「ティアの過去」
いったん神学院に戻った俺たちは、それぞれの荷物を自室に置いた後、改めて俺とオスカーの部屋に集まった。
皆が見つめる中、とつとつとティアが話し始めたのは彼女の辛い半生だ。
修道院でひどいイジメに遭っていたこと。
罵倒を浴びせられる、飯をぶちまけられるといったレベルのものじゃなかったこと。
背中や腹などの見た目ではわかりづらい場所を殴られ蹴られ、もしそのことを明かしたりすればもっとひどい目に遭わすぞと脅されてすらいたこと。
セラがかつて味わったそれらをぎゅっと濃縮したような、陰湿で暴力的ないじめを日常的に受けて育ったのだ。まだ十歳の、小さくか弱なこのコは。
「……ほう」
それでも逃げ出したりしなかったのは、他に行き場がなかったからだ。
両親に捨てられたティアにとっては修道院こそが我が家であり、それなくしては生きることが出来なかったからだ。
だからどんなにひどい扱いを受けても死ぬよりはマシだと自分を騙し、誤魔化し、日々を生き延びてきたのだ。
そんな心の防壁が――ここにきて、とうとう崩れてしまった。
「……なるほど」
理由は単純だ。
神学院に来て初めて、ティアはよその修道院の事情を知った。
自分が耐えてきたこれまでのあれやこれやが、決して不可避のものではなかったことを知ったんだ。
セラを始めとした友達もできて、その上で今の幸せがそう長くは続かないことを理解して――改めて絶望の涙を流したんだ。
「……わかった、そいつらまとめてぶっ殺そう」
ティアの話を聞き終えた俺は、次の瞬間腕まくりして、鼻息を荒くして唇を噛んでいた。
今すぐそいつらの顔面をぶん殴って、墓の下に送り返してやりたい、本気でそんな風に思っていた。
それは皆も同じのようだった。
セラは麺棒(……どうして持ってる?)を振り回して興奮してるし、マックスも顔を赤くして地団太を踏んでる。オスカーは殺し屋の目つきになってるし、ドロテアはティアにすがりついてギャン泣き、マシューも唇をぎゅうと噛みしめながら部屋の中をウロウロしてる。
「……」
ああ、皆同じなんだなと、俺は思った。
ティアは仲間だ。歳は離れているが友人であり、妹のような存在だと思ってる。
人格的にも素直で、控え目な苦労人タイプで、こんなコがそんなひどい目に遭うだなんて理不尽があっていいのかと憤ってる。
この世はなんでこんなに不公平なんだよと、創造神に対して怒ってる。
「とはいえどうしたもんか……あ――」
俺は唐突に閃いた。
『神様なんてこの世にいない』
かつてザント修道院の厨房でセラとボヤき合ったあの言葉を思い出して……思い出して……。
「……そうか、神様を頼ればいいんだ」
唐突に閃いた。
この難事に対する解法を。
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