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【小説版発売中】追放されたやさぐれシェフと腹ペコ娘のしあわせご飯【コミックもどうぞ】  作者: 呑竜
「第2部第4章:西棟の幽霊と、もうひとりの料理番」

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「オスカーと秘密の手紙③」

紙書籍第一巻も合わせて読むと面白さ倍増ですよ( ・ω・)ノ

 ~~~オスカー視点~~~




 夜半、消灯後。

 各部屋の生徒たちが眠りにつく中、オスカーはこっそりとランプを灯し、机に向かって書き物をしていた。

 

 同室のジローはすでに二段ベッドの上で高いびきをかいているので起きてくる気配はない……と思いつつも、過去に致命的なタイミングで不意を打たれた経験があるので何度も振り返っては寝入っているのを確かめた。

 確かめて――確かめて――その上で――


「……よし、大丈夫だな?」


 ジローが完全に寝入っているのを確認したオスカーは、改めて安堵の息を吐いた。

 二段ベッドの階段を降りると、改めて席についた。

 席について、ペンを進めた。


 進めた。

 進めた。

 進め………………進まなくなった。

 どうしても進まなくなった。一ミリも。

 直属の上司であるレティシア姫への報告が、とある一点から進まなくなった。

 

 内容はジローのことだけではない。

 報告対象であるジローが連れている嫁(?)とかいう謎の少女セラのことが含まれていた。


「まさかセラが『癒しの奇跡』の持ち主だったとはな……。この報告書は必ずしもジローの悪行を訴えるだけのものではないが、この情報自体は姫の有利に繋がるはずだ。教会側より早く握れば、あるいは国側の駒として扱うことも出来るはずで。それはきっと、王位継承権争いにも強く影響するはずで――」


 そうすればきっと、姫は大いに喜ぶだろう。

 自らの立場に貢献する働きであるとオスカーのことを称え、大いに褒めてくれることだろう。

 

 だがそうなれば、セラは王都へと連れ去られることだろう。

 そうすれば、ジローは大いに苦しむことだろう。


 セラもまたあの大きな瞳に涙を貯め、大いに悲しむことだろう。

 今のオスカーを取り囲む環境は大きく崩れ、きっと何も残るまい。


 神学院を出て、王都へ戻り――

 オスカーもまた、レティシア姫の傍へ帰ることとなり――


「……なんだ、いいことづくめじゃないか」


 オスカーはボソリとつぶやいた。


「……そうだ、悩む必要なんかない。今のボクは本来のボクじゃないんだから」


 オスカーは強くかぶりを振った。

 急速に生じた迷いを振り切ろうと、何度も、何度も、何度も。


「オスカーなんて人間はいないんだ。ボクはあくまで姫の剣。その傍らに在って堅牢に守護奉る一方、望まれれば地の果てまでも駆けて敵を斬り裂く刃だ。――そうだ、刃は物を考えない。自由意志など必要ない」


 自らに言い聞かせるように、オスカーは何度もつぶやく。

 そのたび、胸の奥に痛みが走る。

 ズキン、ズキンと。

 つぶやくたびに痛みが増す。


 ――これまでの神学院での暮らしの中で、一緒に料理をしてきた中で、信用できると思ったんだ。


 オスカーは思い出す。

 皆に秘密を明かした時のジローの言葉を。

 傍らでうんと大きくうなずいた、セラの曇りなき瞳の色を。


 あろうことか、ふたりはオスカーを信用してくれたのだ。

 出会って数か月に過ぎない、この自分を。

 なんの根拠も無しに、ただただまっすぐに――


「……ふう」


 オスカーはため息をつくと、額に手を当てた。

 心労のせいだろう、そこにはわずかな湿り気がある。


「変な汗をかいたな。一時中断して、気分転換に風呂でも入るか」


 このまま考えていても堂々巡りだ。

 いったんペンを置くと、オスカーは再びジローの様子を窺った。

 二段ベッドを半分ほど上がって覗いてみたが、日ごろの疲れもあるのだろう、ぐっすり眠っていて起きる気配はない。


「……よし」


 オスカーは確信を持ってうなずくと、お風呂セットを用意して風呂場に向かった。





 神学院の大浴場は、男子棟と女子棟とでひとつずつ存在する。

 場所としては男子棟の一階東端と女子棟の一階東端。    

 指導官も指導教官も皆一緒に利用するが、けっこうな広さなので王都の温泉のような芋洗い状態にはならない。


 地下から湧き出る単純泉を利用しているのだとかで、傷や打ち身、神経痛などに効能があるらしい。

 昔この辺り一帯(カルナック)が戦場だった時分には、戦傷を負った兵士たちが養生に使ったのだとかいう、歴史ある名湯だ。


「……誰もいないよな?」


 男子浴場の入り口。

 扉の隙間からランプを掲げて覗き込む。


 消灯後なので、当然だが誰の姿もない。

 薄暗がりに浮かび上がるのは、鏡に映ったほっそりとしたオスカーの姿だけだ。


「よし、いないな」


 靴脱ぎで靴を脱ぐと、いそいそと脱衣を始めた。

 脱いだ傍から、修道服を脱衣カゴに投げ入れ始めた。


「あーあ。せめてこんな縛り(・ ・ ・ ・ ・)さえなければ、ゆっくりカルナックの名湯にかることができるのだがなあ~」 

 

 薄暗がりに浮かび上がったのは白雪のように白い背中と、オスカーの胸を隠すよ(・ ・ ・ ・ ・)うにぎゅう( ・ ・ ・ ・ ・)ぎゅうに巻( ・ ・ ・ ・ ・)かれた( ・ ・ ・)白い布( ・ ・ ・)

 ハラリとほどけば、明らかに男のものではないふくよか(・ ・ ・ ・)な双丘( ・ ・ ・)が露わとなった。

 多くの男の目線を釘付けにするだろう、美術品じみたそれが空気に触れた。


「ふふふ……♪ まあいいや。とりあえずは湯に浸かってゆっくりして、面倒なことは忘れよう」  

 

 ご機嫌になったオスカーが鼻歌など歌っていると――いきなりガチャリと――入り口の扉が開いた。


「おーおー、やっぱここだったか。やっと捕まえたぜ」

「な……っ?」


 姿を現したのは、あろうことかジローだった。

 ジローはオスカー(・ ・ ・)の様子( ・ ・ ・)に気づきもせず、気楽に服を脱いでいく。

 ぽいぽいと脱衣カゴに投げ、気が付けばタオル一枚を肩にかけた全裸になっていた。


「いやー、ずっと気になってたんだよ。俺とおまえ、同室の男同士なのにもかかわらず、一切裸のつき合いとかなかったからさ。まして今日は、昼間みたいなことがあったろ? 色々と話したいことがあってさ……」

「なっ……なっ……なっ……?」

「なんだよ、動揺しすぎだろ。腹を割って話したくてこうして追って来たって言ってんだよ。別にいいだろ男同士なんだから……ってあれ?」


 そこでようやく、ジローは気づいたようだった。

 タオルで胸を隠しているオスカーの体型が、明らかに男子のそれではないことに。

 真っ赤になった頬と、その意味に。

 気づいた瞬間、大量の汗をかき始めた。


「え~っと……ここは男湯でいいんだよな? ってかおまえはオスカーだよな? オスカーくん? オスカーちゃん? あれ? 俺? どこから間違えてたんだ?」


 いつも余裕綽々(よゆうしゃくしゃく)なその顔はらしくもなく引きつり、じゃっかん青ざめている。


 一方のオスカーもまた、大混乱だ。

 目をぐるぐるに回し、よく見ればがくがくと膝も震えている。


 そこへさらに、追い打ちをかけるように――


「おお~? こんな夜中に誰か入ってらあ~」

「いっけないんだ~。ルール違反だぞ~」

「まあ俺らも他人のことは言えねえがな~」


 扉を開けて、数人の男子が入って来た。

 見れば、男子生徒の中でも年長のガサツな連中だが……。


「おお~? ジローとオスカーじゃんか」

「こんな夜中に一緒に風呂入るほど仲良かったんか、意外だな~」

「いえ~、一緒に入ろうぜ。いえ~」

「い、いえ~……?」


 オスカーを背中に隠した上で、拳を突き合わせ、拳を突き上げ。

 陽キャ特有のスキンシップを求める男子生徒たちと、それに無理くり合わせるジロー。

 普段慣れないことをしているその顔は、ひくひくと引きつっている。


「おい、オスカー。おまえは適当に合わせとけっ」

「あ……合わせとけと言われても……っ?」

「ああもう、テンパってんじゃねえよらしくもねえっ。いいから、こっちに来いっ」


 男子生徒たちが着替えに移った瞬間――一気にジローは動いた。


「なっ……何をするジローっ!?」

「説明してる暇はないっ」


 ジローはオスカーの肩を両手で捕まえると、有無を言わせず浴場へと押し込んだ。

 タイルの上を走り、そのままドブンと湯舟に浸かった。


「ジロー……こ、こ、ここここれはっ?」

「あまり動くな。これで何とか、隠しきるぞ」


 騒ぐオスカーを壁の方を向いて座らせ、自分は入り口の方を向いて座る。

 ちょうどよくくぼんだその位置にいれば、オスカーの体型は男子生徒たちには見えない。

 あとは男子生徒がいなくなるまで、背中合わせを崩さないだけ。


 それはオスカーの体と真実を隠すためにジローが考えた、窮余きゅうよの一策だった――

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― 新着の感想 ―
[一言] 唐突な『お風呂回』………テコ入れ? 訳アリ女子と知っての強制混浴ですか………不健全なセクハラ野朗ですよ、ジローさん。 大体、深夜に入浴とか、どんな風呂ですか?薪で湯を沸かしての風呂では無いの…
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