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【小説版発売中】追放されたやさぐれシェフと腹ペコ娘のしあわせご飯【コミックもどうぞ】  作者: 呑竜
「第2部第4章:西棟の幽霊と、もうひとりの料理番」

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「打ち明ける」

「ねえ、ジロー。セラはどうしても、ウソつかなきゃダメ?」


 大きな瞳をうるりと潤ませたセラのひと言に、俺は思わず呻いた。

 額に手を当て、天を仰いだ。


「…………っ!」

 

 そうだ、セラの性格を考えればわかることじゃないか。


 目の前で近しい人間が病を患い、あるいはケガを負い。

 そういった状況をこいつが放置出来るわけがないだろう。

 癒しの奇跡があるけど秘密にして使いませんなんて器用な真似、出来るわけがないだろう。


 それでもこいつは頑張ったんだ。

 俺と別れて王都へ行きたくないから、こいつなりに精いっぱいに耐えていた。

 けれどドロテアが苦しんでいるのを見て、改めて耐えられなくなったんだ。


「セラ……悪いな、俺が間違ってた」


 脳内で自分をぶん殴りつつ、俺は即座に反省し謝罪した。

 セラの心に与えた傷はすぐには癒えないとしても、まだまだリカバリーは出来るはずだ。

 こいつの成長を阻害しない程度に、まっすぐに出来る程度には。


「そうだ、おまえが正しい。ドロテアを助けなきゃならない。でもまず、そのためには……」

  

 俺は尖塔をチラリと見上げた。

 満月の降りかかるそこには、今もマシューとドロテアの兄妹がいるはずだ。


「ふたりの了解を得ないとな」

「……うん」

 

 セラは鼻をぐずらせると、小さくうなずいた。



 



 ドロテアの居室へと続く階段を登り、登り、重たい扉をノックして。

 目を赤くしたセラにしがみつかれたまま、俺はマシューに事情を話した。


 セラの持つ神様のギフトのこと。

 それが癒しを司るものであり、万病そしてあらゆるケガへの特効薬となること。


 俺の話を聞いたマシューは最初あんぐりと口を開け、次にポカンとした顔になった。

 

「それはつまり……妹の病気が治るということか?」

「ああ」

「今まであらゆる医者や神官に見せてもわからなかったものが、治ると?」

「ああ」


 長い長い沈黙があった。

 その間マシューは顎に手を当て、黙っていた。


 最初は疑っていたのだろう、そんな奇跡や幸運があるわけないと。

 でもじわじわと確信を得たのだろう。俺とセラがそんな意地の悪い嘘をつく必然性がないと。


 顎から手を離したマシューはまずセラを見て、次に俺を見た。


「……どうして、話してくれる気になったんだ?」


 マシューは慎重に、言葉を選ぶようにして訊いてきた。


「別に黙っていたっていいはずだ。というか、セラのことを思うならばこそ隠しておくべきだろうが」

「もちろんその通りだ。俺も最初はそう思っていて、話す気はなかったんだ。だがこいつは……」


 いったん言葉を切ると、俺はセラを見た。

 俺にしがみつくようにしたセラは、申し訳なさそうな顔でドロテアを見ている。


 そうだ、こいつはそういう奴なのだ。 

『癒しの奇跡』はたしかに有用だが、それ故にこそ、バレた時のリスクが高い。

 王都へ連れて行かれるという以外に、第三勢力に誘拐され悪用される可能性すらあるんだ。


 なのにこいつは、友人であるドロテアに黙っていた自分を、ただただ恥じている。

 なんて冷たい奴なんだと、責めている。


「どんなリスクを背負うより、友人の幸せを選んだんだ。まったく合理的じゃないその発想を、だけど俺は尊重したいと思ってる」


 いつかカーラさんにも言われたけどな。

 俺とこいつの関係は、合理性とは縁遠いものなんだ。


「……そうか、わかった」

 

 マシューはゆっくりとうなずくと、チラリ視線をスライドさせてセラを見た。


「信用してくれ。私は君の力のことを、絶対誰にも話さない。だから頼む、ドロテアを、妹に癒しの奇跡を使ってくれ」

「――うん、わかった」


 深く息を吸い込むと、意を決したようにセラは言った。

 少し離れたところで俺たちの話を聞いていたドロテアに、改めて向き直った。


「ごめんね? ドロテア隊員。黙ってて」


 未だ半信半疑といった顔をしているドロテアの目を、まっすぐに見つめた。


「絶対、隊長が治してあげるから」

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