第七十話「ヨウシュヤマゴボウ」
あけましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いします。
“ヨウシュヤマゴボウ”
日本の野山に生えている植物・・・と言うよりは、近所の庭先や道端のあぜ道などでよく見かける言わば雑草の類である。
当然のことながら、雑草であるが故に、庭先に生えていれば処理をされてしまうことも多い。
だが、こと幼稚園において、この植物は花壇や生垣に生える草花と同様の優遇を受け、決して処理をされてしまうことが無い。
遊び盛りの子供たちを預かる幼稚園にとって、ヨウシュヤマゴボウとは、子供たちを楽しませる遊具の一つ。
深い黒色をしたヨウシュヤマゴボウの果実を潰して色水とすれば、それは綺麗な発色をした赤色の色水を作ることができるのだ。
幼稚園に通っていた時は、よくガラスコップに作った色水をベンチの上に並べて、太陽に透ける赤色の色水を一日中眺めていたものである。
「懐かしい。」
果汁でベトベトになった真っ赤な手の平。
見つめる程に、幼稚園に通っていた頃の過ぎ去りし日々が蘇る。
「それで・・・か。」
道理で、この植物には、見覚えがあったはずである。
しかし、この植物の大きさは、目算にして5m以上。
僕の知っているヨウシュヤマゴボウの大きさは、大きくても2m程度。
果実の大きさにしても、このような子ミカン大では無く、本来ならばブルーベリー程の小粒である。
異世界におけるヨウシュヤマゴボウの亜種・・・。
その植物の巨大さに、僕は、気付くのに時間が掛かってしまったのだ。
ヨウシュヤマゴボウと言えば、幼稚園の先生に口すっぱくして言われていたことが一つある。
『ヨウシュヤマゴボウの実には毒があるから、絶対に食べちゃダメだよ。』
あー・・・。
これは、やってしまったのだろうか。
ヨウシュヤマゴボウと言えば、葉から茎、根から果実に至るまでその全てに毒性を持つ有毒植物なのだ。
食べた果実の数は10個・・・。
致死量では無かろうか。
グー パー グー パー
両の手の平を交互に開閉させることで、身体に症状が出ていないかを調べ・・・。
「2、4、8、16、32、64・・・。」
2の累乗を数えることで、脳に症状が出ていないかを調べる。
うん、食べ始めから5時間は経過していると言うのに、僕の脳や身体に症状は無い。
よかった。
運よく自分が健康であることに、ほっと胸を撫でおろす。
そもそも、アンキロサウルスが食べていたから毒性が無いと判断した果実なのだ。
この世界のヨウシュヤマゴボウには、毒性が無いと言うことなのだろう。
だが、もし食べる前にヨウシュヤマゴボウだと気付いていたら、僕はこの果実を食べていたのだろうか。
それは・・・うーん・・・分からない。
でも、食べられる果実が見つかってよかった。
しばらくは、この果実を食べていくだけで暮らして行けそうである。




