「彼女はどこに」
~~~ジロー視点~~~
物資集積所に踏み込んだ時には、事はあらかた終わっていた。
盗賊団の首領たるスカーフェイス以下数人は逃げたようだが他の黒服たちは意識を失い、あるいは行動不能となっていた。
ティアの両親は抱き合いながらガクガクと震え、何もしゃべれなくなっていた。
セラにはケガらしいケガもなかったが、肝心要のティアがいない。
聞けば、彼女はドラゴンだったのだという。
人からドラゴンに変化した種の、幼生体なのだという。
「そんな『取り替え子』あり得るはずが……いや、だからこそ闇の世界では高く取り引きされるということか?」
マシューは盛んに爪を噛み。平静を保とうとしている。
異世界人の俺にとってはいまいちピンとこない価値観だが、ティアが相当の希少種だということだけは理解できた。それこそセラに並ぶぐらいの。
「しかしわからんな。ティアが世にも珍しい希少種で、そこへ盗賊団が絡んで来るところまではいい。だが……」
俺は未だ震えているティアの両親を一瞥すると。
「なんだってまた、おまえらは一度ティアを手放したんだ? そもそも捨ててさえいなきゃ、こんな結果にはならなかったはずじゃないか。ずっと手元に置いて、適度に育ったところを売ればいいじゃないか。殺したいほどにムカつく理屈だが、それが一番合理的なはずだろう」
「そ、それは……」
ティアの父親アランが言うことには……。
「最初はただ恐ろしかったんだ。赤ん坊にして肉の骨まで噛み砕くような子供だぞ? 間違ってジャレつかれでもしたら命が無い。しかもいずれは巨大なドラゴンになるんだ。そうなったら隠しておくことなどできるわけもない。王国軍の討伐隊に補足されて、殺されて終わり。親であるわたしたちだって無事に済むはずがない。そうなる前に売れればいいが、まともな機関には売れない。失敗する可能性もあるし、リスクがあまりにデカすぎる」
「ああ~、亜人はともかく、異形は討伐対象なんだっけ?」
人間が変化するのは基本的に亜人だが、今回はドラゴンだから異形になると。
「んん~……しかし、ティアが危険ねえ? ホントにそうかあ~?」
俺は首を傾げた。
たしかにティアは危険性を孕んだ子供かもしれない。
俺のいた世界でいうならヒグマと一緒に暮らすようなもんだ。ジャレつかれれば最悪死ぬし、本気で腹ペコになったら喰い殺されることだってあるかもしれない。
でも、ティアにそんな様子はなかった。
あいつは気弱で、いつだって他人の視線に怯えてた。
そのせいで色んなことに気が付き、人生二週目なんじゃないかってぐらい大人な行動ができた。
今回ドラゴンに変身したのだって、漫画やアニメであるような制御の失敗とかじゃない。ただただセラを守ろうとした結果だ。
墓の下まで持っていくつもりだった秘密を明かしてまで、なんだったらザント行きをご破算にしまで、加えていうなら人間社会で生活できなくなったとしても構わないと判断したんだ。
初めてできた友達のために、他ならぬセラのために。あいつは。
「……うん、やっぱりないな。ないない」
ティアが人に危害を加えるなんてことはあり得ない。
そんな風に俺が納得していると……。
「もとはと言えばあなたが悪いのよ! 借金ばかり作って!」
「男遊びばかりしてるおまえには言われたくはない!」
ティアの両親はぎゃあぎゃあといがみ合いを始めた。
その様は醜く、汚い。どっちが異形だかわかりゃしない。
本音を言うならこの場で三枚に卸してやりたいところだが……。
「……ま、俺がしなくとも裁きは下されるだろう」
オスカーの剣幕と、未だ謎の深いそのツテの存在。
そもそものこいつらの多額の借金。
どう考えたって、この先無事に生き残れるとは思えない。
「それに、俺にだって非はあるしな。預かった子供の窮状にも気づかずのんびり過ごして……ハア~」
俺は思い切りため息をついた。
そうだ、もしも俺がグランドシスターみたいに感覚の鋭い教育者なら、ティアの窮状や秘密に気づけてやれたはずだ。
「ふん、落ち込んでる暇はねえな」
俺はバシンと自らの頬を張ると。
「セラ、ティアを追うぞ。引きずってでも連れ戻すんだ」
「うん! わかった!」
同部屋の親友が人間ではなかったという衝撃に早くも順応したセラは、ゴーゴーとばかりに拳を突き上げた。
「セラ商隊の副長を取り戻すんだ!」
いつの間に副長に格上げされたのかは知らないが、力強く宣言した。
ティア捜索を開始した俺たちだが、なかなか結果は出なかった。
「大きな鳥みたいなのが西の方角に飛んで行った」ぐらいの目撃報告しかないから無理もないっちゃないのだが、問題は探すべき範囲が広すぎることだ。
カルナックの街、街の外、自然にあふれた森・山・川。ティアのサイズなら隠れようと思えばどこにだって隠れられるだろうし、ドラゴンとしての飛行能力もわからない。
「とはいえあまり人里から離れるとも思えねえし……ここはカルナック周辺に詳しい人に助力を願うか?」
てことで招聘したのはブラガンさんとべニアさん。
「すいませんブラガンさん、お忙しいのにつき合わせてしまって」
「いえいえ、まったく問題ありません。忙しくしていられるのはそもそもジローさんたちのおかげですし。ティアちゃんにも助けてもらったし。その恩人の危機となれば万難を排してでもお供いたしますよ」
「ありがとうございます。助かります」
『開放祭』からこっち、てんてこまいの大忙しなのにもかかわらず、ブラガンさんは即座に協力を約束してくれた。
ティアの事情を明かした時はさすがに驚いていたが、すぐに気を取り直すとベニアさんと一緒になって、周辺の古地図を引っ提げ駆けつけてくれた。
「ちなみに探すべき目標は定まっているのでしょうか?」
「ええまあ、さすがにドラゴンの生体なんてわからないんで、ざっくりとした想像ではありますが……」
ただでさえ大食漢のティアだ。ドラゴンになったらなおさら栄養が足りず、えらいことになっているはずだ。
ということはどこかで一度、大量に栄養を摂取する必要がある。
ドラゴンなら野生の猪を喰ったり鹿を喰ったりでなんとかするのだろうが、あいつのベースはあくまで人間。狩りなんてすぐには出来ないだろうし、そもそも俺の料理で完全に舌が肥えてる。生肉なんぞじゃ絶対に満足できないはずだ。
「大丈夫です。あいつの胃袋はガッチリ掴んでますんで」
「いぶくろを掴む……?」
はてと首を傾げるブラガンさんに事情を説明しつつ、俺は改めて捜索隊の指揮をとった。
方針としてはこうだ。
まずはティアの生存、次にドラゴン変身という秘密の保持。
この配分がけっこう難しいので、それぞれの役割を徹底的に絞ることにした。
具体的には供出してもらった街の衛兵たち十六人のうち八人を要所に立たせて連絡役に、残り八人を聞き込み役に。そのうち誰かがティアの行方を掴めば即座に狼煙を上げ、俺たちの到着を待ってもらうことにした。
一方で俺・ティア・オスカー・マックス・マシュー・ドロテア・ブラガンさん・べニアさんの八人は秘密の打ち合わせをした。
「皆、聞いてくれ。そもそも論、ティアには持ち金がない。かといって野生の動物を喰う勇気はないだろうし野草に関する知識もない。よそさまの台所に侵入して盗み食いなんて大胆な真似もできんだろう。ならば狙うのは畑に生えているもの、それも麦みたいな脱穀を必要とするのじゃなく、そのまま食えるものを狙うはずだ。具体的には野菜だ。てことでまずは西に広がる野菜の栽培地帯、あとは街道沿いのこことここと。そして最後が本命の……」
俺は地図の一点を指差した。
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