「カルナック式北京ダック」
「ま、ここは論より証拠ですね」
百聞は一見に如かずとも言うし、俺はとにかく実物を見せることにした。
といってもお店で日常に提供するものなので、特別なことをするわけじゃない。
「まずは衣を作りますので、見ていてください」
北京ダックというのは言わずもがな、中国は北京の王道料理だ。
明時代に産まれ現代まで様々な変遷を経ているが、基本的にはアヒルをパリパリに焼いたものを薄餅で挟んで食す料理だ。
鴨もアヒルも似たようなもの(野生が鴨、家禽がアヒル。肉質などに違いはあるが)なので、カルナック名物の鴨を使うには適した料理だと思ったわけ。
「難しいことはありません。小麦粉に塩に油、それらをふるいにかけて混ぜ合わせ、フライパンで薄く焼く。それだけです」
皆が手を止め工程を見守る中、クレープ生地を作るようにどんどん焼いていく。
この辺はこだわり出せばキリがない領域で、蒸して作ったり砂糖を混ぜたりと他にも方法はあるのだが、速度的に作業量的にもこっちの方がいいだろう。
「さ、次は最重要作業である揚げと焼きですね」
説明ながら俺は、フライパンに熱した大量の油を指差した。
「まずはナマズのフリット――」
ちなみにフリットというのは欧風天ぷら。
フリットも天ぷらもどっちも似たようなもんだろと思われるかもしれないが、天ぷらは小麦粉を卵や水で溶いた衣をつけて揚げるもの。フリットは卵白を泡立てたメレンゲに小麦粉、卵黄・油・牛乳・塩を混ぜた衣をつけて揚げたものだ。
メレンゲを使うことや食材が多くなる分、フリットの方がカリフワな食感になるのが特徴になる。
「べニアさん。基本はこんな形で、どんどん揚げていってください」
「は、はい。わああ……わたしに出来るかなぁ~……?」
衣をつけたナマズの切り身をフライパンに投入して揚げるタイミングなどの基本の部分をべニアさんに教えると、次はブラガンさんだ。
「ブラガンさんにお願いしたいのは鴨のローストですね」
下ごしらえをした鴨肉の両面に焼き色をつけ、あらかじめ沸騰させておいたソースに漬けて煮込む。
三分ほど熱したら火を止め、裏返してもう一回三分加熱する。その後はしばらく放置。それを二セット繰り返す。
そんでもって、この『ソース』がこだわりポイントだ。
避暑地かつ交通の要衝であるカルナック特有の『物資の流入』を活かして新鮮なオレンジを入手。
オレンジ果汁+白ワイン+バター+砂糖+酢を煮詰めて作ったもので、甘味と酸味を引き立てる。
これをナマズのフリットにも適用し、『爽やかかつガッツリ』という二律背反を実現させたい。
「……これは何とも、すごいものですね」
ブラガンさんはいかにも感心したように唸った。
「ジローさんの世界では、こんなにも手のかかる料理を作っていたんですね。こちらではとても考えられないことだ……」
これからの日常において、自分にこなせる工程なのかと不安になっているのだろう。
じゃっかん顔を青ざめさせている。
無理はない。
それはこの世界と俺の世界の差、かてて加えてフランス料理の積み重ねてきた年月の差だ。
例えば日本料理なんかは素材の良さをそのまま出すのが強みだが、フランス料理は全然違う。
植生や繁茂、度重なる飢饉や戦争を経験した結果、『現状ある食材でいかに最大限の旨味を出せるか』が基本となっている。
だから幾重にも工程が重なるし、その分旨味も重なる仕組みになってる。
簡易版でさえこの有り様というわけなのだが……。
「別に気おくれする必要はないですよブラガンさん。世界は変われど素材も調味料も基本は変わらないですから。技術自体は教えることが出来ますから……もしくはもっと工程を省きますか? なんなら二セットじゃなく一セットでも……」
「ねえねえジロー!」
ブラガンさんに対していいことを言おうとした俺に、「どおおーん!」とばかりにセラがぶつかってきた。
俺の腰に抱き着くなり、キラキラお目々を輝かせながらこう言った。
「これはあれでしょ!? いわゆるひとつの……!」
「へいへいそうだよ……」
セラとの「『それが料理だ』!」をハモらせた俺は、照れつつもブラガンさんに、最終工程について説明した。
「とにかく、ここまできたら難しいことは何もないです。オレンジソースを絡めたナマズのフリットと鴨のロースト。こいつを皮に包んで『カルナック式北京ダック』の完成です」
ちょっとお時間空きましたが、連載再開です(/・ω・)/
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