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「……」


 アステール様が本気で言ってくれているのが伝わってくる。


「だから、その続きは私に任せて。スピカのために私も一生懸命プランを考えてくるから。ね?」

「……はい」


 それがアステール様の望みならばと頷く。

 まさかデートプランをアステール様にお任せすることになるとは思わなかったので、驚きだ。だけど、だからこそ、彼がとても喜んでいるのだというのが分かって嬉しかった。

 当日、アステール様はどこに私を連れて行ってくれるのだろう。その日が今からとても楽しみだ。


「……アステール様にお任せします。ですがひとつだけ。アステール様の誕生日プレゼントを一緒に買いに行くのが目的なのですから、そこはちゃんとプランに入れておいて下さいね」

「もちろん。私も楽しみだからちゃんと時間を作るよ。スピカと店を回るの、楽しみだね」

「はい」


 はにかみながらも頷くと、アステール様は愛おしげに目を細めた。

 そっと私を引き寄せ、優しい手つきで頭を撫でる。


「可愛い、スピカ」


 その声が砂糖を限界まで溶かし込んだミルクのように甘くて、恥ずかしくて、だけど同時にとても嬉しく思う。

 アステール様が私を好きだと思ってくれている。それを感じることができて嬉しいのだ。

 ゆったりとした時間が流れる。アステール様が私の身体を離し、ベンチから立ち上がった。


「まだ時間もあるし、一度リュカの様子でも見に行こうか」

「リュカの……良いんですか?」

「もちろん。気になるだろう?」


 アステール様に手を差し出され、その手を握る。

 彼が言うとおり、リュカのことはかなり気になっていた。ミミとトトと一緒とはいえ、あまり知らない場所に残されたのだ。不安がってはいないだろうかと心配だったのだ。

 もちろん、勝手に見に行くことなどできないので、できるだけ気にしないようにはしていたのだけれど、こうしてアステール様から提案してもらえたことは本当に有り難かった。


「様子を見に行けるのは嬉しいです。ありがとうございます」

「リュカが鳴いていたら可哀想だからね。スピカが少し顔を見せてやるだけでも大分違うんじゃないかな」

「リュカはアステール様のことも好きですから、アステール様の顔を見てもホッとすると思いますよ」

「そう? それは嬉しいな」


 ふたりで話しながら、一旦、大広間に戻る。

 リュカがいる部屋の主はノヴァ王子だ。様子を見に行ってもいいか、許可を貰おうと思っていた。

 まだシリウス先輩と話していたノヴァ王子を見つける。周囲にティーダ先生やソラリスはいない。帰ったか逃げたか。

 どちらかは分からないが、友人が捕まっていなければいいなと思う。


「ノヴァ」

「兄上?」


 アステール様が声を掛けると、シリウス先輩と話していたノヴァ王子がこちらに向く。

 兄の姿を見て、笑顔になった。


「もう良いのですか? もっとゆっくりされてこられるのかと思っていましたが」

「それも悪くないんだけど、やっぱりリュカのことが気になるからね。一度様子を見に行きたいんだけど構わないか?」

「リュカの? でも、そうですね。オレも二匹が気になりますし、一緒に行きますよ」


 シリウス先輩に断り、ノヴァ王子がこちらに来る。

 ミミとトトも飼い主であるノヴァ王子を見れば喜ぶだろう。それならと三人で廊下を歩いていると、城の侍従がひとりこちらに近づいてきた。


「ノヴァ殿下」

「?」

「お探ししておりました。こちらをお届けするよう命じられまして」

「手紙?」


 ノヴァ王子に声を掛けた侍従は、白い封書を彼に渡した。そうしてホッとした様子で一礼し、去って行く。無事、与えられた任務を果たせて良かった。そんな風に見えた。


「手紙って……誰からだろう」


 首を傾げつつ、ノヴァ王子がその場で封を開ける。中に入っていた便箋を取り出し、一読した。その顔色が傍目にも分かるくらいに変わる。


「っ……!」

「ノヴァ? どうした? 手紙に何か書いてあったのかい?」


 動揺したのか、ぐしゃりと手紙を握り潰したノヴァ王子。尋常ではない弟の様子が気になったのだろう、アステール様が声を掛けた。

 ノヴァ王子がハッとしたようにアステール様を見る。

 焦ったように口を開いた。


「い、いや、ちょっとした伝言が書いてあっただけです。そ、その……申し訳ありませんが、リュカの様子を見にいくのは、少し待ってもらえませんか。どうやらミミとトトが部屋で暴れ回っているらしくて、先にオレだけで見てきますから」

「暴れてる? 大丈夫なのかい? それなら余計、私たちも行った方が良いのでは?」


 アステール様の言葉に、私も頷いた。

 子猫が暴れ回るのはよくあることだけれども、そこにはリュカもいるのだ。リュカがどんな様子なのか余計に気になった。

 だがノヴァ王子は頑なに首を横に振り、言う。


「と、とにかく、オレが様子を見に行ってきますから。す、すぐに戻ってくるので兄上たちはここで待っていて下さい!」


 そうして私たちを置いて、自分の部屋へと走っていってしまった。


「え……」


 まさか廊下の真ん中で置いて行かれるとは思わず目を瞬かせる。

 あの手紙が来てから、ノヴァ王子は明らかに挙動不審になった。何か、良くないことでも書いてあったのだろうか。

 とはいえ、このまま大人しく待っているのも余計に気になる。だが、ノヴァ王子の部屋に勝手に押し入るわけにもいかないだろう。彼は第二王子だ。リュカを預けているとはいえ、勝手に部屋に入ることは許されない。


「アステール様……」


 どうするべきかとアステール様を見る。

 私の視線を受けたアステール様は頷いた。


「……ノヴァには止められたけど、一応あいつの部屋の前まで行ってみよう。子猫たちが暴れた、なんて言っていたけど、あの様子じゃどこまで本当かも分からないし、リュカがどうしているか気になるから」

「はい」


 そう言って貰えてホッとした。

 兄であり、第一王子であるアステール様なら、ノヴァ王子の部屋に行ったところで咎められることはないからだ。

 気を取り直し、ノヴァ王子の部屋へ向かう。少し早足になるのは、リュカに何かあったのではないかと気になっているからだ。

 無言で歩き、ノヴァ王子の部屋に着く。それと同時に、扉が開き、ノヴァ王子が出てきた。



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