「治る倒れる」
~~~ドロテア視点~~~
――お嬢様、ご病気なんですって?
――重くて、治らなくて、ご結婚も出来ないんですって?
――子供が産めない?
――それってもう……。
――うん、お貴族様の娘としてはもう終わりよね。
――じゃあ、わたしたちも……?
――そうね、お付きの人員も減らされるんじゃない?
――こうなったら奥方様か、長男様のお嫁さんに付くのが正解かしら。
――そういえばあんた、お嬢様に明日のご予定お伝えした?
――してないわよ。だってそんなの、もうしばらく立ってすらいないんだもの。
――あの方はもう終わったの。それだけの話。
――わたしたちにはわたしたちで、次の人生があるからねー。
……それは、小さい頃から何度も耳にしたつぶやきだった。
それまで懇意にしてくれた人たちが呆れ、離れていく音。
そこかしこでため息と共に語られる失望。
そのたびわたしは理解した。自分がダメな子なんだって自覚した。
産まれてきたことが間違いの呪いの子で、ここにいることすら許されないんだって。
だけど、周りを責める気にはなれなかった。
何より、貴族の子女として自分が役目を果たせていないのは明らかだったから。
神学院に送られることになっても、気持ちはまったく揺れなかった。
子供が産めない、嫁げない。そんな女の子の居場所なんて、貴族家庭のどこにもありはしないのだから。
正直、道端に捨てられ物乞いとして生きろと言われないだけマシだったんだと思ってた。
だけどそのマシには、三つの想定外がついてきた。
ひとつ目はお兄様のこと。
未来ある貴族の息子が、すべてをかなぐり捨ててついて来てくれた。
現世をさて置き出家して、研究者となってくれた。
わたしの病を治す術を探ろうと、人生のすべてを賭けてくれた。
ふたつ目はジローのこと。
異世界から来た料理人が、体調を整えるための料理を三食作ってくれた。
リハビリとかいって、病人用の体力づくりの作法を教えてくれた。
彼の作る料理の美味しさや思ってもみなかった運動法は、心や体を暖かくしてくれた。
三つ目は……セラ隊長のこと。
わたしより年下のくせに偉そうで、会うなり自分のことを隊長と呼べなんて言ってきて。
最初は生意気だなと思ってた。
だけどわたしはいつの間にか、自然にそう呼んでいた。彼女のことを、隊長と。
だって彼女は可愛くて、驚くほどに優しくて、意外に頼りがいがあって。
そして何より、とてもとてもとてもとーっても、人に対して献身的だったから――
「ドロテア隊員、動かないで」
静かに告げたかと思うと、セラ隊長の表情が変わった。
いつもの天真爛漫なものから、厳かで神秘的なものに。
「……っ?」
まるで太古の神が憑りついたかのようで、わたしは一瞬ドキリとした。
身を固め、息を詰めて隊長をただ見てた。
隊長は驚くわたしの胸に手をかざし――瞬間、大きな瞳にキラリと星が瞬いた。
銀髪が生き物のようにざわめいたかと思うと、すぐに変化は表れた。
「……わ、あ、あ……っ?」
わたしは思わず、声を発した。
肺の動きが軽くなり、呼吸がしやすくなった。
背筋が伸び、視界が明るくなり、世界が広がった。
病気が治ったんだ。
すぐに気づいた。
今までわたしを苦しめていたものがいなくなった。無くなった。
わたしの人生が、ようやく動き出したんだ――
「隊長……これ、ホントに……っ!?」
奇跡的な出来事に、思わず声を荒げた。
軽くなった上体を起こして隊長の体に抱き着こうとしたけど、勢い込んで空振った。
――いや、違う。
わたしの体は正しい動きをしていた。
隊長の動きこそが変だったんだ。
ついさっきまでいた所にいなくて、わたしの膝に顔を埋めるように突っ伏していたんだ。
わたしの身代わりになるかのように、パタンと倒れていたんだ。
「隊長!? ちょっと――」
「ドロテア、下がってろ」
わたしの動きを制すると、ジローが隊長の体を抱え込んだ。
ぺちぺちと頬を叩き、瞼を持ち上げ瞳を覗き込み、血色と反応を確かめた。
「セラ、大丈夫だ。後は任せろ」
「ん……うん」
ジローの言葉に隊長はうなずき、再び目を閉じ。
「俺が絶対、おまえを助けてやるからな」
「わか……たっ……」
それはまるで、長年に渡る難病に苦しむ熟練夫婦のようなしぐさで。
わたしはひたすら、混乱した。
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