「オスカーの正体」
~~~ジロー視点~~~
ブラガンさんの貸してくれた古地図、そして有力地点を絞った結果が即座に出た。
神学院の周辺で聞き込みを開始した俺たちは、奇跡的な一発ヒットを引き当てた。
肝っ玉母ちゃんみたいな外見の軽屋の女亭主から『挙動不審なお子様シスター』の情報を入手できた。ただしそこには『怪しげな黒服連中があとを追っていった』という情報も付随しており……。
「うおおー! 急ぐぞおまえたちー! 悪党どもの手からティア隊員を救うのだー!」
ティアのピンチを知ったセラが、全力で先頭を駆けた。
「待て待てセラ! ひとりで突っ走るな!」
セラは体が小さいものだから、灌木の下をくぐったり大人では通れない木の間を通り抜けたりといったアクションがとれる。
対してこちらはオスカーと俺がついていける程度。ブラガンさんべニアさんは山歩きなんてしない人らだし、マシュードロテアに関しては言わずもがな。
「ええい……マックス頼む! みんなを連れてついて来てくれ!」
「お、おう任せろ!」
マックスにみんなのことを頼むと、俺は全力で走った。
藪を突っ切り、倒木を飛び越え。
木の枝で顔を打ち、石につまずいたりしながらも、必死でセラに食いついていく。
「ジロー……大丈夫か⁉ 顔から血が……っ」
並走するオスカーが心配してくれるが……。
「ええい、んなもん知るか! 今はとにかく走るのみなんだよ!」
額に垂れ落ちてきた血をぐいと拭いながら、俺はとにかく先を急いだ。
どうしてそこまでするのかなんて、言うまでもないだろう。
セラを見失うことが怖かったから、そしてティアが攫われることを恐れたからだ。
「ハアッ……ハアッ……くそっ!」
失われた妹の霧のこともあるが、俺は子供が傷つくことを許せない。
泣いて苦しむ姿を想像するだけでも死にたくなる。
ましてや相手はティアだ。
セラの初めての年下の友達で、親友で。料理番ズとしても一緒に働いて。このままいけば共にザント暮らしになったかもしれない。
まごまごしてたら、そんないいコの命が失われるかもしれない。
それも、生まれが悪かったというただそれだけの理由で。
「そんなの……そんなのっ、許せるかよおおおーっ!」
「うおおおっ⁉ すげー! ジローはえええーっ!」
一気に速度を上げ――上げ過ぎてセラまでも追い越した俺は、藪を抜けた瞬間その場に出くわした。
ティアの角(?)をスカーフェイスが掴み、ニヤニヤ笑いを浮かべているところに。
ティアがどれだけ謝っても許さず、セラたちを心理的な人質にとっているところに。
ティアの絶望の表情を、心底から楽しんでいるところに。
「てっめえええええはあああーっ!」
瞬間、頭に血が上った。
目の前が真っ白になった、と思った次の瞬間には拳が飛んでいた。
次いで、拳の先に軽い感覚――そのあまりの軽さに驚く間もなく、スカーフェイスの体が宙を舞っていた。
「ふー……っ、ふー……っ」
殴り飛ばしてもなお、憤りは納まらない。
血液が逆流し、脳の血管が切れそうだ。
「ふー……っ、ふー……っ」
傍らにはティアがいて、呆然とした目を俺に向けている。
驚きと恐怖がないまぜになったような、複雑な色の瞳をしていた。
なにか声をかけてやるべきだ、そう思ったがなかなか出てこなかった。
――どうしてドラゴンだってことを言ってくれなかった?
いや、これじゃティアを責めてるみたいだ。
――俺たちが怖がると思ったのか?
やっぱり責めてるみたいだ。ダメダメ。
――辛いことがあるなら頼ってくれよ。仲間だろ?
やっぱりダメだ。なんだって俺はこう不器用なんだ。
そうじゃねえ、ホントにこいつに言ってやるべきは、安心できるひと言なんだ。
よく頑張ったんなって、もう大丈夫だぞって。
これまでのこいつの不幸せを、孤独を、今まさに目の前に迫っていた絶望をぶっ飛ばすような、そんなひと言なんだ。
「――待たせたな、ティア」
俺はティアに振り返ると、こう言った。
「怖かったろ? だけどもう大丈夫だ。俺が来た。これ以上おまえに、指一本たりとも触れさせねえ」
まるで少年漫画のヒーローみたいなひと言を。
異世界から来た無敵の勇者ではなく、押せば倒れるし刺されば死ぬ普通の料理番であったとしても――それでも、この一瞬こいつが安らぎ、救われてくれるなら構わない。
おおいに誤解し、頼ってくれ。
「あと、秘密のことなら全部聞いた。そんでもって、気にすんな。俺たちの中の誰ひとり、おまえを怖がったり嫌ったりする奴はいないよ。だって俺たち、料理番ズの仲間じゃないか。毎日毎日朝から晩まで料理して、時には勉強もして。辛い学院生活を耐え忍んできた仲間じゃないか」
ティアの頭をぐしゃぐしゃにかき回すと、さらに言った。
「なあ、ゴミどもに襲われて、怖かっただろ。腹が減って、喉が渇いて、大変だっただろ。なのによく頑張ったな。偉いぞ、ティア。――そんでもって、もう大丈夫だ。|あとは任せろ《・ ・ ・ ・ ・ ・》」
ティアを安心させるべくとびきりの(俺の中では)笑顔を作ると、黒服たちに向き直った。
ざっと見たとこ、数は十人強。それぞれが棒やナイフを構えてる。
対してこちらの戦力は……ボクシングのワンツーみたいな真似をしているセラは無視して、ガクブルしてるブラガンさんべニアさんも除外して……マックスは棒きれを構えてるが、体格差もあって厳しいか。となると残るは俺と……。
「……おいオスカー、半分いけるか?」
ひとりで五人強を相手する。
言うのは簡単だが、実際には至難の業――だが、泣きごとなんぞは言ってられねえ。
死にもの狂いで、やるしかない。
「半分だと? 誰に聞いている」
オスカーはしかし俺の問いかけを鼻で笑うと、手を頭上へ振り上げた。
何もない|空間を握った《・ ・ ・ ・ ・ ・》かと思うと、そこから「ズズズ……ッ」とばかりに光り輝く剣を取り出した。
………………え?
「おまえ……なにそれ?」
ポカンとする俺をその場に置くと、キャリカは盗賊団に向けて一歩を踏み出した。
「この世の見納めに聞かせてやるぞ、悪党ども。ボクの名はキャリカ・ぺリオール。リディア王家の御方々をお守りする『守護騎士』だ」
オスカーの――いや、キャリカの名乗りに黒服たちはザワついた。
「げえっ、『守護騎士』⁉」
「王家の懐刀じゃねえか、なぜこんなところに⁉」
「てことはあれが『光の剣』か……っ」
「ざけんなよ勝てるわけねえっ! おまえら逃げるぞ!」
黒服たちは慌てて逃げ出したが、キャリカはそれを許さない。
光の刃は如意棒の如く伸縮自在で斬れ味も鋭く、木の幹を盾に逃げようとすれば木の幹ごと、岩を盾に逃げようとすれば岩ごと切断する凄まじさ。
まさに防御不能逃走不能の攻撃に、黒服たちはバッタバッタと斬り伏せられていく。
「……ふん、雑魚どもが」
時間にして五分もかからなかっただろう。
ひとり残らず黒服を斬り伏せたキャリカはつまらなそうに吐き捨てると、光の剣を空中に納めた。
かと思うとティアを優しく抱き起し――
「怖かったか? だが安心しろ。悪党どもは残らず斬り捨てたからな」
今まで見たこともないようなキラリと優しい笑みを、ティアに向けた。
……ん~。
…………え~と。
………………いや、いいんだぜ?
この結果自体は喜ばしいことなんだけど……。
「なんか……なんかさ……」
俺は事態の解決を喜びつつもなんだか拍子抜けしてしまい。
「……おまえ、おいしいとこ全部持ってくのズルくねえ?」
「なにを言ってるんだキミはっ⁉」
「俺けっこう死にもの狂いの覚悟を決めてたんだけど……」
「なにを言い出すのかと思えばそういうことか。ハア……」
キャリカはいかにも呆れたという風にため息をついたかと思うと、そっと俺の耳元で囁いた。
「それよりジロー、こうなったからには覚悟しておけよ? これから先が大変だからな……」
キャリカの目線の先では、頭上にハテナマークをたくさん浮かべたセラがいる。
「きゃりか……? おすかー……? どっちなの? んん~……?」
腕を組んで、頭を右へ左へと傾げて。今起こった出来事について思いを巡らせているようだ。
「あちゃー……そうだった」
俺は思わず頭を抱えた。
オスカーの存在がキャリカであること、身分はともかくその正体が女であることを知ったセラがどう出るか、それはあまりに恐ろしすぎて……俺はしばし考えることをやめた。
ふたりの恋愛(?)の続きが気になる方は下の☆☆☆☆☆で応援お願いします!
感想、レビュー、ブクマ、などもいただけると励みになります!




