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「そろそろ出ようか」
「え、あ、はい」
アステール様に話し掛けられ、返事をする。
もう? という気持ちだったが、アステール様に言われた。
「二時間以上経っているから。さすがに、ね」
「え……」
慌てて時計を確認する。確かに入店してから二時間以上が経過していた。
「嘘……」
確かにのんびりした気持ちで過ごしてはいたけれど、こんなに時間が経っていたとは思わなかった。
吃驚しつつも帰る準備をし、料金を支払って外に出た。
「楽しかったです……」
ほう、と息を吐きながらアステール様に言う。
猫たちとまったりと過ごす時間は癒やしでしかなく、自分の猫と過ごすのとはまた違った楽しみ方があった。
特に最初に私のところに来てくれたモモという猫は、そのあとも何度かやってきて、最後には膝の上で寝てくれた。
こういう場所で暮らしている子だから慣れているのかもしれないけれど、ちょっと感動した。帰りは寂しそうな顔をされ(気のせいだとはさすがに思う)とても離れがたかった。
「……猫カフェって癖になるんですね。また行きたいって思ってしまいました」
店を出て、すぐにそんなことを言い出す私に、アステール様は苦笑した。
「ずいぶんとあのモモという子に好かれていたものね。私も楽しかったし、また近いうち、遊びに来ようか」
「良いんですか? 嬉しいです」
「スピカとデートできる機会は積極的に増やしていきたいからね。さて、飲み物しか口にしていないからお腹が減ったでしょう。今度は普通のカフェに行こうか」
「はい」
確かに休憩はできたけれど、食べ物は食べてないのでお腹はかなり空いている。
猫カフェには食べ物ももちろんあったのだが、なんとなく遠慮したのだ。
もし、猫たちが来て、口に入ってしまったらと思うと、怖くて注文できなかった。
もちろんちゃんと躾けされていることは分かっていたのだけれど、どうしても気が進まなかったのだから仕方ない。
アステール様とまた手を繋ぎ、多分事前に調べてくれていたのであろうカフェに入る。
カフェで食事をし、外に出た。
「次、どうしますか?」
帰るにはまだ早いと思いつつアステール様に尋ねると、彼は笑って言った。
「そうだね。次は、いつもとは違うペット用品店に行ってみようか。シリウスがよく行く店を聞いてきたんだ」
「シリウス先輩の行きつけ? はい、行きたいです!」
シリウス先輩が贔屓にしているペット用品店。前々から気になっていたので、案内して貰えるのが嬉しい。
普段は通らない道を歩く。賑わっている場所から少し離れたところにその店はあった。
「わ……」
思っていた以上に大きい。
町の中心部から離れているので安く土地を使えるのだろう。私が通っている店の二倍は敷地面積があった。店の前には三台分、馬車を停めるスペースがある。
店は二階建てで、建物はまだ新しい。できて数年……といったところだろうか。
ペット用品店ニャンゴ。
店の入り口には大きな看板が掲げられ、店名が書かれてあった。
「こんな大きなペット用品店があったんですね……」
いつも、賑わっている場所しか行かないから、知らなかった。
吃驚しながらアステール様に言うと、彼も驚いたように言った。
「シリウスからかなり広い店だとは聞いていたけど……これはすごいな。スピカ、早速入ってみようか」
「はい!」
ワクワクしながら頷く。
初めて入る大型店に期待しかなかった。
「いらっしゃいませ~!」
両開きの扉を開け、中に入る。
店内は明るく、ペット用品で溢れていた。思っていた以上に広い。中には客らしき人たちが何人かいて、真剣に商品を選んでいた。
「本日は何をお求めですか?」
男性店員が笑顔で声を掛けてくる。その言葉に少し考え、返事をした。
「えっと……そう、ね。猫用のケージがあれば見たいんだけど」
ノヴァ王子の部屋に置いてある猫用ケージ。
あれを見た時から私は真剣に導入を考えていたのだ。
ケージは猫にとって、決して嫌なものではないと知ったのが、購入を決めた決定打だった。
今度、ペット用品店に来たら見てみよう。そう考えていたのを思い出して告げると、店員は愛想良く頷いた。
「猫用のケージですね! あちらに置いてありますので、どうぞ。ご案内致します」
店の奥へと歩いて行く店員。その後を私とアステール様はついて行った。
歩きながらアステール様に言う。
「すみません。ケージが見たいなんて言ってしまって……」
「いや、君が導入を検討していたのは知っているからね。ちょうど良いんじゃないかな。目的がないよりはある方が見るのも楽しいし」
「ありがとうございます」
ケージが置いてあるというコーナーに案内されながら、キョロキョロと店内を観察する。
本当に広い。私が使っている店もかなり広いと思っていたが、ここはそれ以上だ。
シリウス先輩が愛用しているというのも頷ける。
実は最近、リュカがおもちゃに飽き気味で、新しいものがないかと探していたのだ。ここならまだ使ったことのないおもちゃが見つかるかもしれない。
ケージを見た後に聞いてみようと思った。




