第七十一話「転生特典」
「よし、掘れた。」
ここは、所変わって水無し川の川床。
アンキロサウルスの残した足跡を辿って川床に戻り、川床の土を掘りぬいて新しい水源を確保した所である。
さてさて。
まずは、服を脱いで染みの具合を確認しよう。
雨合羽のように全身を覆っている服をスルスルと脱ぎさり、着ていた服の端と端を摘まんで大きく広げる。
大きな四角い白い布。
そのど真ん中には、5歳児の手形がハッキリと染みついている。
うん、恥ずかしい。
それでは、手早く洗濯をしてしまおう。
しかし、掘りぬいた穴から湧き出るのは、荒野の赤土を反映するかのような赤茶けた泥水。
「神よ、許し給え。」
ただ洗濯をするだけだと言うのに、この赤茶けた泥水に神様からのプレゼントである白い布を浸すのは、何だかとても背徳的である。
じゃぶじゃぶ じゃぶじゃぶ
赤い染みが付いた部分を泥水に浸けて、服を洗う。
太陽の角度から考えて、今の時刻は4時手前。
徐々に角度を付けつつある太陽の光が、何も着ていない僕の背中に降り注ぐ。
砂漠のような乾燥地帯では、薄手の長袖を着ていた方が涼しいと言うが全くその通りである。
服を着ていた先程よりも、全裸である今の方が一段暑い。
じゃぶじゃぶ じゃぶじゃぶ
「やっぱり落ちないか。」
ヨウシュヤマゴボウの果実は、染色に使われる程に強力。
濃い赤色をした手形は薄紅色にまで色を落としたが、僕の手形は未だハッキリと確認できる。
仕方ない。
そろそろ切り上げて寝床に帰ろう。
この水源とて、時間を掛けて掘ったのだ。
本来ならば水無し川の対岸で新しい寝床を作る予定であったのだが、そのような時間の猶予は既に無い。
徐々に地平に近づく太陽が、“今日が終わる”と言う事実を無常にも僕に突き付けているのだ。
白い布を水から上げてしっかりと絞り、布を広げてパンパンと水切りをする。
濡れた布が、赤い霧を上げて水をしぶく。
「あるぇ・・?」
布を見れば、赤い染みが無い。
いや、それだけでは無い。
水を含んで重くなっていたはずの白い布が急に軽く、一日中天日に干していたかのようにカラッカラに乾いているのだ。
「これは・・・」
染み一つ無い真っ白な状態に戻った白い布。
布を振った時に出た赤い霧は、染みの成分と判断して間違いないだろう。
だが、それが、物理現象や化学現象の類であったとは考えにくい。
「もしかして・・・」
脳裏によぎったのは、異世界転生のお約束。
噂に聞く転生特典。
「マジックアイテム・・・?」
太陽が赤く染めゆく大地の上、仔牛えみ太郎は、マジックアイテムは手に入れた。




