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第六十話「炎」

カランッ カランッ


両手いっぱいに抱えた木の枝を地面に落として、そのままその場に腰を下ろす。


「ただいま。マイホーム。」


ここは、所変わって寝床マイホーム


薪となる木の枝を拾い集めながら、水源から寝床までの帰路を一時間かけて歩いてきたのだ。


時刻は夕刻、日暮れ前。


火おこしをするには、丁度いい時間である。






カリカリ カリカリ


なるべく太い木の枝を地面に置いて、その上に真っ直ぐな木の枝を突き立てて回転させて行く。


カリカリ カリカリ


木材を発火させるのに要する温度は、摂氏にして400度以上。


回転による摩擦熱をもってして、荒野に炎を起こすのだ。






カリカリ カリカリ


摩擦によって擦り切れた大鋸屑おがくずが、木の板の上に少しずつ溜まっていく。


カリカリ カリカリ


そして、火おこしを始めて2、3分。


木の板の上に溜まった大鋸屑から煙が上がった。


火種である。






木の枝を回転させていた手を止めて、煙の上がる大鋸屑を両手で包んで持ち上げる。


フゥー


大鋸屑に優しく息を吹きかけて、手の中で火種を育てるのだ。


ポォッ


煙を上げていた大鋸屑から、炎が上がった。


「うん、火おこしにも慣れてきたかな。」


火おこしもこれで3日目。


あとは、昨日の火床に火種を移して、火おこし完了である。






――――――――――――――――――――






パチパチ パチパチ


夜。


燃え上がる焚火の炎を見つめながら、今日の出来事を振り返る。


「今日も充実した一日だったな。」


夜明け前には、黒サソリの殲滅に成功。


黒サソリの肉は、とても美味しかった。






パチパチ パチパチ


夜のそよ風に揺れる炎を、ただ見つめる。


早朝には、朝露にて水分を補給。


でも、その後に見たデイロニクスは、凄く・・怖かった。


もう森に行くのは止めて、これからは、少しずつ森から離れた場所に活動範囲を移して行こう。






パチパチ パチパチ


そよ風に揺れる炎に薪を継ぎ足し、炎を育てる。


昼過ぎ、この何もない荒野で水源を見つけられたことは幸運だった。


「明日は、あの川床の近くに寝床を作ってみようかな。」


あの川床は、この寝床よりも森から遠いのだ。


おそろしい肉食恐竜の領域テリトリーからは、なるべく離れて生活をしよう。






パチパチ パチパチ


薪をくべて大きくなった炎を、ただ見つめる。


地下から湧き出した伏流水は冷たくて美味しかったし、三日ぶりのお風呂も素晴らしかった。


「ありがとう。今日はよく眠れそうだ。」


何故か出てきた感謝の言葉の意味は、自分でもよく分からなかった。






パチパチ パチパチ


横になって目を閉じた暗闇の中、ただ薪の弾ける音だけを聞く。


昨日はあんなに怖くて眠れなかった夜なのに、今日はどうしてとても眠たい。


恐怖は生命として当然の本能であるが、環境に適応することもまた生命として当然の本能なのだ。


「ここでの生活にも少しずつ慣れてきたのかな。」


ああ、思考が意識が、少しずつ僕の手から離れて行く。


「おやすみ・・・なさい・・・」


そして、僕は眠りについた。

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