第六十五話「うん」
「うんこ!うんこ!うんこ!」
眼前にあるのは、僕の体積を上回るであろう標高30cmの糞の小山。
見たことも無い巨大な糞塊を前にして、つい声を出してしまったのだ。
特に意味は無い。
ブスッ
近くに落ちている木の枝を拾い、眼前の小山に突き刺す。
同様にして、この行動にも意味は無い。
でも、何故か楽しい。
「うんこ!うんこ!うんこ!」
どうしてだろう。
“うんこ”と口にする度に口元が緩む。
心が躍る。
つんつん つんつん
巨大な糞塊の前にしゃがみ込み、木の枝を使って粘土質の小山を突く。
「あは、あはあは!うんこ!うんこ!」
これも子供の肉体が影響しているのだろう。
“うんこ”
それだけで楽しい。
「あは、あはあは!うんこ!うんこ!」
それだけで一日を遊べそうな気がする。
つんつん つんつん ポロッ
幾度となく突いた粘土質から、何か黒くて小さいものが零れ落ちた。
「あは、あはあは!う・・・?」
小指の爪程の大きさの小さな塊。
四つ切りにしたリンゴのような形状。
うんこに高揚する子供心を一旦抑え、零れ落ちたものを冷静に見つめる。
消化物では無い。
未消化物・・・おそらくは、何らかの植物の種子・・・。
「・・・!」
僕は、素早く立ち上がってアンキロサウルスの歩き去った方向を見つめた。
「アンキロサウルスさん、ありがとうございます。」
未消化の植物の種子・・・それが指し示す答えは一つ。
この荒野には、食べられる果実が存在するのだ。




