第五十八話「泥水(食レポ)」
ごくごく ごくごく
地中の土から染み出した泥水を、喉を鳴らして補給する。
ああ、鉄分を感じさせる土の味が、ほんのりと苦い。
この泥水は、ちょっぴり大人の味である。
ごくごく ごくごく
土中から染み出す水の量は少なく、喉を鳴らして飲む程に、土の味はどんどんと濃くなっていく。
苦い。
だが、泥水に含まれる土の濃度が高まることに、一切の問題は無い。
世界には、土からミネラルを補給する土食文化なるものも存在しているのだ。
泥水に含まれる土の成分は、ミネラル。
泥と水。
そう、今僕が口にしているのは、自然の育んだ天然のミネラルウォーターなのだ。
ごくごく ごくごく
苦い。
だが、美味しい。
ごくごく ごくごく
伏流水に含まれる土の風味が鼻に抜ける。
そういえば、前世には土の味のするレモンジュースもあったっけ。
確かに、この味は、あのレモンジュースの味とよく似ている。
「でも、こっちの土の味の方がいいな。」
この泥水の方が、生きていると実感できるのだ。
「ふぅ、ごちそうさまでした。」
水分補給は、このくらいにしておこう。
早朝を過ぎれば消えてしまう朝露に対して、これは安定した水源なのだ。
これからは、必要な時に必要なだけを補給しよう。




