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第五十一話「答え合わせ」

ハァハァ ハァハァ


デイノニクスが見えなくなるまで遠くに移動して行くのを見守って、それから大急ぎで岩山を駆け登ったのだ。


岩山の標高は、推定で300m。


僕の心臓はバクバクである。






蔦のベルトに差し込んでいた骨の槍を引き抜き、その骨を見つめて森に朽ちていた四足獣を思い返す。


あの四足獣は、体長2mから3mの群れで行動する謎の肉食動物に襲われていたのだ。


デイノニクスである。


デイノニクスが、あの四足獣を捕食したのだ。






「危なかった。」


ほんの少し何かが違えば、デイノニクスと遭遇していた。


もう森には戻らないと決めていたのに、危険を軽んじて朝露を飲みに行ってしまったのだ。


猛省である。


海よりも深く猛省である。


喉の渇きは、おしっこを飲んで凌ぐべきだったのだ。


「よし、もう二度と森には行かないことにしよう。」


今度こそ、本当の本当である。






岩山の頂上から眼下に広がる雄大な森を見下ろして、転生前に神様から受けた説明を思い出す。


ここは、“人間の居ない大陸”なのだ。


デイノニクスが生息していた時代は、およそ1億年前の白亜紀である。


白亜紀。


人類ホモはおろか猿人ピテクスすら存在しない時代である。


なるほど。


人間が居ないはずである。






「白亜紀か。」


白亜紀と言えば、裸子植物とシダ植物が隆盛した古代植物の時代から、被子植物の隆盛する時代へと植物の生態系に変化があった時代である。


思い返せば、しいかしと言った被子植物の多い原生林でありながらも、森の中には巨大なシダ植物が多く自生していた。


ああ、この眼前に広がる森は、“白亜紀の森”なのだ。


これまでただ不思議だとばかり思ってきたこの世界に、少しだけ“答え”のようなものを得られたような気がする。


腑に落ちると言うのは、こういうことなのだろう。


不思議だとばかり思っていたこの世界が、一つの完成された世界なのだと感じることができたのだ。


まだまだ分からないことが多いながらも、この世界は決して人間の理解できない法則で支配された世界ではない。


この世界は、十分に合理性のある地に足の着いた世界なのだ。






思い返せば、あの四足獣の死骸とて、爬虫類の骨格フォルムと牛科の哺乳類を彷彿とさせる骨の太さ、丈夫な骨組織などの特徴から考えて、何かしらの恐竜である可能性が高いだろう。


爬虫類の骨格と牛科の哺乳類を彷彿とさせる骨の太さ、丈夫な骨組織。


椎や樫の木と巨大なシダ植物。


これまで僕が注意して見てきたものに、間違いは無かった。


デイノニクスに出会う前から、“答え”に至るためのヒントは十分に出ていたのだ。






「不思議だと思う心は不思議だな。」


不思議だと思ってしまえば、そこで思考が止まってしまうのだ。


これからは、見てきたものをもう少し深く考察して行こう。


合理的に考えることができれば、一つでも多くの“答え”を得ることが出来るのだろう。


「この世界で生きて行く為に、一つでも多くの答えを・・・。」


僕は、この世界で生きて行きたいのだ。

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