第四章 友達ができました
「みゃー、みゃー!」『ごっはーん!』
「うう……また三時……」
真夜中。また、私は起こされた。
時計を見る。時間は夜中の三時。
これで三日連続だ。もしかしなくてもリュカは、夜中の三時が朝ご飯の時間だと思っているのではないだろうか。
「リュカ……三時は朝ご飯の時間ではないのよ……」
「なうーん!」『ごはーん!』
「だから……違うの」
こういう時、一方的にしか言葉が分からないのは不便だなと思う。言い聞かせることができたらどれだけ楽か。
普通はできないことと分かってはいるけれど、向こうの声が聞こえるだけに、こちらの声も届けることができればなんて思ってしまう。
「リュカ、駄目。我慢して」
「なっ!」
ベッドの下で鳴いていたリュカが、上に飛び乗ってくる。チリンと首輪に付いている鈴がなった。どうやらリュカは首輪に慣れてくれたようで、あれからは全く首輪を気にしなくなったのだ。それは良かったけれど、今、非難の目で見られているのは辛すぎる。これはさっさとご飯を寄越せという顔だ。間違いない。
「なうっ、なぅっ、なーうー!」
タシタシと尻尾をリネンに叩きつける。一緒にリンリンと鈴が鳴った。不満を訴えているのはよく分かるし、言いたいことも分かっているが、ご飯を上げることはできないのだ。
だって昨日アステール様に言われた。猫は、強請ればもらえると覚えるのだと。そして現状、リュカはご飯をもらえる気で私を見ている。すでに癖付けされかけていると考えて間違いないだろう。
このままでは私は毎日夜中の三時に起きて、リュカに餌をやらねばならなくなってしまう。それは是が非でも避けたかった。
「駄目。朝まで待って。朝になったらちゃんと上げるから」
「ふなーん!」『ごはん!』
「うう……全然分かってくれてない」
リュカの声は聞こえるので、こちらの言っていることを理解していないのは分かってしまう。辛い。
私はベッドに潜り込み、頭まで掛け布団を被った。こうすれば少しはマシだろう。
リュカの声が聞こえないように両手で自分の耳も押さえる。
「にゃあ? にゃあ! なーん!」
「……めちゃくちゃ聞こえるわ」
多少耳を塞いだくらいでは効果はなかった。なんとかもう一度眠りにつこうと試みるも、リュカの大きな声のせいで寝られない。あと、時折チリンと聞こえる鈴の音も地味に鬱陶しかった。
「うう……お願いだから大人しくして。私を寝かせて……」
リュカは可愛いが、睡眠時間を削られるのは辛い。
もう、ご飯をやってしまってもいいのではないだろうか。安眠したいあまり、そんなことまで考えてしまう。
それはいけないとアステール様に言われているから我慢しているが……正直言って、この状況は辛い。
「リュカ……無理なの。分かって……」
ぎゅうっと目を瞑り、リュカの切ない鳴き声を無視する。
リュカはそれから三十分ほどアピールするように鳴き続けていたが、もらえないと理解したのかようやく鳴き声が止まった。
「……良かった」
ホッとし、布団から顔を出そうかと思ったが、止めておいた。
顔を出し、もしリュカと目が合ったらどうするのだ。せっかく大人しくなったのにまた鳴きだしたら……明日の私の体調が最悪なものになる。
――今日はこのまま寝よう。
少し暑いが仕方ない。
朝まで鳴かないで欲しいなあと心から思いながら、私はもう一度目を瞑った。
◇◇◇
次の日、私は寝不足を感じながらもなんとか遅刻せずに学園に行くことができた。
昨日聞いていたとおり、アステール様の迎えはない。
ひとりで公爵家所有の馬車に乗り、学園に行く。ひとりでの登校を良いことに、馬車の中でうとうととしていた。
「……眠いわ」
変な時間に起こされたせいで眠くてたまらない。睡眠不足のせいか、頭もグラグラしているような気がした。
休めるものなら休みたいくらいだ。だが、理由が『夜中に猫に起こされたから』では難しい。諦めて授業を受けるしかなかった。




