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先週は体調を崩し、更新できませんでした。申し訳ありません。

◇◇◇


「ここ、ですか?」


 アステール様が案内してくれたのは、大通りから少し外れた場所にある小さな宝石店だった。

 エルリッヒ宝石店と書かれてある。初めて見る店だ。

 建物は古びているが、小綺麗な印象。茶色い扉をアステール様が躊躇なく開ける。

 中には店員がひとりいて、アステール様に気づくと目を丸くした。


「おやおや、まあまあまあ……」


 白い髭を蓄えたかなり高齢のお爺さんだ。まるぶちの眼鏡を掛けている。


「どなたかと思ったら、アステール殿下ではありませんか」

「久しぶりだね、エルリッヒ。お前が店を持ったと聞いたから来てみたよ」

「おお、わざわざ私の店にですか。ありがとうございます」


 穏やかに会話する二人を見る。どうやらふたりは知り合いらしい。親しみのある話し方は既知の人物に対するものだ。

 アステール様が振り返り、私に言う。


「ここは、王家御用達の宝石店なんだ。今はエルリッヒの息子が城に上がっているけど、少し前まではエルリッヒが来ていたんだよ」

「いい加減、引退の時期だと思いましてな。私はゆっくりと店番、くらいがちょうどいいのですよ」


 にこにこと笑うエルリッヒさん。

 しかし、王家御用達の宝石店がこんな目立たないところにあるとは意外だった。

 その思いが顔に出てしまったのか、アステール様が苦笑した。


「エルリッヒはかなりの頑固者でね。客を選ぶタイプの職人なんだ。だから目立たないところでひっそりとやってる。でも、腕は確かだよ」

「そうなんですね……」

「彼の作品が私は好きでね、スピカとお揃いのものを欲しいと思った時から、ずっとここに来ようと思っていた」


 笑みを浮かべるアステール様を見つめる。

 どうやらこの店は彼にとって思い入れの深い場所のようだ。そんなところに連れてきてもらえたことが嬉しかった。

 アステール様から指名を受けたエルリッヒさんも、かなり上機嫌だ。


「なるほど。噂の婚約者様が彼女ですか?」

「うん。今日はお揃いのアクセサリーを買おうと思ってね。君の店に来たんだよ」

「殿下にご指名いただけるとは光栄ですな。こちらもとっておきのものをお出ししなければ」


 何度も頷き、エルリッヒさんは店の奥へ入っていった。

 どうやらお勧めの品を持ってきてくれるらしい。

 その間に店内を観察させてもらうことにした。


「……」


 店内にはいくつかショーケースがあり、その中には指輪やピアス、ネックレスといった貴金属が並んでいた。

 美しい細工が目を引く。細かい彫りは、まさに職人技と呼ぶに相応しい。

 大きな宝石が使われたものもあれば、小さな宝石をいくつも使っている商品もある。

 どれもため息が出るほどに美しかった。

 値段は書いてない。価格を見て買うような店ではないということだろう。


「お待たせしました」


 キョロキョロと店内を見回していると、ふかふかのトレイを持ったエルリッヒさんが出てきた。その上には何種類かのアクセサリーが載っている。

 指輪にネックレス、ブレスレットもあった。どれも揃いで作られているようだ。


「殿下にお勧めできるのは、この辺りですな」

「……綺麗」


 見せて貰ったアクセサリーはどれもとても綺麗だった。

 エルリッヒさんがまずはと指輪を手に取る。


「これはバイオレットサファイアという紫色のサファイアを使った指輪です。透明度が高く、色鮮やかでしょう? この宝石の良さを引き出すことに苦心しましたが、我ながら自信作に仕上がったと思います。男性用のものは少し太めに、女性用のものは細めに作っています。これが一番のお勧めですな!」


 ネックレスやブレスレットの説明をする前に、一番のお勧めだというエルリッヒさん。

 きっと正直な人なのだろう。説明を聞いたアステール様も苦笑している。


「エルリッヒ、お前は相変わらずだね。その指輪を私たちに勧めたいのかい?」

「ネックレスもブレスレットも自信作ですが、この指輪には劣ります。というか、指輪があまりにも良い出来なので、変な人物に売り渡したくないのですよ。その点、殿下になら安心してお譲りできる」

「なるほど」


 アステール様は頷き、私の方を見た。


「スピカ」

「はい」

「君は、この中にいいなと思うものはある?」

「へ……え、いや、どれも素敵だなと思いますけど……」


 実際、ネックレスもブレスレットも素晴らしかった。ダイヤがメインのブレスレットに、アメジストの輝きが美しいネックレスは、質の高い出来映えで、アステール様が身につけてもおかしいとは思わない。

 そういうことを説明すると、アステール様は「君は?」ともう一度聞いてきた。


「え、いや、ですから……というか、アステール様、忘れていませんか? 今日はアステール様の誕生日プレゼントを買いに来たんですよ。アステール様が選んで私が買う。そうでないとおかしいじゃないですか」

「何もおかしくないよ。私はスピカが選んでくれたものが欲しいって思うから。それにお互いにお互いのものを買おうって話をしたばかりじゃないか。私は誕生日プレゼントとして、スピカに選んで貰いたいし、スピカに贈るものはスピカが欲しいものを買いたい」

「それ……ずるいです……」


 結局、私が全部選ぶことになることに気づき指摘すると、アステール様は笑って言った。


「駄目?」

「駄目、ではないですけど……先ほども言った通り、どの作品も素敵だなと思うので、選べと言われても難しいんです」


 改めて、三つの作品を見つめる。

 ネックレスとブレスレット、そして指輪。

 どれも甲乙つけがたい。

 困り切っているとアステール様が言った。


「じゃあ、一緒に考えようか」

「一緒に?」

「うん。まずは……ネックレスかな。お互い、付けているところを想像してみよう。私としては常に身につけて貰いたいと思うんだけど、制服を着ると、見えなくなってしまうね」

「あ……そうですね」


 確かに。

 制服は首元まできっちりと詰まっている。ネックレスなんて見えるはずもない。


「だから、ネックレスは止めにしよう。次はブレスレット。これはどうだろう」

「……身につけることに問題はないと思います」


 細い金細工のブレスレットを見つめる。ダイヤがキラキラして美しい。

 これが手首にあればとても綺麗だし、映えることだろう。


 でも――。


「こういう細い鎖って、リュカが反応しやすいんですよ。ですから、リュカが攻撃してこないかなと不安になります。万が一それでブレスレットが壊れても嫌だし、壊れた部品をリュカが口にしても困りますね……」



諸事情により、3巻発売日が8/1に変更になりました。よろしくお願いいたします。

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