「打ち明ける」
「ねえ、ジロー。セラはどうしても、ウソつかなきゃダメ?」
大きな瞳をうるりと潤ませたセラのひと言に、俺は思わず呻いた。
額に手を当て、天を仰いだ。
「…………っ!」
そうだ、セラの性格を考えればわかることじゃないか。
目の前で近しい人間が病を患い、あるいはケガを負い。
そういった状況をこいつが放置出来るわけがないだろう。
癒しの奇跡があるけど秘密にして使いませんなんて器用な真似、出来るわけがないだろう。
それでもこいつは頑張ったんだ。
俺と別れて王都へ行きたくないから、こいつなりに精いっぱいに耐えていた。
けれどドロテアが苦しんでいるのを見て、改めて耐えられなくなったんだ。
「セラ……悪いな、俺が間違ってた」
脳内で自分をぶん殴りつつ、俺は即座に反省し謝罪した。
セラの心に与えた傷はすぐには癒えないとしても、まだまだリカバリーは出来るはずだ。
こいつの成長を阻害しない程度に、まっすぐに出来る程度には。
「そうだ、おまえが正しい。ドロテアを助けなきゃならない。でもまず、そのためには……」
俺は尖塔をチラリと見上げた。
満月の降りかかるそこには、今もマシューとドロテアの兄妹がいるはずだ。
「ふたりの了解を得ないとな」
「……うん」
セラは鼻をぐずらせると、小さくうなずいた。
ドロテアの居室へと続く階段を登り、登り、重たい扉をノックして。
目を赤くしたセラにしがみつかれたまま、俺はマシューに事情を話した。
セラの持つ神様のギフトのこと。
それが癒しを司るものであり、万病そしてあらゆるケガへの特効薬となること。
俺の話を聞いたマシューは最初あんぐりと口を開け、次にポカンとした顔になった。
「それはつまり……妹の病気が治るということか?」
「ああ」
「今まであらゆる医者や神官に見せてもわからなかったものが、治ると?」
「ああ」
長い長い沈黙があった。
その間マシューは顎に手を当て、黙っていた。
最初は疑っていたのだろう、そんな奇跡や幸運があるわけないと。
でもじわじわと確信を得たのだろう。俺とセラがそんな意地の悪い嘘をつく必然性がないと。
顎から手を離したマシューはまずセラを見て、次に俺を見た。
「……どうして、話してくれる気になったんだ?」
マシューは慎重に、言葉を選ぶようにして訊いてきた。
「別に黙っていたっていいはずだ。というか、セラのことを思うならばこそ隠しておくべきだろうが」
「もちろんその通りだ。俺も最初はそう思っていて、話す気はなかったんだ。だがこいつは……」
いったん言葉を切ると、俺はセラを見た。
俺にしがみつくようにしたセラは、申し訳なさそうな顔でドロテアを見ている。
そうだ、こいつはそういう奴なのだ。
『癒しの奇跡』はたしかに有用だが、それ故にこそ、バレた時のリスクが高い。
王都へ連れて行かれるという以外に、第三勢力に誘拐され悪用される可能性すらあるんだ。
なのにこいつは、友人であるドロテアに黙っていた自分を、ただただ恥じている。
なんて冷たい奴なんだと、責めている。
「どんなリスクを背負うより、友人の幸せを選んだんだ。まったく合理的じゃないその発想を、だけど俺は尊重したいと思ってる」
いつかカーラさんにも言われたけどな。
俺とこいつの関係は、合理性とは縁遠いものなんだ。
「……そうか、わかった」
マシューはゆっくりとうなずくと、チラリ視線をスライドさせてセラを見た。
「信用してくれ。私は君の力のことを、絶対誰にも話さない。だから頼む、ドロテアを、妹に癒しの奇跡を使ってくれ」
「――うん、わかった」
深く息を吸い込むと、意を決したようにセラは言った。
少し離れたところで俺たちの話を聞いていたドロテアに、改めて向き直った。
「ごめんね? ドロテア隊員。黙ってて」
未だ半信半疑といった顔をしているドロテアの目を、まっすぐに見つめた。
「絶対、隊長が治してあげるから」
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