第五十七話「伏流水」
川幅にして、およそ20m。
川床よりも1m程高い川岸の上から、干上がってしまった河川跡を見つめる。
なるほど。
水が流れていなくとも、ここは水源に近い場所なのだろう。
疎らながらも、川床に生える植物の葉の碧が瑞々しい。
「水無し川か。」
川が流れていると考えられる山間の麓までの距離は、行程にして数日。
加えて、この暑さと乾燥である。
おそらく、途中で川の水が蒸発してしまっているのだろう。
U字型に浸食された傾斜を駆け下りて、礫の敷き詰められた川床へと移動する。
川の水が干上がっているという事実に、一切の問題は無い。
むしろ、干上がっているという事実こそ、僕にとっては都合がいいのだ。
“伏流水”
川の水は、必ずしも地表の上を流れているとは限らない。
むしろ、地表を流れている川の水は極一部。
川の水の大部分は、伏流水として川の下を流れているのだ。
バサッ バサッ
青々と茂る植物に近づいて、その根元を両手で掘っていく。
指先から感じるのは、湿度と冷たさ。
この三日、荒野では感じることの出来なかった湿度である。
川床を掘る指に、思わず力が入る。
この湿度の先に、伏流水が流れているのだ。
掘ろう。
掘って伏流水を掘り当てるのだ。
バシャッ バシャッ
土の湿り気が指を濡らし、川床の土がどんどん重く冷たくなっていく。
水脈が近い。
バチャッ バチャッ
そして、掘った穴の底から泥水がゆっくりと染み出してきた。
伏流水である。
川床の土は、自然の作り出した浄化槽。
伏流水は、このまま生で飲めるのだ。
ボチョンッ
僕は、頭を突っ込んで泥水を飲んだ。
泥水と言えど、これは清潔な泥水なのだ。




