など)を売るブースの設置。

 二、ルキウス教の教義を伝導するための講演ブースの設置。

 三、研究機関において蓄積されている農業的科学的研究成果の発表ブースの設置。

 四、来訪客に食事を提供する屋台やカフェの設置と料理の準備。


 といったところで、かつてザント修道院で開催された収穫祭のそれとさほど変わらない。

 祭り当日は一から三までに振り分けられていた生徒のほとんどが四に流れ込むあたりも。

 俺たち料理番ズの役割は四。もちろんだが、普通の店を並べて普通の料理を売ってそれでおしまい、なんてことはしない。


 具体的には――


「いやよ! 絶対いや! なんだってわたしがまた(・ ・)こんなことを……!」

「ああー、懐かしいなこの感じ。ザントでも似たようなやり取りしてたよなあ~」

「そうそう、セラとフレデリカが売り子をしたんだよね!」

「でもあの時のと比べると全然ぬるいと思うけどなあ~? そんなに恥ずかしがることないような気が……」

「うんうん、耳も尻尾も生えてないし!」

「そういう問題じゃないのよー! 耳がとか尻尾がとかじゃないのよ! 問題はなんだってわたしがこんな格好をしなきゃいけないのかってことで……!」


 耳まで赤くして抗議しながらもなんだかんだでつき合いのいいフレデリカは、こちらが用意したメイド服を着てくれている。

 ちなみにメイド服のスタイルはヴィクトリア風だ。

 黒いドレスに白いエプロン、長袖にハイネックといずれも丈が長く露出が少ないシックな感じが、逆にフレデリカの派手な外見を際立たせている。


「大丈夫だぞフレデリカ。おまえが思ってるより何倍も似合ってるから。その格好でいつものツンデレ風味な接客をしてくれたら、大人のお友達も大盛り上がりだ」

「あなたがなにを言ってるのか最初から最後まで全然わからないんだけど⁉」


 全力で抗議を叫ぶフレデリカ。


「むむ……⁉ フレデリカを褒めるのはいいけどセラは⁉ セラも同じの着てるんだけど⁉」


 同じくヴィクトリア風のメイド服に身を包んでいるセラは、こっちも見ろとばかりにぴょんぴょん跳ねた。

 シックさの欠片もない、いかにもちんちくりんなメイドといった感じだが、まあこれはこれで需要があるのは間違いない。


「おう、いいと思うぞ。お客に(孫を愛でる感じで)飴ちゃんとかたくさんもらえそう」

「飴⁉ 飴おいしいやったー!」


 セラは無邪気に喜ぶと、バンザイとばかりに両手を上げた。


「わたしもやるわよー。見てて兄さん、ガッツリ稼いでみせるからねっ」


 別に生徒ではないドロテアもメイド服を着てやる気満点。体を気遣いハラハラするマシューをさて置き、セラと一緒になってバンザイしている。


「お、オレはどうしたらいいんだ? まさかオレまでメイド服を……っ?」

「んなわけあるか」


 顔を真っ赤にしてトンチキなことを言ってるマックスの頭をグシャリと撫でると。


「おまえは俺と一緒に料理するんだよ。女手が獲られてる関係上、馬車馬のように働いてもらうかんな」

「お、おうそうか……」


 喜んでいいのか悲しんでいいのかわからない、みたいな顔をするマックス。

 とまあそこまではいいのだが……。


「あとはティアか……あいつはどこ行った?」


 ついさっきまで顔を真っ赤にしてメイド服を抱きしめていたはずのティアだが……。


「ここにいるよ。セラの後ろ」


 よく見ると、セラの後ろにしゃがみ込むようにしたティアの姿がある。


「お、そこにいたか。どうしたんだ隠れて」

「ど、どうしたんだもなにもですね……っ」


 耳まで真っ赤になったティアもまた、か弱い抗議の声を上げる。


「わ、わたしみたいな路傍(ろぼう)の石ころがこんな格好して客引きするだなんて、それこそ神への冒涜(ぼうとく)と言いますか……っ」

「ん~、どれどれ?」

「ぴゃー⁉ 見ないでくださいぃぃぃっ!」


 悲鳴を上げるティアをのぞき込んだ。


「なんだ、似合ってるじゃないか。可愛い可愛い」


 もともと見た目が天使なティア。しかも小さな子供が労働着を着ている姿というのは大人には可愛く見えるもんなんだ。健気で、頑張ってる感じがしてさ。しかも今回の場合はそれがメイド服で、着ているのが超絶苦労人のティアときてる。


「なんだろ、思わず泣けてきたわ……」

「えええっ⁉ 涙っ⁉ なんでですか⁉」


 熱くなった目頭を押さえる俺に驚くティア。


「やれやれ、今日も今日とて賑やかにやっているな、キミたちは」


 そこへやって来たのはひとりの女の子。

 年のころなら十五、六といったところだろうか。メイド服に身を包んだ女の子はモデル体型で、スラリと身長が高く腰がキュっと引き締まっている。

 顔つきは凛としていて、声も涼やかで宝塚風な感じで……ん? 


「おまえまさか……キャリカか?」


 俺の言葉に、場が騒然となる。


「あれがオス……キャリカさん⁉」

「女性だって聞いた時は驚いたけど、こうして見ると納得だわ!」

「綺麗! 美人!」

「妹にして欲しい……っ」


 一部おかしなのも混じっているが、反応はおおむね良好。


「キミがこの服を着ろと言ったくせに、なにをいまさら……」


 キャリカはいかにも呆れ気味にため息をつくが……。


「しかたねえだろう。こんなに化けるとは思わなかったんだから」


 それは本音だ。なにせこいつは元がいいから女装……ではなく、本来の性別である女性っぽい格好をすれば社交界の花形になれるだろうとすら思っていた。

 しかしまさかこれほどとは……。


「変わるもんだな、ホントすげえわ」

「ふ……ふん、見た目などどうでもいいっ。その者の本質こそが大事で、それ以外は些末(さまつ)なことだっ」


 腕組みしてつまらなそうに吐き捨てるキャリカだが、薄っすら化粧なんかしてるところを見るに、それなりに気合いが入っているようだが……。


「と、ともかくこれで(みそぎ)は済んだな。もうオスカー(なにがし)などという人間はこの世のどこにも存在しない。これから先のボクは『守護騎士』、純然たるキャリカ・ペリオールだ」


 キャリカが性別や身分を明らかにしたことによって、オスカーという人間は死んだ。

 そうなればもう、俺と同室ではいられない。というかそもそも、学校にもいづらい状況だ。

 そこでキャリカは、一時休学することにした。

 ここ最近は姫と共にカルナックの高級宿に拠点を移していて、俺らでも動向はつかめていなかった。

 このままお別れというのは寂しいと思い、収穫感謝祭に参加するよう誘ってみたのだが……。


「とにかく頼むぜ。おまえは料理番ズの貴重な戦力だし、見栄えのいい売り子はいくらいたって足りないからな」

「ふん、売り子に関してはうまくできるかわからんが、やれるだけのことはやってみよう。騎士として、友人の危難を見捨てるわけにはいかないからな」


 キャリカはそう請け負うと、ちょっとだけ……ホントにちょっとだけ嬉しそうにして見せた。


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― 新着の感想 ―
キャリカさんとマックスくんちゃん(装備済)を並べておけばお客さん達の何かの扉が片っ端からぶち破られそうですねぇw
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