第二十四話「火おこし」
火おこしには、錐揉み式と呼ばれる原始的な発火方法を用いる。
錐揉み式とは、木と木を擦り合わせることで発生する摩擦熱を利用した発火方法である。
この発火方法は、擦り合わせるのに必要な“木の板”と“真っ直ぐな木の枝”という二つの道具さえあれば火おこしが可能となるので、最も手軽な火おこしの方法の一つと言えるだろう。
しかしながら、今回は“木の板”の用意が無いので、木の板の代用として“太い木の枝”を使う。
「石斧欲しいなぁ。」
残念なことに、現在の持ち物では“太い木の枝”を“木の板”に加工することすら叶わない。
やはり、石斧は早めに作った方がいいのだろう。
“太い木の枝”を石斧で縦に割ることさえできれば、“木の板”を作ることは簡単なのだ。
錐揉み式の火おこしをする前に、焚火用の木を組んで火床を作っておこう。
あらかじめ焚火用の木を組んでおくことで、起こした火種をスムーズに焚火の炎へと育てられるように準備しておくのだ。
まずは、バリケードの中心20cm四方に、拳サイズの石を円形に並べていく。
焚火をするのに石は不必要にも思えるが、これは、焚火の炎に風が直接吹き込まないようにするための必要な措置である。
もしも寝ている間に焚火の炎が風に吹き消されてしまえば、夜の闇の中で火おこしを成功させる自信は無い。
続いて、円形に並べた石の中に10本ほどの木の枝を放射状に並べる。
この10本の木の枝が、焚火の薪となるのだ。
なお、薪となる枝には、なるべく燃えやすそうな細い枝を選んでいる。
最後に、放射状に並べた薪の真ん中に一掴みの枯草を置いて、焚火の火床は完成である。
このような枯草はすぐに燃え尽きてしまうので薪としての性能は低いが、こと燃えやすさに関しては薪よりも遥かに優れているのだ。
それでは、錐揉み式の火おこしを始めよう。
“太い木の枝”を地面に置き、地面に置いた枝に対して垂直に“真っ直ぐな木の枝”を突き立てる。
後は、“太い木の枝”を足で踏んで固定し、“真っ直ぐな木の枝”を手の平で回転させて摩擦していくだけである。
“真っ直ぐな木の枝”を高速で回転させ、摩擦熱で“太い木の枝”と接触している部分の温度を上げていく。
木材の発火温度は400度以上とされており、火種が起こるまで手を休めることは許されない。
“太い木の枝”と“真っ直ぐな木の枝”の接触部分に、摩擦によって生じた大鋸屑が溜まっていく。
この大鋸屑の温度が400度以上になれば燃焼が開始されるのだが、果たして火を起こすことは可能なのだろうか。
火おこしの知識はあるものの、僕に火おこしの経験は無い。
火が起こせなかったらと思うと、とても怖い。
がんばろう。
「あ、煙だ。」
僕の不安とは裏腹に、煙が上がるのは早かった。
火おこしを始めて、わずか2分から3分といった所である。
この荒野の乾燥した気候のおかげで、僕のような素人でも簡単に火種を作れたのだろう。
思い起こせば、荒野を歩いて集めた木の枝は、僕の予想以上に乾燥していたのだ。
岩山を登ってきて本当によかった。
それでは、煙が出ている内に、急いで煙を火へと変えてしまおう。
“太い木の枝”と“真っ直ぐな木の枝”の接触部分には、赤黒い炭の粉末が煙を上げている。
これが、摩擦によって燃焼を始めた大鋸屑である。
この煙を上げているだけの大鋸屑は、とても繊細で消えやすく取り扱いには十分な注意が必要とされている。
たとえ、このまま焚火用に組んだ薪の上に大鋸屑を乗せたとしても、煙は薪に燃え移ること無く瞬く間に消えてしまうだろう。
このような時、太陽の光を受けて十分に乾燥した枯草は、煙を火へと育てる上では欠かせない火口となる。
火床の中心に置いてある一掴みの枯草の中に、煙を上げながら赤黒く燃焼している大鋸屑をそっと入れて息を吹きかける。
鳥の巣のように密集した一掴みの枯草は、枯草一本一本の繊維の細さも相まって、空気と触れている表面積が大きく燃えやすい。
酸素の供給を受けた大鋸屑が、燃焼を大鋸屑から枯草へと移し、炎を上げて枯草を燃やす。
炎が上がれば、後は枯草の下に並べられた薪へと燃焼が広がるのみである。
そして、枯草の炎は薪へと燃え移り焚火となった。
暖かい炎の光が肌を照らし、パチパチと音を立てて木が燃えていく。
火おこしが成功したので、これで寝床は完成である。
横になって寝転がり、腕枕をして炎を見つめる。
これが、僕の起こした炎なのだ。
感動である。
【持ち物】
白い布
蔦の命綱
木の枝×150
アカシアの枝×100
【スキル】
木登りLv.1
崖登りLv.0
火おこしLv.1←NEW
【生産】
蔦の命綱
アカシアの防護柵




