「市場調査」
「うおおお、すごいな。マジで偉いわおまえ。偉いぞマックス~」
「や、やめろジロー! その頭をわしゃわしゃすんのを今すぐやめろっ! オレはガキじゃねえんだからなっ!」
真っ赤になったマックスは、俺の手を振り払うと逃げるように歩き出した。
「と、とにかく行くぞおまえらっ! もたもたすんな!」
「……むむ? なぜマックスが仕切る? ……はっ、まさかセラから隊長の座を奪うつもりかっ
? これがおかーさんの言ってた『げこくじょーっ!?』」
「あわわわわっ? た、た、大変ですうーっ!?」
マックスに対して謎の危機感を感じて青くなるセラと、たぶんよくはわかっていないのだろうがセラに乗せられて一緒になってわたわたと慌てているティア。
「「「うおおお、しじょーちょーさだああああー!」」」
三人の子供たちは市場調査にあるまじき勢いで行動を開始したが――即オチ2コマみたいな勢いで戻って来た。
「ジロぉ~……しじょーちょーさって、いったい何を聞けばいいのお~?」
セラはティアともども肩を落とし、いかにもがっかりといった様子。
「くそっ……誰も話を聞いてくれねえ……っ。これはオレがガキだからか? ナメられてんのか?」
一方のマックスは聞く内容自体はそれほど間違えていないのだが、セラたちのような愛嬌や純真さが無いので単純に相手にされていない。
つまりは愛嬌と純真さが武器のセラたちと、それなりに考えてはいるマックスと。
両陣営が協力すれば上手く行きそうな気もするのだが、そうは言ってもなかなか難しいだろう。
融和を図るためには俺が少し骨を折ってやる必要がありそうだ。
「はいはい、しょうがねえなあ。いいかおまえら。教えてやるから皆で協力するんだぞ?」
ため息をつきつき、俺は説明を始めた。
市場調査とは何か、データ分析の先に何があるのか。
料理学校や|赤坂の三ツ星レストラン《ラパン・グルマン》での経験を元に、セラでもわかるようにシンプル。
「俺の知る限り、大事なのは二つの事項に収束される」
一つ目は『商売するエリアの特性』だ。
自分が飲食店を開く場所を一日どれぐらいの人が通るのか、その人たちはどれぐらいならお金を落としてくれるのか。
いくら人が通っても貧乏人ばかりなら高級店には入ってくれない。その逆もまた然りというわけで、これが最も重要な最初の一歩となる。
二つ目は『商圏の調査』だ。
自分が店を開くエリアはどんな構造をしていてどんな導線があり、どんな競合相手がいるのか。
想定する購買層はどんな食べ物を求めているのか。
以上の二つを決めてから、初めて売るべき商品が決まる。
『売る物を選ぶよりもまず、売る相手を選ぶべし』。これらは飲食店を始める上での鉄則だ。
ニーズとトレンドを無視した飲食は、どれだけ美味い物を出そうが失敗するんだ。
「わかりやすく言うとだな。『収穫感謝祭』が行われる場所は神学院で、これ自体は変えられないが、広い敷地内のどこでやるかは変えられるだろ? 正面のアプローチの両脇に屋台を並べる、果樹園や畑の近くの自然に近い場所にオープンエアな店を開く。ほら想像してみろ。場所によって、気分も食いたいものも全然違ってくるだろ?」
「ああ~、なるほど?」
俺の説明に、セラがポンと手を打った。
「ジローと川原で食べるハムチーズバゲットは美味いしいってことね?」
「うんまあ、大体そういうことだ」
「ジローと雪の積もったお外を眺めながらペミカンのシチューを啜るのは最高ってことね?」
「うんまあ……」
「ジローと夜中の厨房で黒パンバーガーにかぶりつくのは人生最大の幸せって――」
「ストーップ、おまえの食への欲求独演会を聞きに来てるわけじゃねえんだわ」
食欲スイッチが入ってしまったセラにツッコミつつ、俺は続けた。
「こいつのせいでちょい脱線したが、あとはニーズとトレンドだな。『開放祭』で飲食を楽しんだ客が『また食べたいなと思ったもの』を出すとウケるだろ? それがニーズだ。逆に『それじゃ食べ飽きたから、見たことのない珍しいものを食べたい』と思うものを出すと、それもまたウケるだろ? こいつがトレンド。どっちがいいってわけじゃなく、どっちもいいんだ。両方を活かす道を模索する必要があるんだ。そのために聞き込む必要があるんだ。祭りに参加してる料理人に、住民に、旅人に。様々訊ね、限定する必要があるんだ。それはもちろん一人じゃできないことだ。イコール、一致団結する必要があるってことなんだ」
などと得意げに語ったはいいが、あまりにも説明が長すぎたかもしれない。
用語なんかはなるべく簡単なのを選んだつもりだが……。
「「「………………」」」
やば、無言だわ。
皆、ムッツリ黙って考え込んでるわ。
「だ……大丈夫か? 今のでわかったか?」
「「「………………」」」
不安になった俺が恐る恐る訊ねた瞬間、セラ・ティア・マックスの三人はサッと視線を重ねた――
「わかった! やろう! みんなできょーりょくしよう!」
「わ、わわわたしは隊長がいいならそれで……」
「……ふん、しかたねえなあ」
セラは拳を突き上げ、ティアはセラを横目にコクコクうなずき、マックスは腕組みして唇をひん曲げながら――しかしたしかに、うなずいた。
「「「行くぞおおおおおおおおー!」」」
三人は声を上げながら走っていく。
「「「うおおお、しじょーちょーさだああああー!」」」
何度見ても市場調査にあるまじき勢いだが、それだって少しすれば落ち着くだろうし、あの三人が互いの短所を補い長所を伸ばし合ってくれれば、きっといい結果が返ってくるはずだ。
「……おうおう、がんばれがんばれ」
三人の背を見送りながら、ふうと安堵の息を吐いていると……。
「しかしジローは、本当に父親役が板についてきたな」
俺の様子を見ていたオスカーが、「ふふん」と小馬鹿にするように笑った。
「しょうがねえだろ。周りが子供ばっかりなんだから、多少はよ」
まあ実際、俺ももう二十五だしな。
結婚はもちろん、子供の一人や二人いてもおかしくない年齢ではあるしな。
ついつい親父ムーヴをかましてしまうのもしょうがないだろう。
「貶してるわけじゃないさ。神学院に来た時より、ずいぶんと皆の扱いが上手くなったと褒めてるんだ」
「そう言いつつも目が笑ってんだよおまえは」
先ほどアクシデントで胸を触ってしまったことへの意趣返しだろうか。
オスカーがニヤニヤと楽し気に笑っている。
ちっ……あれはあくまで事故だし、このまま小娘に言われっぱなしなのも納得いかんな。
何か反撃の糸口があれば、そこにつけ込むんだが……。
「あ」
俺はふと、反撃の方法を思いついた。
そうだ、こいつの性格を考えるなら……。
「そうだな、俺が皆の親父ならおまえはお袋さんってとこか? そういやちょうど、年齢的にもマックスより上だしな。子供たちを優しく見守るお母さん役ってことで――げほっ?」
俺の言葉を遮るように、オスカーが思い切り脇腹を突いて来た。
あまりも突然の、かつ急所への攻撃だったので、俺はたまらず身を折って咳き込んだ。
「おっまえ……っ、なんてことをしやがる……っ!?」
「ききききキミこそなんて冗談を言うんだっ! だだだだだ誰かが聞いて勘違いしたらどうするっ!?」
予想通り、男女間のあれやこれやが苦手なオスカーが顔を真っ赤にしてにらみつけてくる。
これ以上言うなら相手になるぞとばかりに、拳を振り上げ震えている。
と、そこへ――
「ねえジロー! 聞いて聞いて!」
「うおおおおお!?」
「うわわわわわ!?」
突如セラから声をかけられたことで、俺とオスカーは跳び上がって驚いた。
「おおおおおまえいつからそこに!? というか何か聞いてたか聞いてなかったよな!?」
「んんん~? よくわかんないけど……」
本気で全然聞いていなかったのだろう、セラはハテナと首を傾げた。
「ほっ、そうか……」
冗談で言ったことだが、セラに聞かれて勘違いされるのは非常に困る。
俺が親父でオスカーがお袋だなんて、絶対面倒なことになるに違いない。
だからこそ良かった、マジで良かったギリギリセーフ。
などと考え、オスカー共々胸を撫でおろしていると……。
「そんなことより聞いてジロー! あそこのお店の人がね、ジローにお店を立て直して欲しいんだって!」
頬を紅潮させ興奮したセラが、とんでもないことを言い出した。
ジローとセラの恋愛(?)の続きが気になる方は下の☆☆☆☆☆で応援お願いします!
感想、レビュー、ブクマ、などもいただけると励みになります




