「喪失①」
「……やれやれ、時間をくっちまった」
セラたちを見送ったはいいが、休み時間に遊びに来た生徒たちの相手をしたり、指導教官の愚痴を聞いていたりしたせいで、神学院を出るのが遅くなってしまった。
「子供たちだけで街に送り出して、自分は仕事にかまけて、元の世界だったら炎上案件だな」
まあチンピラどもを眼光だけで追い払ったオスカーがいるんだ、安全面では大丈夫だろうが……。
「ジロー? おまえはなんでここにいるんだ?」
突然話しかけてきたのはマシューだ。
息を弾ませ、ずいぶん慌てた様子だが……。
「なんでってそりゃあ、夕飯作りの指示書をだな……」
「そんなことはどうでもいいっ」
「いや、よくはないだろう。俺は神学院の生徒であると同時に料理番でもあってだな……」
「いいか? 落ち着いて聞けよ? いや、落ち着いてる暇はないんだが……っ」
俺の肩を掴むなり、マシューは言った。
どうやら相当混乱しているようだが……。
「ついさっき聞いた情報だが、街におかしな連中が入り込んでいるらしいんだ」
「……は?」
「入り込んだのはここ数日前かららしいんだ。カルナックに避暑に来た富裕層を狙った盗賊団だと思うんだが……」
「おまえまさか……街へ遊びに行ったあいつらが危ないと思ってんのか?」
否定したい気持ちはある。
だけどたしかに、最近のあいつらは目立っていた。
カルナックタイムズの新聞記事になり、個人が特定できるレベルのイラストまで掲載されて注目を浴びていてた。
もちろん、それだけじゃ根拠は薄いぜ?
たまたまこのタイミングで盗賊団が来て、たまたまそいつらが新聞記事を見かけて……だなんて、あんまりにも杞憂が過ぎる。
「まさか……」
俺は自分に言い聞かせた。
なにをビビってんだと。それはあまりにチキンすぎるだろと。
でも……もしかしたらとも思うんだ。
再会できると思っていた霧と、二度とは会えなかった時のように。
ザント修道院を襲った大豪雪の折、ランカとレオナの双子が雪崩に飲まれた時のように。
不運は、偶然は、時に恐ろしいほどに重なるもんなんだ。
「まさか……まさかだろ」
ある可能性に思い当たった俺は、背筋をゾッとさせた。
そうだ――たとえ新聞記事が関係なくても、そもそもそいつらがセラの秘密を知っていたら?
あるいはドロテアの身分を知っていて、身代金目的の誘拐を計っていたのだとしたら?
「……行くぞ、マシュー」
俺は走り出した。
すべての杞憂を払拭するために。
億が一の不幸。その可能性すらぶっ飛ばすために。
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