「三日で金貨三十枚」
チンピラ金貸し(ジャックという名らしい)が憤慨して帰るのを見送った後、小心者のブラガンさんは目に見えて動揺し出した。
あっちを見てオロオロ、こっちを見てオロオロ。
大量に汗をかきながら俺にすがる。
「あ……あそこまで言って大丈夫でしょうか。何か仕返しとかされたりとかは……? 殴り込みとか、そういう……」
「大丈夫ですよ。あいつの狙いがこの店とべニアさんである限り、殴ったり物を壊したりなんていうのは逆効果もいいとこですから。今までだって、暴力を振るわれたことはないんでしょう?」
「ま、まあそうですが……」
「安心してください。もし殴り込んで来られても、こっちには頼れるボディガードがついてますから」
「誰がボディガードか」
オスカーはふんと鼻を鳴らした。
「何かあった時に庶民を守る覚悟はあるがな。しかしジロー、ずいぶんと勝手に話を進めるじゃないか。もし万が一にも勝てなかったとしたら、どう責任をとるのだ?」
「俺が? 負ける? はん、バカ言え」
これまでの凋落ぶりはともかく、『湖畔亭』の立地は抜群だ。
最も賑わいのある大通りに面し、建物建具の具合も絶妙。
本来なら、これで客が来ない方がおかしいんだ。
「勝てるさ、絶対だ」
自信をもって断言すると、ブラガンさんに向き直った。
「てことでブラガンさん、まずはサクッと勝利条件を決めちまいましょう。祭り期間中の三日間で金貨三十枚を稼ぎ出せばこっちの勝ち。これでいいですか?」
「そ、そんな簡単に言いますが、金貨三十枚稼ぐのは大変で……。うちだとそれこそ三か月近い稼ぎになりまして……」
金貨一枚は、円に換算するなら一万円ぐらいだ。
つまり『湖畔亭』の純売り上げはひと月十万円ほど。
一日でひと月分を稼ぎ、それを三日連続してというのだから気が遠くなるのも無理はない。
「大丈夫ですよ。新規のメニューはすでに考えました。ニーズがあり、トレンド面でも優秀なやつがね。しかも作るのは超簡単ときてる」
「そ、そんなすごいメニューがっ?」
「はい。しかも特別な材料を使うわけじゃないんです。ここにあるストックで出来ちまう」
ブラガンさんの経営する『湖畔亭』を盛り立てる新メニューの構築にあたって、俺はふたつの前提を置いていた。
ひとつ、そもそもがブラガンさんに作れる料理であること。
ふたつ、湖畔亭の経営状況に見合った料理であること。
この場では勝てたとしても、俺がいなくなった瞬間にダメになったら意味がない。
この場では勝てたとしても、今後も継続的に作れる料理でないと意味がない。
そういった理由からだ。
「論より証拠といきましょうか。おい、セラは小麦粉と卵を。ティアは水を用意しろ。出来るだけたくさんだぞ」
「おおー!」
「はい! わかりましたジローさん!」
年少組ふたりに指示した後は、年長組のふたりの番だ。
「オスカーはきゅうりの刻み。その後はナマズと鴨の切り、どちらも出来るだけ正方形にな。マックスはメレンゲ作り。丁寧に、角が立つまでだぞ」
「任せろ」
「て、丁寧にだな……? おうよ、任せろ!」
オスカーは一瞬の躊躇もなしに、マックスは武者震いしながらも、難しい工程に挑んでいく。
「い、いったい何を作るので……?」
一心不乱に調理に励む子供たちを見て、返って恐ろしくなったのだろう。
ブラガンさんは顔色を青ざめさせているが……。
「カルナック式北京ダックです」と言ったら、ますますわけがわからないといった顔になった。
そりゃそうか。
「ま、ここは論より証拠ですね」
百聞は一見に如かずとも言うし、俺はとにかく実物を見せることにした。
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