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第二十七話「真夜中の攻防」

純粋に黒サソリの知性に関心したが、そんな場合ではない。


先ほどまでは怖くなかった黒サソリが、急に恐ろしくなってくる。


動物園の虎の檻が、目の前で開けられようとしている。


この状況は、まさにそのような状況なのだ。


ともかく、何か武器になる物・・・武器になる物・・・。


しかし、ここは、2m四方のバリケードの中。


中にあるのは、薪用の木の枝のみである。


やむを得まい。


とりあえずは、薪用の木の枝を武器にして、この黒サソリを迎撃しよう。






コンッ コンッ


薪用の木の枝を槍のように構えて、バリケード越しに黒サソリのハサミを突いて行く。


「困った・・・。」


突けばハサミを一旦は引っ込めるものの、巨大な黒サソリは、またバリケードを破壊しようとすぐにハサミを持ち上げてくる。


少しでも手を緩めればバリケードを突破されるという事実に、心臓のバクバクが止まらない。






ハサミを突いた感触からして、黒サソリの殻は厚くて硬い。


先ほどから木の枝でハサミを突いているが、木の枝で突いた程度ではダメージを与えることすらできていないだろう。


唯一の救いは、木の枝でハサミを突いている限り、黒サソリがバリケードを破壊できないということだろうか。


ともかく、根気の勝負だ。


頑張ろう。






場は膠着し、バリケードを挟んだ攻防が続く。


黒サソリがバリケードを壊そうとする都度、木の枝で突いて黒サソリのハサミを引っ込ませる。


解決策が無い以上、この地道な攻防を続ける他に方法が無い。






カンッ


音のした方向を見れば、黒サソリの尻尾の毒針が目の前のバリケードを突いていた。


運よくバリケードのアカシアの枝に毒針が引っかかって止まっているが、狙ったのは間違いなく僕だろう。


バリケードが無ければ死んでいた。






黒サソリの尻尾が動いたことに気が付いたのは、カンッと言う音がした後である。


黒サソリのハサミに注意を向けていたとは言え、果たして人間の反射神経で避けることのできる速さだっただろうか。


いや、最初から黒サソリの尻尾の動きに気付けていたとしても、避けることは難しかっただろう。


バリケードの上方を見れば、積み重なったアカシアの枝の隙間に黒サソリの尻尾が入りそうな隙間をいくつか確認できる。


なるほど。


バリケードを挟んで互角かと思っていたが、こちらが不利ということか。






この状況が長引けば、いつか黒サソリの尻尾の毒針が僕の体を貫くだろう。


サソリに殺されるのは怖いな。


サソリは一般的に毒が強くないと言われるが、サソリに殺されるならば、いっそ強い毒の方がありがたい。


サソリは、尻尾の毒針で毒を注入してから食事を開始するが、おそろしいことに、毒針が刺された生物が生きているかどうかは、サソリにとって関係ない。


毒で死ねなかった場合は、息の根を止められること無く食事が開始されるのだ。


なお、毒で体の動きを止められている為、自害をすることも許されない。






何か策を考えよう。


この黒サソリを何とかして殺さなければ、僕が殺される。


バリケードを黒サソリの方向に崩し、バリケードに火を放てば殺せるだろうか。


いや、火では即座に息の根を止めることができないから、よくて追い払える程度だろう。


それよりも、火のついた黒サソリが攻撃を続行してくる場合が危険だろうか。


バリケードが無い状態で毒針攻撃をされてしまえば、今度こそ僕は死んでしまう。


そんな捨て身の策を考えていたら、黒サソリが攻撃を止めて、ガサガサと音を立てて遠くへ行ってしまった。


「助かった・・?」






気が付けば空は既に白み始めており、朝日は射していないものの、森の方角の空は僅かに赤く色づいている。


随分と長い時間バリケード越しの攻防を繰り返していたのだろう。


人間は最も持久力に優れた動物だと聞くが、人間の持つ持久力が黒サソリの持久力を上回ったのだろうか。


それとも、一般的に夜行性と言われるサソリにとって、この朝の兆しが撤退の判断基準となったのだろうか。


ともかく、バリケード越しの粘りが、黒サソリを諦めさせたのだ。


「頑張った・・・僕、頑張った・・・。」






先ほどまで捨て身の策を実行しようかと考えていたことに、胸の鼓動がバクバクしている。


捨て身にならなければならない日も、いつかは来るだろう。


今日は、たまたま運がよかった。


もう少しで死ぬところだったのだ。






木の枝を持っていた手が震えだし、視界が霞み涙が頬を伝う。


「あ、あれ、おかしいな。」


僕は、こんなに涙脆く無かったはずだ。


震える手で涙を拭うが、流れる涙は止まらない。


こんなに涙が止まらないのは、5歳児の肉体だからなのだろうか。


ボロボロと大粒の涙が、渇いた荒野に染みをつくっていく。


「うわああぁぁぁぁぁああん!!」


僕は、大声で泣いた。

【持ち物】

白い布

蔦の命綱

木の枝×150

アカシアの枝×100


【スキル】

木登りLv.1

崖登りLv.0

火おこしLv.1


【生産】

蔦の命綱

アカシアの防護柵

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