「ティアとキャリカ」
ティアを連れてカルナックに戻った俺たちは、さっそく事の次第を衛兵隊に報告した。
んで――
ティアの両親は虐待と誘拐、並びに盗賊団と結託した罪で投獄された。
人身売買それ自体は罪とならないのがリディア王国の国法だが、国教であるルキウス教の信徒に危害を加えようとしたことを重く見られ、無期懲役となったらしい。
盗賊団は首領であるスカーフェイスの罪が最も重く縛り首に、キャリカの光の剣の餌食にならなかった数人の生き残りについては死より辛いと噂の鉱山送りになったらしい。
しかし、悪党ども一網打尽のハッピーエンド……とならないのはやはりティアの処遇。
「ドラゴンが無罪で自分たちだけ投獄されるのはおかしい」とティアの両親が騒いでいるそうだ。それ自体は狂人の戯言として片づけられたし、衛兵隊にも「そのような事実はない」と伝えたが、国の上層部に関してはそうはいかなかった。
ここまでの騒ぎになってしまった以上キャリカとしては報告せざるを得ず、結果として次のような裁定が下された。
異形ならば即討伐がルールだが、ティアは人間なので亜人と換算できる。ルキウス教の信徒であり、その信仰心や日々の暮らしぶりに関してグランドシスターが全面的に保証し、全力で助命を嘆願してくれた。
さらに尽力してくれたのがキャリカだ。王家の懐刀かつレティシア姫の寵愛の篤い彼女がティアの保護と監視を上申した。もし理性を失い暴れるようなら自分が即座に斬り捨てるとまで断言したこともあり、本当の意味でティアの命は守られた。
ティア関連の騒動が落ち着いてしばらくしたある日、夕飯の後始末の終わった厨房にて。
「ホントにオス……キャリカには助かったよ」
「問題ない。当然のことをしたまでだ」
俺の礼を、キャリカはあっさりと受け流した。
「半年と少しとはいえ共に戦った間柄だ。戦友というのはおおげさかもしれないが、なにかあったら守ってやりたいとは思っていた。それにボクの場合、彼女のことは他人事ではないからな……」
研ぎ棒で包丁を研ぐのをやめると、キャリカは少し苦い顔をする。
……そうか、そういえばこいつも亜人だったんだ。
光の剣の使い手なんて聞こえはいいが、裏を返せば『どんな身体検査も回避して武器を持ちこめる危険人物』だ。しかもそいつがあの威力ときてる。
あの日盗賊団に対して振るわれた、『なんでも切断できる伸縮自在の如意棒』みたいな光の軌跡を思い出し、俺は思わず唾を飲みこんだ。
おっと、これじゃ俺が怖がっているみたいだな。ティアとはまた違ったベクトルでこいつもさんざん恐れられてきた口だろうし、ここは大人の余裕を見せてやるか。
「言っておくが、俺はおまえのことを怖いなんて思ってないぞ?」
「わかってるさ、これはあくまでボクの問題だ。小さな友人を騙していたことへの詫び、といったところだ」
俺の気遣いを、キャリカはふふっと笑うと。
「それに、キミが恐れるべき相手は他にいるだろう?」
ついと下げたキャリカの視線の先にいるのは、当然の如くのセラ氏。
俺の腰に抱きつき「ぐるるるる……っ!」と犬のように、もとい狼の子供のように唸ると。
「ジロー、セラのもの! 絶対渡さない!」
怒りのあまりだろう、カタコトになっている。
「落ち着け落ち着け、俺とこいつはそんなんじゃないから」
「そんなことないもん! ジローがそう思っててもオス……キャリカがどうかはわかんないもん! カーラさんとかフレデリカのこともあるし……!」
なかなか納まらないセラは、シスター長やフレデリカに対してまで濡れ衣を着せまくる。
「しかたねえなあ~……」
なかなか納得してくれないセラに弱りきった俺が、ぽりぽりと頭をかいていると……。
「キャリカさんには本当にお世話になりました。わたし、どうやってお礼をすればいいか……」
エプロンを綺麗に畳んだティアが、申し訳なさそう頭を下げると。
「礼なんて必要ないさ。キミはボクの友人だし、秘密を抱えた同胞でもあるんだから」
キャリカはすっとしゃがみ込み、ティアと視線を合わせると。
「これからもなにかあったら気軽にボクに話してくれ。先輩として相談になってやれるかもしれないからな」
「きゃ、キャリカさん……っ」
感極まったティアは、うるうる半泣き状態で耐えていたが……。
「ティア隊員、大丈夫だからね? セラ隊長もついてるからね?」
セラが「よーし、よしよし」とばかりに某○ツゴロウさんのように頭を撫でて慰めると、ティアの涙腺はたまらず決壊。
「う、うわあ~ん。ありがとうございますうぅぅ~……」
どばーっとばかりに涙の滝を流し始めた。
一方、セラの拘束から解放された俺は、ほっと安堵の息を吐いた。
「……しっかしまあ、大変なことになったもんだな」
改めて考えると、怒涛のような日々だった。
キャリカが実はレティシア姫の部下で、かつて兄王子を蹴っ飛ばした俺の監視任務を受けていて。
ティアが実は人間ではなくドラゴンで、両親から盗賊団に売り飛ばされる直前までいって。
そのティアの危機をキャリカが救って、そんでもって……。
「……なあ、本当に大丈夫なんだろうな? いきなり足元すくわれたりしないだろうな?」
子供たちには聞こえないような声で、俺はキャリカに訊ねた。
「大丈夫に決まっているだろう。ティアの処遇については姫様が認めてくれたのだ。姫様はやると言ったことはやるお方だ。一度自分で言った言葉を引っ込めることはあり得ない。ティアを保護すると言ったら保護するのだ」
「姫はそうかもしれんけどさ……」
俺が引っかかっているのは、やはりティアの処遇についてだ。
キャリカがティアを監視し、護衛も勤める。それで当面の間は安全でいられる。
だが、今後はどうなる?
姫が保証してくれたとしても、リディアの王家そのものがティアという存在を放っておけるのか?
今まで存在したことのない『人間から派生したドラゴン』で、しかも繁殖の可能な女の子で(言い方は最悪だが、許せ)。『取り替え子』でなく継続的にドラゴンの子供を生み出し兵器にしようと試みる可能性だってゼロではないはずだ。
そんなティアを、科学的にも魔術的にも宗教的にも軍事的にも、とにかくあらゆる面で脅威となる存在をいつまでも隠しておけるわけがない。そういう見方もできる。
そして、もしそうなったとしたらティアはどうなる?
「王家としてはどうするつもりなのか。そこが怖いと思ってるんだよ」
「ボクもそこまでは聞かされていない。だが、決して悪いようにはならないはずだ。姫様を信じるボクを信じろ」
俺たちがそんな話をしている時だ。
「ほおおぉ~? ずいぶんとせせこましいところじゃな。本当にこんなところにわらわの騎士がおるのかのう?」
若い女の声がした。
典雅でゆったりした言い回しから察するに、どこぞのお貴族様といったところか。
「レ、レティシア様っ?」
一番最初に反応したのはキャリカだ。
振り向くなり、その場にひざまずいて臣下の礼をとった。
キャリカの言葉に反応したマックス、マシュー、ドロテア、ティアも即座にそれにならった。
皆の反応から察するに、黄金色の縦巻きロールのこの少女がレティシア姫その人なのだろう。
年の頃なら十四、五といったところだろうか。すべての人間を見下したような、ひと癖もふた癖もありそうな目をしてるが……ん?
「ん? ん? んんん~?」
臣下の礼をとるのが遅れた(まあ臣下じゃないが)俺とセラの目は、姫の後方に控えている少女に釘付けになった。
「……フレデリカ? なんでおまえがここに?」
「はあああ~……まったく、こんな形で再会するなんて……最悪っ」
ウェービーヘアをかきむしりながら苛立たし気にため息をつくそれは――うん、間違いない。ザント修道院を旅立って以来半年ぶりに見る、ツンデレお嬢様の姿だった。
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