第五十五話「ふぉぉぉ!!ふぉぉぉぉ!!」
「嗚呼ッ!!痒ッッ!!!指痒ッッ!!!」
リュウゼツランの汁の掛かってしまった指の皮膚が、時間経過に伴ってヒリヒリとした痒みを発しているのだ。
「ふぉぉぉ!!ふぉぉぉぉ!!」
奇声を発することで、赤く腫れた皮膚を掻きむしりたい衝動を必死に抑制する。
ああ、掻きたい!
掻きむしりたい!!
でも、掻かない!!!
掻きむしってしまえば、痒みを発生させる成分であるヒスタミンの分泌が活性化されてしまうのだ。
「ふぉぉぉ!!ふぉぉぉぉ!!」
手をグーパーすることで、指の稼働を確認していく。
指の皮膚に炎症が発生しているものの、指の動きに支障は無い。
ここは、治療手段の存在しない大自然である。
後は、自然に痒みが鎮静して行くのを待つより他に方法は無い。
仕方ない。
奇声を発しながらも、脳の活動はあくまで冷静にやっていこう。
脳に送られてくる痒み信号を全力で無視しながら、水源を探索するという目的に思考を集中させていく。
果たして、どうすれば水源の所在にあたりをつけられるのだろうか。
これまでの情報から水源の所在にあたりをつける作戦は失敗。
リュウゼツランという水源は発見できたものの、あのような毒水を摂取してしまえば、消化器官に重篤な損傷が発現することは言うまでもない。
「ふぉぉぉ!!ふぉぉぉぉ!!」
闇雲に荒野を探索するのは、最終手段である。
今見えている範囲を観察することで、新しい情報を手に入れていこう。
この5歳児の瞳に映るのは、剥き出しの赤土と疎らに生える木々と草。
荒野の続く地平の先には巨大な山脈を臨むこともできるが、その距離は、遠くから富士山を眺めるかのように遠い。
大きな木に登って川を発見した時のように、あの山々に登ることができれば、水源を発見することもできるのだろうか。
否、山脈までの距離は、行程にして数日を要する程に遠い。
人間は、3日の絶水で死に絶えるのだ。
その道中で水源を発見しない限り、山脈まで辿り着くことは不可能である。
「山に登るためには水が必要で、水を発見するためには山に登る必要があるのか。」
うーん、難しい。
でも、水源に繋がる情報を少しだけ手に入れることができた。
この荒野が山脈と隣接しているということを考えれば、山肌を流れ落ちる雨水が、川となって荒野を流れている可能性が高いのだ。
「ふぉぉぉ!!ふぉぉぉぉ!!」




