第三十八話「骨髄」
「ここまで来れば大丈夫かな。」
ここは、岩山の中腹にある急勾配を登った少し先にある岩の上である。
岩の上は平らになっており、見晴らしもよい。
あの森は、群れで行動をする謎の肉食動物の縄張りだったのだ。
捕捉されれば、逃げ切ることは不可能である。
それでは、食材の調理に取り掛かろう。
平らな岩の上に大腿骨を置き、石槌を使って大腿骨を縦に叩き割っていく。
骨は、カルシウムの塊では無い。
カルシウムで構成された骨組織の形状は、あくまで円筒状。
大腿骨の内部には、最後までチョコたっぷりのチョコレート菓子のように骨髄がたっぷりと満たされているのだ。
「その点、骨髄は凄いな。最後まで骨髄がたっぷりだ。」
パカッ
1mはあろうかという大腿骨が縦に割れ、鮮やかなピンク色をした骨髄が姿を現した。
これにて、食材の調理は完了である。
「美しい。」
死後一カ月を経過したとは思えない鮮やかなピンク色に目を奪われる。
頑強な大腿骨の内部に保存された骨髄が外気に触れることは無い。
天然の真空パックになっていたのだろうか。
これならば、十分に食べることができるだろう。
それでは、実食を開始しよう。
骨髄は、生で食べられる数少ないタンパク質である。
小さな昆虫の生食には寄生虫の心配が比較的少ないが、大型の野生動物の生食には、常に寄生虫の危険性が伴われるのだ。
だがしかし、頑強な骨に守られた骨髄に寄生虫の心配は無い。
大腿骨と骨髄の間に指を滑りこませ、ピンク色の骨髄をすくい取る。
柔い。
まるで瓶詰めのピーナッツバターに指を突っ込んだかのような感触である。
硬い骨の中に、これ程柔らかい組織が保存されていたのか。
ドロリとした骨髄を指の上に乗せて、骨髄の臭いを嗅いでみる。
無臭。
白骨化した死骸の内部にあって無臭。
その保存状態のよさを前にして、思わず笑みがこぼれる。
あの強烈な腐敗臭の中にあったというのに、一切の腐敗臭が感じられないのだ。
「ああ、素晴らしい。」
これは、最高の保存状態である。
「それでは、いただきます。」
【持ち物】
白い布
蔦の命綱
石槌
石ナイフ
大腿骨
【スキル】
木登りLv.1
崖登りLv.0
火おこしLv.1
【生産】
蔦の命綱
アカシアの防護柵
石槌




